【美味しいか審議 03】

「話は聞いている。お前が新しいハズレ異世界人か!」

 薄暗い階段を下りた先には小部屋があり、そこで待ち構えていた男は、ぶくぶくと太った中年だった。

 裾の膨らんだブラウスに細かい刺繍が入ったベストを着ており、身なりはいいように感じたが、下卑た表情がそれを台無しにしている。

 手には馬の調教に使うような鞭を持っていた。恋唯を威嚇するように、パシッ、パシッと音を鳴らしている。

「貴方がイストさんですか。ええと……まだよく状況が分かっていなくて。私はこれからどうしたらいいのでしょうか?」

 ろくな予感はしなかったが、恋唯は一応尋ねてみた。

「お前、歳は?」

「25です」

「結構いってるなあ。それにしては顔つきが幼い。お前もニッポンという国の出身か?」

「あ、はい。他にも私と同じ国の方がいるんですか?」

 そう言えば、異世界なのに言葉が通じているなと、恋唯は今さら疑問に思った。

 そもそもこの人はいくつくらいなのだろう。恋唯より相当年上なのは確かなのだが。

「召喚されてくる者たちは多種多様だ。お前と同じ国の出身者は、年齢の割には若く見える者が多くて、肌触りもなかなか良い。気に入っておる」

「はあ」

 肌触りとは、と恋唯は思ったが、黙っておいた。もう悪い予感しかしない。

 イストの背後には木の扉があり、どこかに通じているようだった。階段を戻っても恐らくは兵士たちがいる筈だ。

 ハズレ認定された異世界人は恋唯の他にもいるようだし、あの扉の奥で、他の人に会えたりしないだろうか。

「お前は……うん、ほっそりしているが、わりと胸がデカイな。顔が地味なわりにいいものを持っているじゃないか」

 じろじろと全身を見回され、今どき会社で口にすれば一発アウトな発言をしてくる。

 この国は男尊女卑なのだろうか。それともこのイストという男が無遠慮なだけか。

「よし、じゃあまず脱げ」

「え?」

 突然命令されて、恋唯は唖然とした。イストはニヤついた表情のままだ。

「神官から説明されているだろう? お前みたいな使い道がないハズレ女は、俺がまとめて面倒を見ているんだ」

「はい。聞いていますが、何故……」

「ハズレ異世界人は俺の奴隷になる。兄上……国王とは、そういう約束になっているんだ」

 パシン、パシンと鞭がしなる。

 まるで言うことを聞かないと、これで叩いてやるぞとでも言うように。

 

「まずは服を脱いで、床に四つん這いになってもらおうか?」

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