広角と望遠——レンズ特性の違い

 最近のスマホだと【超広角ちょうこうかくレンズ搭載!】ていうのが売り文句になってませんかね?


 今までの通常画角レンズだと自撮りしても友達が見切れちゃう。でも超広角レンズならほらこのとおり友達全員画面におさまる!

 みたいな。


 広角レンズっていうのはその名の通り【撮影できる角度が広い】レンズです。全く同じ位置から同じ人物を撮っても、通常画角レンズだと足先が見切れちゃう。でも広角レンズなら頭のてっぺんから足の先まで全部入る。

 広い範囲を写せるのが広角レンズです。スマホで写真を撮る時にはまことに便利なレンズなのです。


 しかし弱点もあります。というよりレンズの特性ですかね。

 レンズが広角になればなるほど、画面の中央が膨らんで見え、画面の端がゆがんで見える——というもの。


 これはレンズである以上、どんなカメラでも必ず起こります。レンズというのは球面である以上、写るに必ず歪みが生じます。これは広角レンズでも望遠レンズでも、どんなレンズでも必ず起こります。


 ただ広角レンズは一層その特性がわかりやすいというだけで。

 1枚のレンズでより広範囲を写せる代償として、中央や端っこがゆがんでしまうのです。これを極端にしたのが魚眼レンズってやつですね。超広範囲を写せる代わりに、画全体がなにやら丸っこくなってしまうという。


 ただまあ最近のスマホだとこの辺の歪みをAIが補正してくれてるみたいですが、それでも完全じゃありません。

 つまり皆さんがいつもスマホカメラでやってる自撮り——あれは実物より顔が丸く写っているのです。AIがそれを補正してくれたとしても、補正にはどうしても『不自然さ』がつきまといます。今の技術なら限りなく自然に仕上げてはくれますが、人間の感覚っていうのは非常に敏感です。


 本物のようだけど微妙に違うものを目にしたとき、不気味に思えてしまうのです。

 これを【不気味の谷】といいます。造られたものが本物に近ければ近いほど、これはなんか違うな? と感じてしまうのです。


 なので、人物写真ポートレートを撮るときには望遠ぼうえんレンズを使うと、全体的にシュッとした印象に仕上がります。


 そう、これも高倍率ズーム機デジカメの出番です。こいつなら広角だろうが望遠だろうが自由自在。鳥や星や背景だけでなく、人を撮るのにも使える万能選手なのです。


 ◆ ◆ ◆


 最近のスマホだと【ポートレート写真で背景がボケる!】ていうのが売り文句になってませんかね?


 ボケというのは、被写体だけがくっきりと写っているのに、その背景がぼんやりとした状態の写真です。背景なんかは何となく認識できるけど、街灯や看板など光っているものがことごとく光の玉っころみたいになってしまうあれです。


(余談ですがこの背景がぼやけるという意味での【ボケ】という言葉、英語でもそのまま【Bokehボケ】で通用するらしいですね)


 これは、ピントの合っている距離(通常は被写体)だけがくっきりと写り、それ以外の距離にある物体が全てぼやけて見えることです(奥も手前も被写体以外は全てボケる)。純粋に距離で起こる現象なのです。


 これもスマホだとなかなか再現が難しい写真なんですよね。

 最近だとAIが写真の中の被写体と背景を自動で分析してくれて、それを元に背景を綺麗にボケさせてくれる、ってのがあります。しかしやっぱり不自然さがぬぐえないんですよね。


 たとえばサクラの花を撮るとしましょう。

 サクラって1本の枝にぶわっとまとまって咲いてますよね。そんな枝が数十本も立体的に入り乱れているのが実際のサクラの木です。


 で、AIが『どこからどこまでが被写体だ』と決めるのに迷ってしまうんですよね。実際の作例でいいますと、一番手前にある花と、ちょい奥にある花の両方にピントが合ってて、それ以外は綺麗にボケている——というどこか不自然な写真ができあがってしまったり。本来なら一番手前以外は全てボケてなければいけないのに。


 それならばと画面内に枝が1本、花もひと房しかなければ迷いようがないだろうと撮ってみる。そうしたら全てほぼ同じ距離にあるはずの、特定の花だけにピントが合っていてい、それ以外の全ての花がボケてしまっていたりもします。ボケは距離によって起こる起こらないが決まる物理現象なので、基本的にこれもあり得ないのです。


 しかしAIにはそんな機微はわからない。まだまだ発展途上の分野なのです。

 自然に起こる物理現象と、それをデジタル世界で再現しようとするAI。やはりまだまだ自然を上回ることはないようです。


 で、このボケもカメラのレンズ特性に関係しています。

 写真がどのくらいボケるのかは【被写界深度(ひしゃかいしんど)】というものが大事です。


 被写界深度というのはざっと説明すると——。

 広角レンズより望遠レンズで、

 しぼり値(F値・いわゆるレンズの明るさ)を高く(数値としては低く)設定して、

 被写体の近くから撮影すると、

 被写界深度が浅く(レンズがピントを合わせられる距離が短く)なります。


 そうすると被写体の前後にあるものへピントが合わなくなり、お見事キラキラ綺麗にボケます。

 スマホでもある程度はできるけど、未だ再現の難しい分野、ボケる写真。


 これも【高倍率ズーム機デジカメ】なら簡単に撮れてしまうのです。ポートレート写真を最大の40倍ズームで撮れば、そりゃもう人物以外は綺麗にボケます。背景が光の玉でキラキラです。プロの撮った幻想的なアイドル写真なんかも、だいたいはこの被写界深度を浅くして撮っているのです。


 まあプロ用機材では無いにしろ、そこそこのボケ写真が撮れるこの名機SX720HS(もしくは似たような高倍率ズーム機)を胸ポケに忍ばせておけば、いつでもボケ写真が取り放題なのです。


 ◆ ◆ ◆


『このご時世にこんなにも外出している人がいる! けしからん!』

 とか、以前マスコミでニュースになっていませんでしたかね?


 ほら、商店街やら駅の通路が人でみっちり埋まっている写真と共に報じられた——1年やら2年前のニュースがよくあったでしょう。

 なんで世間が大変な時期なのに自粛しないんだ! というニュアンスの。


 当時のマスコミのそういう写真の、ネタばらししている人はいました。

 そう、これも望遠レンズによるトリック撮影だったのです。


 レンズには【圧縮効果】というものがあります。

 これは、望遠レンズで撮影すると画面内の距離感がなくなっていく、というものです。


 人間の眼ではなかなか再現できない、レンズ特有の面白い現象がどんな理屈で起こっているかというと。

 手前にあるものも、奥にあるものも——画面内にある全てのものが同じ距離に存在しているかのように、距離感をなくしたかのように写ってしまう。それが望遠レンズによる【圧縮効果】なのです。


 で望遠レンズのそういう減少を利用して、自粛期間中で人がパラパラとしかいない証言外を写すとなにが起こるかというと——。


 たとえば、商店街の直線通路が200メートルだとしましょう。そこに50人しかいなければ、かなりガラガラに見えるはずです。50人ということは25組。それが200メートルもの距離に散らばっているんですから、8メートルに1組という距離感です。両腕を目一杯に伸ばしても隣の組には届きもしません。ガラきです。


 実際、自粛期間中はこれくらいしか商店街に人がいませんでしたよね?

 ではそんな人もまばらな商店街の通路を、圧縮効果を最大限に活かした望遠レンズで撮影するとどうなるか。悪意ある目線で、意図的に圧縮効果を利用して撮影するとどうなるか。


 圧縮効果により、人と人の距離というものがぐっと縮まって見えてしまうのです。全長200メートルに散らばっていた50人が、まるで商店街の1箇所に群がっているように写ってしまうのです。

 そして見事『自粛期間のくせに商店街へ群がっている愚かな民衆』という画ができあがるのです。


 これが望遠レンズによる圧縮効果——というなかばトリック撮影です。

 でもこれは悪いことばかりじゃありませんよ。悪用しようとすれば悪用できるというだけで、素敵なことの方が多いのです。


 例えば有名どころでいうと、街のすぐ背後に富士山がそびえ立っているダイナミックな写真とか。これも圧縮効果を利用して、街と富士山の距離感を消したからこそ撮れる写真です。


 他にも、名城のすぐ上に浮かぶ、不自然なほど大きな満月。これも圧縮効果によって城と満月の距離感が消えて、双方が同じ位置に並んでいるように見えるのです。

 このように、望遠レンズによる圧縮効果っていうのは背景写真を撮るときに劇的な効果を発揮します。


 顔が丸くならないシュッとしたポートレート、綺麗な背景の玉ボケ、そして圧縮効果による壮大な風景写真——望遠レンズを持ち歩くだけでこれだけの楽しみが待っています。


 しかしプロ用のカメラの望遠レンズというのは本当にデカい、そして重い。

 そんな望遠レンズを、胸ポケに入る大きさで持ち歩けるので、高倍率ズーム機デジカメってのは便利ですよ。もちろん本格的なカメラには画質が劣りますがね。素人にはこれで充分! フットワークの軽さこそがこういう機種最大の武器なのですから。


 ◆ ◆ ◆


 このように、高倍率ズーム機デジカメで広角と望遠レンズの使い分けを知ると、写真の可能性は無限に広がっていくのです。

 世界の解像度が上がること間違いナシ!

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