何かが違う二回戦目

 誰も私が勝つとは思っていなかったのか、ルーファとフィオ以外はみんな驚いている。


「ま、待って……も、もう一回しない?」

「嫌だけど」


 だってメリットがないし。いや、私はなんでも損得でしか考えないって人間な訳では無いよ? でも今回はお金のために腕相撲をしたんだし、ぶっちゃけ単純に早くルーファとフィオの所に帰りたいし。帰りたいって言ってもすぐ近くにいるけどさ。少しでも近くにいたいし。


 私は参加費を渡した人にお金を受け取りに行く。

 まだ混乱していたようだが、すぐに金貨10枚を渡してくれたので二人のところに戻ろうとすると、さっき勝負した女の子に待ってと言われながら手を掴まれた。


「も、もう一回やらない?」

「さっきも言ったけどーー」

「報酬用意するから! もう一回金貨10枚! 参加費も要らないから!」


 その言葉を聞いた瞬間私はさっきまで腕相撲をしていた場所に戻る。


「早くやろう」

「あ、うん」


 今度はその女の子が勝負をする前の私みたいに素っ気ない返事をする。

 貰えるお金は貰っとかないとね! 

 私は失礼なことにもう勝った気でいるけど、負ける気がしないからしょうがない。言葉に出したわけじゃないんだからセーフだよ、セーフ。


 腕相撲の構え? って言うのか知らないけど、腕を握り合う? みたいな構えをさっきと同じようにするんだけど、なんか……さっきと違う気がする。見た目上は全く一緒なんだけど……んー、上手く言葉に言い表せないけど、やっぱり何か違う気がする。

 

 私がさっきとは違う何かについて考えていると、何故か腕相撲をしようとしている手が周りにバレないようにニギニギされ始めた。

 えっ!? な、何やってるのこの子!? 

 私は咄嗟にその子の顔を見るけど、さっきと何ら変わりがない。もしかして無意識とか? いや、さすがにおかしいでしょ。そんなわけが無い。


「それでは、始め!」


 私が考えていると、開始の言葉があり、その瞬間にニギニギはやめ、力を入れられる。もちろん私の腕が動くことは無い。

 なんだ、私を油断させるためにやってたのか。まぁ、卑怯だなんて言わないよ。勝負なんだからね。でも、私には通用しないのだよ!(めっちゃ動揺してた)


 私はさっきのようにゆっくりと力を入れ、勝利する。

 よし、これで金貨20枚だ! 

 私はまたさっきのように参加費を受け取る人の元へ行き、お金を受け取る。

 お金を受け取ったので、今度こそ二人の元へ帰ろうとすると、また女の子が待ってと言いながら近づいてきた。

 流石にもうする気は無いので、さっきと同じだろうと思い、腕を少し上げ、さっきのように手を取られないようにした。

 手を取られないようにしたのだが、何故か今度は抱きつく形で動きを止められた。

 おかしくない? 腕を上げて私が避けたから? だとしてもおかしくない?

 

 私は後ろに振り向き、その女の子の方を見ると、何故か顔を赤らめ、ハァハァと息を荒らげながら私を上目遣いで見上げてきた。まるで私のことが好きなように。

 ……その瞬間思い出した。私が神様にした願い事を。そして、それは一人じゃなかったということも。

 

 いやいやいやいやいやいやいや、そんなまさか。腕相撲しただけだよ? あれだ。顔が赤いのは、まさか私に負けるなんて、何かイカサマしてるんだ! っていう怒りで、息が荒いのは、単純に怒っているから。そして抱きついているのは、私の体が強くて気がついてないだけで、実際は閉め殺そうとしているんだ! そうだよ! そうに違いない。流石私。将来は名探偵だね。


 当然私に抱きついている様子は周囲から見てもわかるわけで、ルーファとフィオが私達の方にやってきた。


「何やってるんですか?」


 心なしかルーファの声が冷たく聞こえる。(気のせい)


「ん」


 心なしかフィオの目が冷たい気がする。(気のせい)


「違うんですよ。本当に違うんですよ」


 私は本当に何もしていないのに、言葉が敬語になり、怪しい感じになってしまう。


「好きな人に抱きついてるんだよ?」


 その子は首を傾げながら、そんな当たり前のことを……といった態度でそう言った。


 その瞬間、私はまた凍った。さっきとは別の意味で。

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