借金の存在を思い出す
「美味しかったですね」
「ん」
「そ、そうだね」
美味しかったと言われても、私は曖昧に返すことしか出来ない。まぁ、味は良かったよ。味は。
そんな話を適当にしながら、歩いていたら冒険者ギルドが見えてき、そこで私の足が止まる。
「ユアさん?」
「ユア?」
二人が心配そうに私の顔を覗き込んで来たので、私はなんでもないと言って、再び歩き出した。
本当は全然なんでもなくない。
そうだよ、冒険者ギルドだよ。冒険者ギルドを見て思い出したけど、私、ルーファに借金してる状態だったじゃん! なんか、当たり前かのように宿とか止まってたから忘れてたけど、ルーファが……あれ? そういえばフィオが払ってたのも見たことあるような……もしかして私とんでもない悪女みたいになってる? と言うか、フィオもいつも私がお金払ってないの見てるはずだから、もしかしなくても私が一文無しなのバレてる? もうだめだ、ゴブリンのこともバレたし、お金を持ってないこともバレてた……もう私のプライドはズタボロだよ。
どうしよう。ギルドに行って少しでもお金を稼ぐために荷物を運ぶ依頼みたいな安全な依頼を受けたい。
けど、昨日街を見て回ろうって言っちゃった訳だしなぁ……多分理由を話しても普通に返さなくていいって言われそうなんだよね……少なくともルーファにはそう言われてるし。
と、取り敢えず今日は忘れよう。それで、明日以降に思い出して、頑張ってお金を稼ごう。
少なくとも今日からはもう二人にお金を借りないようにしないと。……宿以外で。宿は仕方ないよね……うん。
お金のことを考えないように二人と雑談しながら歩いていると、かなり盛り上がっている人集りが見えてきた。
「なんの集まりでしょう?」
「行ってみよ」
私はマップを確認してから、そう言う。
単純に気になるしね。マップで危険性がないのは分かってるし。……あれ? でも、あの人たちはまだ私たちを認識してないだろうし、認識してからじゃないと赤くならなかったりして。
ま、まぁ、私はちょ〜とだけ臆病なだけで、身体能力は高いはずだから、二人と逃げることぐらいできるはず。そもそも二人とも強いし。
近づいてみると声が聞こえてくる。
「腕相撲でこの娘に勝ったら金貨10枚! 参加費は銀貨1枚だ!」
これだぁぁぁ! これ! これだよ! 一気にお金を稼げる!
私はすぐに手を挙げ、やります! とアピールすると、集まっていた人たちから、やめとけやめとけと言われたが、構わずにやりますと言った。
ルーファとフィオも驚いてたけど、驚いただけで応援してく
れるみたい。
「後から無かったことには出来ないからな?」
そう主催している人? に言われたので頷きで返す。
すると手を出してきた。
私は訳が分からず首を傾げる。
「参加費の銀貨1枚だよ」
その瞬間私は凍った。
全然聞いてなかった。勝った時の報酬しか聞いていなかった。
私は涙目になりながらルーファとフィオがいる方向に振り返り、すぐに返すので、お金を貸してくださいと、震えた声で言うと、何故か頭を撫でられた後に貸して貰えた。泣きそうだよ。こんな人がいっぱいいるところで、こんなことを言って、こんなことをされて、恥ずかしさで本当に泣きそうだよ。
「あ、あの、これで……」
「……あ、あぁ」
私は顔を真っ赤にさせながら涙目で銀貨を渡した。
そして私はそのまま席につき腕を机に乗せ、目の前の女の子と……女の子!? えっ、対戦相手女の子だったの!? 全然見てなかった。報酬にしか本当に目がいってなかったよ。
……流石にもう増えたりしないよね? 神様も流石に分かってくれてるはずだよね。
「手加減はしないよ」
「あ、うん」
考え事をしてたから素っ気ない返事になっちゃったけど、今から腕相撲とはいえ戦う相手なんだからいいよね。
「それでは、始め!」
その掛け声と同時に力が入れられる。
え? 私? ふっふっふ、ビクともしてませんとも。
見た目が弱そうだったからか、相手の女の子は目を見開いて驚き、更に力を加えてくる。
ただ、それでも私のステータスは底上げしてもらっているので、ビクともせずに、逆に私が少しづつ力を加えると、少しづつ相手の手は机に近づいていき、私が勝利した。
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