第12話 安らぎ

 都内の高層マンションの上層階に私の住まいはあった。


「婆さん、今から出かけてくるからな!」


「はいはい…今日も遅いんですか?」


「ああ…」


 結局、婆さんは私の元で暮らすことになった。

 老人ホームとの話し合いが困難になるかと思われたが、南のサポートもあって円滑に話はまとまった。


「八重子さん、今日も遅くなるんですか?」


 南は婆さんの面倒を見て貰うのと、人手が欲しかったのも重なって老人ホームは辞めて貰い私が雇用した。


「あのなぁ~南、生きてくって事は大変なんだよ」


「でも八重子さんが幼くしてベンチャー企業の経営者だったなんて驚きです…」


「年なんて関係ねぇよ!まあ大変だったけどな…」


「はいはい…わかってますって」


 南は早く話を切り上げようとしている。これから私の苦労話が語られるはずだったのに。


「チッ!私は行くからな!」


「あっ!婆さん今晩もあれ作っておいて!」


「えっ…な、何のことでしょう?」


 また始まった。婆さんは都合が悪くなると急にボケる。

 最近では私を揶揄う時にも都合よくボケ始めていた。

 本当か嘘なのかは婆さんにしかわからない。

 付き合うと長くなってしまうが婆さんとの絡みは嫌ではなかった。


「あれだよ!あれ!」


「えーっ?何ですかー?」


「だからあれだって!」


 癇癪を起こした様に駄々をこねる私を見て婆さんは笑った。


「ははははは…里芋の煮っころがしね」


「そう!それ!」


 生きる為にと強がって、気の抜けない日々を送っていた。

 私の人生はいつの間にか、つかの間の安らぎを感じる事ができるようになった。

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知らぬが仏 神社巡り @jinnjya

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