第7話 敵陣

 黒塗りの車には、前に運転手と後ろに男が1人。どこに連れてかれるかはわかっている。隣に座る男も知っている。会いたくない顔ぶれだ。窓の外を眺めながら、余計なことを考えないようにする。最悪の事態はもう想像がついている。一種の諦めだ。考えても無駄。事態は変わりようがない。何の用かは呼び出した本人から直接聞けばいい。


暫くすると、車が停まる。目的地に着いたらしい。


「おい、降りろ」


 思ったより、あちらが動くのが早かった。面倒で億劫で仕方ない。あまり、動揺するとあちらの思う壺だ。そうわかってから、感情を顔に出さないように努力した。その結果、人間関係がうまくいかなかったことは否めないが。


門をくぐり、屋敷に入る。廊下を進んで入るよう言われた部屋には呼び出し主がソファに座っていた。80前後。普通の人が見れば、財閥のトップとは思えない。優しそうに見える老人。この男の息子の方が、よっぽど財閥のトップに見える。よく見るような悪人の顔をしてる。


この悪人とは思えない顔だからこそ、油断ならない。


「またまた、これは何のようですか。ここのところヘマを踏んだ覚えはないのですが」


呼び出し主は、ふん、と笑う。


「よう言ってくれるわ。モルモットのくせに、勝手に檻の中に違うものを入れおって。やっていることがお前の父親とそっくりだわ」


向かいに座りながら、あくまで知らないというていで続ける。


「何の話でしょう?僕には検討もつかないのですが」


「まだ言うか。お前はあの女を見殺しにできるのか。つまらんなぁ」


澪依華のことがわかっていて、尚且つ、どうとでもできる。ということだろう。


「どちら様でしょう。僕には関係ない人を巻き込んでいるのでは? 」


すると、振り返って背後にいた、黒スーツの男に声をかけた。


「あれを連れて来い。フン、久しぶりにお前の焦る顔が見られるぞ。もしかすると、良い顔も見れるかもな」


連れて参りました。という声、入れ。と言われて連れてこられたのは、


「どうして、こんなお金持ちのお爺さんが私に用があるの?ん?あ、秀じゃん。何これ?どういう事?この人まるで説明してくれないんだもん。ほんと、意味わかんない」

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