第2話 男ティオの挑発

 ティオは自分を蔑視べっしした獣人たちに続き、庭園の中へ進んだ。

 そこには、重装具を身につけた獅子の獣人、この国レアルト騎士団が整列し、参加者を待っていた。


 当然の事だが、人間はティオ・ファリス一人。周りは、ヒョウや馬など、多種多様な獣人ばかり。性別は男女共にいるが、体格が明らかに大きい。見た目だけで身体能力の高さがわかる者ばかりだ。


「…………」


 だが、ティオに恐れはなかった。彼女の胸に、一つの教訓があるからだ。


「さぁ! 始めるぞ!」


 隻眼で一番体格の良い、騎士団団長と思われる獅子獣人が声を張り上げた。


「この世界は弱肉強食! 強者だけが生き! 弱者は死ぬ!」


「…………」


 ティオの両親惨殺が、悲しくもそれを物語り、彼女は唇を噛み締めた。


「王の専属騎士になる条件は至極簡単! 強者であること! 対戦相手を倒し! 王に気に入られよ!」


 「ウオォーン!」と、遠吠えや雄叫びを上げる獣人たち。その中でティオは静かに佇んでいた。


「最初の対戦はー! なんと! 汚く臭い人間の生き残りと! 熊国の猛者ウルドス・ザハークだぁ!」


 団長のアナウンスに獣人たちの視線が集まった。

 城門には魔法がかけられてあり、潜ると同時に種族と名前、参加者かどうか判別され、対戦相手も決まっていたらしい。


 人間は全て滅失したと思っていた獣人たちは、


「人間!?」


「人間だと!?」


 騒めきだした。だが、そんな中でもティオの表情は変わらず、落ち着いていた。


「よーお、人間。お前の相手はこのオレだぁー!」


 身長三メートルを超える、黒茶色の毛並みをし、革鎧を身につけた凶暴そうな灰色熊グリズリー獣人がティオに声をかけた。


「お前ひょろいなー、本当に男かぁ?」


 レアルト国騎士団は、女人禁制、もちろん王の専属騎士も男のみと決まっている。故に、女だとバレた時点で失格である。

 それを知っていたティオは声を低くし、ウルドスに言った。


「俺は、男だ」


「そもそもどうやって生き延びたぁ。人間は全部死んだと聞いていたがなぁ」


「……両親の血を飲み、全身に塗り、生者の臭いを消していた」


「親の血を飲み! 塗った! おげぇー! お前ただの化け物だな! いや、魔獣以下の人喰いだなぁ! 人間じゃねぇ!」


 ウルドスが頭を下げ大きく口を開き、嘔吐する真似をすると、周りの獣人たちも続いたり、「ギャハハ!」と、嘲笑ちょうしょうした。


「…………」


 ティオは俯き、消沈、


「ははっ」


 してはいなかった。


「はははっ!」


「な、何を笑っていやがる!」


 顔を上げ笑い出したティオを見て、ウルドスは声を荒げた。


「いや、獣人は人間の何倍も鼻が効くと聞いていたが、血を飲み塗っただけで、生者と死者の区別もつかなくなるとは。大したことはないなと思ってな」


 ティオは鼻で笑った。


「なっ……」


 誰が見てもわかる、明らかな、


「一度、鼻うがいでもして洗浄したらどうだ。それか、俺が鼻の中を掃除してやろうか?」


 挑発だった。


「——このガキャア! ぶっ殺してやる!」


 ウルドスは激昂し、背負っていた両刃斧ラブリュスを持ち上げた。

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