転生したら国家反逆者の息子でした〜殺されたくないので無双します〜

@morukaaa37

プロローグ 墜落



 機体の揺れと共に響いた爆発音が、果てしない空を無情に眺めていたオレを、現実世界に引き戻した。恐らく、人生最初で最後の飛行機だなと、何となく思う。

 すでにオレの周りから、緊急アラームが鋭い音でなり始めていた。今のオレの心境を表したかのような半端ではない騒々しさだ。コックピット、つまり操縦室にいるオレに機体の危機を知らせているのだろうが、オレが自分で仕掛けたものなので皮肉もいい所である。オレはパイロットではない、ただのテロリスト。パイロットになれるならなってみたいぐらいだった。傍に本物のパイロットが頭から血を流した状態で横たわっている。床に流れる血溜まりが今の緊迫した状況を物語っていた。


 通常、コックピットには機体の操縦が可能な職員が2人はいるらしい。オレに命令した男はそう言っていた。なので、1人は殺し、1人に操縦させるつもりだった。


 ところが、今、操縦席にはオレの同僚が座っている。勿論、テロリストだ。飛行機の操縦など出来るわけがない。

 どうやら、この飛行機。国の規定を破り、機体の操縦士を1人しか雇っていないらしく、お陰で機体を乗っ取り、乗務客を人質に政府にある要求をする計画が潰された。


 操縦が効かないせいで、交渉もクソもない。当初は、機体を本拠の基地に着陸させ、その為に、爆発のタイミングも調整し、ギリギリ基地に帰還可能の距離をとっていた。だが、それも専門のパイロットがいなければ無駄である。オレ達が、基地へ旋回、ましてや着陸など出来るわけがなかった。機体の爆発は、相手側にこちらの凄惨さ、どんな手も使うと言う脅しの意味もあったが、今となっては巫山戯るなと怒鳴り散らしたいところである。

 これでは、オレも乗客も、無意味に大人しく死ぬだけだ。着水すれば非常設備で助かるかもしれないが、あと少しで機体はビル街の空上に着く。そこから旋回する方法を俺たちが知るはずなかった。


 こんなことになるなら、ちゃんとコックピットの中の人数を数えてから殺せばよかったと後悔する。ここに入る為、オレ達は、コックピットへの扉を銃で撃ち、乗客を殺すと脅して機長に扉を開けさせた。この時点では、もう1人パイロットが中にいると思っていたので迷うことなく、オレは機長を撃ち抜く。見せしめの意味もあった。乗客の中にはオレ達のことを甘く見ている奴らをいたようなので、必要なことだったのだ。

 中に入った時には、愕然とし、色々諦めて黄昏てしまったのは仕方ないことだろう。


 さっきからアラームと共に、機体の真ん中にあるスピーカーから、管理棟からと思われる声が聞こえている。元々こいつらを使い政府と交渉するつもりだったが、もうどうでも良くなっていた。面倒なので、まだ、弾数の残っているサイレンサー銃で撃ち抜く。チュンッという音と共にスピーカーが割れた。ノイズが酷くなったので、壊れるのも時間の問題だろう。


 「なぁ、田中!飛行機の墜落事故って何パーの確率か知ってるか!?」


 銃をしまうオレに、機長を殺してから黙って操縦席に座り、外を眺めていた若い同僚がそう尋ねてきた。痩せ細ったその顔は、社会不適合者としては満点の色をしている。


 「あー、知らないな。少なくとも俺たちのせいで、少し上がったんじゃないか?」


 オレは、死への緊張をほぐすのように、肩をすくめる。対照的に、同僚はもうすぐ死ぬことなど気に求めてない様子で、得意げに顔を歪めせていた。


 「0.0009ぱーせんとだってよ!ん?もう一個0つくか?まあ、とにかく、めっちゃ低いぜ!だからよ、墜落する飛行機に乗るとか奇跡みたいなもんだよな!」


 「なんで、誇らしげなんだよ。テロが奇跡とか冗談も良いところだ!」


 「いや、でもよ!その奇跡をオレらが起こしてるって思ったら凄くねぇか!天才的だろ、天才的!」


 「天才っていうか、バカだろお前。現実見てんのかちゃんと」


 すぐに現実世界からお別れだ。死への恐怖でおかしくなったかと一瞬考えるが、その表情を見て考えるのをやめる。こいつは頭がおかしいだけだ。まともな奴がオレの同僚にいるわけがなかった。


 「ん?なあ、てか思ったんだけどよ」


 「あぁ?なんだって?」


 アラームは未だに鳴っている。小さな呟きは全てかき消されていた。オレは少し声を張る。


 「いやよ、これ今墜落してるんだろ?!で、今ビルが目の前にあるわけじゃんかぁ!?」


 「あ?だからなんだよ!?」


 確かに、このまま飛行機が緩やかに落ちていけば、海岸奥にあるビル街に墜落するだろう。だが、それを聞くのは今更過ぎた。さっきから、その事態について考えては生きることを諦めていると言うのに、呑気に確認をしてくる同僚に、少し腹が立つ。


 「え、いや、じゃあ、オレら死ぬくね?」


 「今更かよっっ!!」


 同僚は頭がおかしいのではなく、頭が悪いことがわかった。こっちは、頭が痛くて仕方ない。何故、あの人はこいつをオレのバディにしたのだろう。操縦士といい、同僚といい、予定外のことだらけだ。


 「え、おい、お前、分かってて言わなかったのかよ。飛んだクズだぜ、テメェよぉ!人の命なんだと思ってんだ?」


 さっきまで余裕の表情で座っていた操縦席から、同僚はあり得ないと言った顔でこちらを睨んでくる。正直、逆ギレもいいとこだ。


 「それぐらい理解してると思ってたんだよっ。あと、オレにキレるな!」


 「ぁぁぁあ、もう、ふざけんじゃねぇっ!!野郎となんかと死ねるかよ!!まだ一回も女抱いたことねぇんだ。死にたくねぇよ!」


 やはり、バカだこいつは。ボサボサのくすんだ黒髪を、掻きむしる姿は障害者のそれだ。街中で会ったら距離を置くタイプ。本音を無遠慮に垂れ流す同僚に段々オレもイラつきが隠せなくなってきた。


 「おい、お前、一方的に言ってくれるけどさ。オレだって死にたくないんだ。でも、どうしようもないだろ?まさか、操縦士が一人とは思わなかったんだ。そもそも、お前が殺せって言ったんだ。責任はお前にもある」


 「はぁ?こんな状況でも責任転嫁かよ。肝っ玉のちっちぇー男はモテねぇぜ?」


 「お前に言われたくはない!ていうか、文句言うなら操縦してみろよ。まあ、助かったところで、他の同僚がオレらを許すとは思わないがな」


 飛行機から脱出すれば助かる乗客とは違い、オレらは計画を任された実行犯の身だ。テロにおいて、いつも実行を命令されるのは下っ端が多い。生き延びても、尻尾切りの要領で捨てられるのが定石だった。


 オレの言葉に、同僚は息を呑んでいた。が、突然目の色が変わり、オレの方を向いていた顔が、操縦機の方へと移った。その唇が挑戦的に歪んでいるのをオレは見逃さなかった。


 「おい、何をする気だ」


 慌ててそう言うと、同僚はハンドルを握りこう言う。


 「海の上に突っ込む」


 次の瞬間、機体がありえない角度で落下した。

 思わずオレは同僚の座る操縦席を両腕で掴む。そうでもしないと、立っていられなかった。オレは、落下と共にくる激しい浮遊感に胃が裏返りそうになるが、息を吐き何とか抑える。何かのアトラクションの安全装置が外れたような感覚だった。


 「お、お前バカかっ!傾けすぎだ!!この高さで落ちたら、海の上だとしても砕け散るぞっ!!」


 「ウルセェなぁ!もう地上が目の前なんだよ!!エンジンもなんかヤバそうだし、早く海に入るべきだろ!!」


 「だとしてもこれはやりすぎだ!!せめて少し横に傾けろ!!それに、ここで助かってもすぐ捕まって刑務所行きだぞ!!?良いのか!?」


 オレは正直、半ば生きることを諦めている。今まであまり胸を張れる人生ではなかったし、これからもそうだとオレの意思に反して気付いてしまっていた。ここで、知らない奴らと心中するのも、怖いが悪くないとさえ思っていた。


 「いや、だから、俺、女抱いたことないんだって!!聞いてたかぁ!?人の話!!」


 「……お前に聞いたオレがバカだった」


 「あぁ?なんだって!?」


 機体が今度は左に急旋回する。鳴り響くアラームを機にする余裕などなかった。そのまま、機体は墜落を続ける。機体に体を揺らされながら、オレは数秒経ちうっすら目を開ける。目の前には、深い青色があった。海だろうか。


 「あ、やべ」


 けたましい空間で、そんな声が聞こえた気がした。オレは、訳のわからないまま前を見据える。青が消えていた。


 目の前には、白い塗装の鉄塊が浮遊している。


 それは、巨体に似合わぬ回転をしながら、こちらを見ている気がした。


 「え、ちかっ」


 そして────唐突にした窓ガラスの割れる音と共に、オレは意識を失った。


 


 


 

 


 


 


 


 

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