ライオネットの追放

 部屋の中に静かな物腰で入って来た執事のラヒルさん。


「お取込み中失礼致しますマスター・・・詳細はこちらの方に聞かせて頂きました、お二方も熱くならずまずは冷静に」


 とりあえず言われた通りに落ち着くボクとルーブル。全員ソファーに座ったところで執事サンが話し始める。


「実は我が主人がウルカン家・ウィンドル家・フィーレン家の三家がこぞってギルド・グラーナを抗議している情報を掴みまして・・・本日の夕方に我が主人が三家に警告を出しました、それ故に3つの要求も取り消しとなります」


 ボクは耳を疑った、自分達で要求を突き付けて置いて今更撤回だって??シォマーニおじさんが執事サンに尋ねる。


「そ、それは本当ですかのラヒル殿??」

「ええ、我が主人は三家を問い質した上で状況を分析し彼らに対して『貴族らしからぬ振舞は許さぬ』と警告を致しました・・・ですのであのような道理に合わぬ要求も従う必要はございません」


 って事は・・・アースドラゴンの件は事実通りってコトに??


「我が主人・・・やはりただ者ではなさそうだな?」

「仕方ありませんな・・・我が主人とはシャンゾル王国王子クライツ・ロイヤル=シャンゾル殿下なのです、この事は他言無用ですぞ」


 王子?この国の??


「そんな人がどうしてボク達の、という事はマ・・・ウルカン領主様の家族を助けようとしたのもその王子様?」

「左様でございます、アール=ウルカン領のスタンピードはいち領地の問題に留まらない事は一目瞭然、しかし恥ずかしながら国内貴族は一致団結しているとは言えない状況でございまして・・・身軽な貴方がたに依頼した次第でございます」


 知らなかった、そんなすごい人が裏で動いていたなんて。でもこれでボク達も大手を振って歩けるわけだ。


「しかしながら誠に失礼な事ではありますが・・・ライオネットのお二方には翌日にはこの町、いやこの国から退去して頂くのが条件になります」

「そ、そんな?どうして!!」


 執事サンに問い詰めようとするボクを抑えるルーブル、彼はいつもボクより先に自分で答えを探し当ててしまう。


「なるほど、それが要求却下の条件か・・・今のウルカン家とトラブルを起こした俺達がいては問題になるんだろう」

「ご理解が早くて助かります・・・ウルカン家の警備隊の件はともかくウルカン当主はどのような理由か分かりかねますがどうも貴方がたを追い出したい様子・・・先の依頼だけでなく街道のアースドラゴンの討伐までして頂いた貴方がたに対して恩知らずな行為である事は重々承知しております」


 アイツ、どこまでボク達をバカにするつもりだ!というかそれよりも!!


「いいよ、こんな国すぐにでも出て行ってやる!でもあの子達は・・・」

「お主たちの好きなようにすればよい・・・お主らの旅に同行させるも良し、この町に置いていくのなら心配はいらん、立場上他の者達の目もある故特別扱いはできんが一人前になるまで面倒をみてやるぞぃ」


 マスターの親切な言葉に感動してしまう。しかし執事サンがすかさずボク達の話に入ってくる。


「失礼ながら・・・あの子達とは?」

「何、この2人が別件のクエストで助けた孤児のことじゃ・・・親をモンスターに殺されましてな」

「なるほど、左様でございますか」


 マスターの咄嗟のウソで事なきを得る。執事サンはやっぱり油断のならない人だ。


 マイちゃんの正体はウルカン領クエストの救出対象だった前ウルカン領主の娘だ。バレてもこの執事サンや王子様ならマイちゃんを酷く扱わないだろうけど、逆にデルト君は貴族ではないから2人は引き離されるかも知れない。やっぱり正体は隠しておいた方がいい。


「話は分かった、俺達は明朝この国を出る事にする・・・マスターも、そして執事サンにも世話になった・・・ご主人の王子殿下にも宜しくお礼を伝えて欲しい、いくぞウィルマ」

「ちょ、ちょっと待ってよルーブル」

「うむ、お主らの好意に甘えてしまった・・・すまんのぉ」

「依頼だけでなく身勝手な要求、お引き受け頂きこちらこそ感謝致します」



 足早にギルドをでていくルーブル。辿り着いた先はボク達の定住している宿屋だった。




「お帰り、ウィルマさんに・・・ルーブルさん?」

「お帰りなさいませ・・・どうしたんですか?」


 帰るなりボク達を心配そうにしてのぞき込むマイちゃんとデルト君。参ったな、この子達には隠し事はできないや。


「2人とも大事な話がある、実は・・・」

「ううん、ボクから言わせてルーブル・・・あのね」


 ボクは2人にアースドラゴンのクエストで貴族達とトラブルになりこの国を追放されるようになった事を話した。もちろんその貴族がウルカン家である事は伏せておいたけど。


 マイちゃんは何故か黙り込んでしまうけど、いつもは大人しいデルト君が逆に憤慨してくれている。


「そんなの・・・酷いです!ルーブルさん達は普通にクエストしていただけなのに!」

「ま、相手が悪かったって事だ・・・元貴族側だった人間に言うのも何だがクエスト中で貴族とのイザコザはなるべく避けるようにな?それで・・・」


「ボク達は明日の朝ここを出て行くんだ・・・マイちゃん達も一緒にいかない?ボク達といると嫌な事は忘れて冒険者生活ができるよ!」


 2人はボクの申し出を聞いて考え込み・・・結論を出す。


「アタシもウィルマさん達といたいけど・・・止めておく、誰がなんと言おうとアタシの故郷はウルカンだから!」

「僕も同じです!僕は生活のためだけに冒険者やるんじゃないんです、お嬢様を守るために頑張るんです!!」


「2人とも・・・」

「決意は固いようだな、この子達なら大丈夫だろう・・・後はグラーナの人達の言う事をよく聞くようにな?」

「「はいっ!!」」


 2人の意志の強さに思わず涙ぐんでしまうボク。


 そうしているとマイちゃんがボクの前に立ってスカートの裾を両手で軽くつまみ、左足を後ろにして右ひざを軽く曲げて・・・深々と貴族式のお辞儀・カーテシーというのをする。


「ウィルマさん、ルーブルさん・・・今のにはこんな事しか出来ませんが・・・貴方達に命を救ってもらった事、このマィソーマ・ウルカンは一生忘れません!この名に懸けて必ず恩返しします!!」


 マイちゃんに続いてデルト君も右手を胸に当ててひざまずく。


「僕だって!お二方にはお嬢様と僕を助けて頂いた事感謝してもし切れません・・・このデルト・ミナズも終生ご恩を忘れません!」


「うっ・・・うわぁああああああああああああ!!!」


 たまらなくなったボクは泣きながらマイちゃんとデルト君を抱き寄せる。ホントに良い子達だ、こんな子達を酷い目に遭わせるロジャー達は許せない!


 ・・・でもそれはボクも同じだ、結果的にはこの2人の面倒を最後まで見られなかったのだから。

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