アースドラゴン戦2

 気が付くとボクと倒れたアースドラゴンの周りには槍と小盾を持った20人の兵隊が取り囲んでいる?一人ひとりの顔を見るとどこかで見たような??


 そうか、あのロジャー・ウルカンを守っていた警備兵だ!ルーブルがボクのそばに来てから兵隊達に向って尋ねる。


「こちらはグラーナの冒険者だ、アースドラゴン討伐のクエストを受けている・・・俺達を止める理由を聞かせてもらおう」


 こんな時にも事務的に質問をするルーブル。しかし兵隊の一人が居丈高に怒鳴る。


「粋がるな冒険者風情が!この領地は我々の主人ロジャー・アール=ウルカン様のもの・・・従ってそこから出てきたこのアースドラゴンも我らの討伐対象という事になる、よってトドメは我々が刺し魔石も回収するので貴様らはさっさとこの場から去れ!」


 なんてヤツラだ、自分達は何もしないでドラゴンが死にそうになったらしゃしゃり出て来て魔石だけ横取りしようとするなんて。

 マイちゃんから屋敷を取り上げた領主が領主ならその部下も部下ってコトだよね・・・ボクはもうガマンできないっ!


「ふざけんな!マイちゃんから全部奪っていったヤツラが偉そうに・・・全員ぶっ飛ばしてやるっ!!」

「な、なんだとぉ!訳の分からない事をほざいた上に我々警備隊に暴言を吐くとは・・・今すぐコイツを」


 体勢を構えていると後ろからルーブルがキツく抱きしめてその場を下がらせる??


「失礼、それでは警備隊様達にお任せ致します・・・下がるぞウィルマ」

「ちょっとルーブル、どうして・・・」


「ふん、最初から素直に従えばいいものを・・・全員、ドラゴンのもとに集まれい!!」


 腕を振りほどいてルーブルと向かい合い続きを言おうとしたボクの唇を指で押さえる。あご先を兵隊たちに向けた表情は・・・とても嫌らしい笑いに見えた。


 今までに見たことのないルーブルの顔に新鮮さを覚えている間に兵隊たちがドラゴンに躍りかかる。


「トドメを刺すぞ、これで俺達も一気に大金持ち・・・・・・ぐぁああああっ!!」


「GaaoooooOOOOOO!!!」


 次の瞬間兵隊たちが全員ふっ飛ばされる。すでに虫の息だったハズのアースドラゴンが息を吹き返した?それを見てボクは初心者の頃に聞いた冒険者の諸注意事項を思い出す。


 ―モンスターには素早くトドメを、迷ったり手心を加えたりして時間をかけると今までの苦労が水の泡に―


 そうか、いいタイミングで邪魔してきたヤツラにはこれがちょうどいい薬になったってコトか。これならボクが手を出すよりノーリスク&ハイリターンだ。


「がっ・・・な、なんでドラゴンが息を・・・・・・倒したんじゃ・・・」


 仰向けに倒れている兵士達・・・そしてうつ伏せになってかろうじてまだ生きているみたいな警備隊長。ドラゴンより先にトドメを刺したいぐらいだ。


「おやおやおやおや、せっかくトドメをお任せしたのに全員ふっ飛ばされたご様子・・・早く立ち上がらないと踏みつぶされますぞ?」


 足元で倒れている隊長に向ってルーブルが気持ちいいぐらいに煽りまくる。見ていて羨ましくなるほどだ。ボクもやりたかったよ。


「ひ、ひぃぃぃぃぃぃ!ぜ、全員退却!!こんな危険なヤツ相手にできるかぁぁああ!!」


 隊長は泣きながら武器を捨てて走り出した。部下達もそれに続いて退却する。笑うのを通り越して何とも情けない光景だ。


「こんなのが警備兵やってる家ならボク達が乗り込んで屋敷を取り返してやるのにぃ」

「分かってて言ってるだろ?警備兵が腰抜けでも貴族は貴族だ、この国は貴族の国だから俺達いち冒険者が手を下す訳にはいかん・・・ところでウィルマ」


「大丈夫、もう拳は回復したよ!でもさっきボクを助けるのに小盾は全部パァにしちゃったから・・・」

「問題ない、盾ならその辺に転がってるじゃないか」

「さっすがルーブル、じゃあ足場は任せるよ!スプリングフェザァー!」


 高く飛び上がるボク、我に返ったアースドラゴンは下からボクを見上げて構える。


「ムーヴメントエリア!」


 ルーブルの鬼力が高まり彼の周りに盾が浮く。警備兵達が置いていった盾だ。これならボクも本気を出せる。


「いくよっ!エァ・サァアアアアアカス!!!」


 ルーブルの盾を足場にしてドラゴンの喉元に突撃!衝撃でウロコが飛び散る。一撃離脱したボクの足元にはまた盾が来ているので再度スプリングフェザーで飛びこむ。


 今度は頭を殴る!

 次は背中!

 もいっちょ前足!


 問答無用にドラゴンにダメージを与えていく。


 新技エァ・サーカス、空間を支配するボクの動きは空中ブランコで飛び回るお祭りのサーカスそのものだ。


「Gua・・・・・・uGyaaaaaAAAA!!」


 あまりの攻撃回数に身を守る事も追いつかないドラゴン、至る所からウロコが剥がれて中の肉がむき出しになっている。後ひと息でトドメだ!


「ウィルマ下がれ!ムーヴメントエリア、パワームーヴメント・・・ヘッジホッグ!」


 ルーブルのムーヴメントエリアは兵隊たちの捨てていった槍を集めて、一本一本外すことなくドラゴンの傷に槍を突き刺しまくる!その様はまるでハリネズミだ。


「Gaha・・・・・・GuuuuuUUUUU!!!」


 槍の刺さった箇所から大量の血を吹き出すドラゴン、今がチャンスだ!またもやスプリングフェザーで飛び・・・頭上で組んだ両手を頭に撃ち込む!!


「ダァァァブル・ハンマァァァアアアアア!!!」


「!!!AgaaaaAAAAAAAAAA!!!!!!!」


 断末魔を上げるドラゴン。ついにその巨体を地面につけた。もうピクリとも動かない、完全に息の根を止めたようだ。ボクもルーブルのサポートで危なげなく着地する。


「はぁはぁ・・・ようやく依頼達成か、あれ?・・・ボクも立ち上がれな」

「無理するな、後片付けは俺に任せて置け」


 倒れそうになったボクをルーブルが優しく抱きとめる。やっぱりボク達は最高のパートナーだよ!


 この時のボク達は魔石を回収してアースドラゴン討伐達成の余韻に浸っていた。

 その後にあんなことになるとも知らずに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る