ウルカン領3・領地からの脱出

 一度ウルカンの屋敷に帰りたいというお嬢様。そんな時間はないんだけど男の子君が言うには、

「屋敷を出て行くのなら執務室に保管しているらしいお嬢様の身分の証―出生証明書―となる書類を取っておきたい」との事。そう言われると反対もできないので2人についていく。


 しかし屋敷に待ち構えていたのは本来の領主ではなくロジャー・アール=ウルカンと名乗る貴族とその家族だった。同じ苗字という事は・・・領主様と親戚?


 屋敷を横取りした貴族に従う警備兵達に取り囲まれても、子供達は怖がる事なく必死に叫ぶ。


「こちらにおわすお方はソーマイト・アール=ウルカン様が一子、マィソーマ・ウルカン様でございます!」

「この家は私のものです、すぐに返して下さいまし!!」


 悲痛な叫びは聞いている者の胸を打つ。でもこのロジャーという貴族は何でもない顔をして冷たく言い放つ。


「マィソーマ・ウルカン?そんなのは知らん!我がウルカンを騙る愚か者め!!さっさと出て行かないと憲兵隊に突きだすぞ!」

「あらやだ、こんなみすぼらしい子達なんて知りませんよ!冒険者まで一緒になって・・・困りますわね?」

「さっさと出てけ!ここは僕達のウチだぞっ!!」


 貴族どころかその家族まで子供達に手厳しくする、一体何なんだコイツラは!この子達の様子を見てこんな事が出来るなんて人間じゃない!!黙って睨みつけていると貴族は後ずさりする。こんなムカつくヤツは警備兵ごとぶっ飛ばしてやる!


「止せ、ギルドに戻って然るべき処置を仰がせてもらう・・・失礼した」


 ルーブルはボクの肩を抑えて言い放つ。ルーブルが泣いている子供達に目を向けて合図したのでボクは2人の手を引いて屋敷を後にした。



 屋敷を出て再び領主様達の眠る場所に辿り着く。ルーブルはウルカンの屋敷を出てすぐに「ちょっと用事が」と言ってのん気にもどこかに行ってしまった。モンスターはもう全滅したようで道中はあれから一度も襲われなかったから良かったようなものを。


 もう夕方なので改めてモンスターが現れない事を確認してから晩ゴハンを取る。缶詰などの非常食に火を通した簡単なものだが多少は食べやすい。


 出されたゴハンを黙々と食べる2人。食べ終わってから男の子君が立ち上がって驚くべき事を言う。


「僕は・・・冒険者になる!強くなってお嬢様を守るんだ!!」

「ぼ・・・ぼうけんしゃ?」


 突然の宣言にボクもお嬢様もびっくりだ。思わず問い詰めるボク。


「ど、どうして冒険者に??ボク達の仕事は楽なモンじゃないよ?人間よりも力の強いモンスターとも戦わなくちゃならないし・・・」

「分かってます、でも領主様や父さん達も亡くなって屋敷を追い出された今・・・僕はお嬢様を守らなきゃならないんです!それには冒険者しかない!!」


 男の子君の決心にお嬢様が涙ぐむ。


「で、デルトぉ・・・私も、私も頑張るよ!一緒にがんばろう!!」

「は、はいっ!!」


 そう言って2人は手を取り合っていた。でもこんな小さな子に冒険者なんてどうだろうか?

 そう思っているところへ3本の長いパンを抱えたルーブルがやってきた。


「だったらしっかり食って身体を作らないとな?空き家になっていた家からパンを拝借させてもらった・・・2人ともまだ食べられるか?」

「た、食べ・・・食べます!」

「わ、私も頂きます!」


 そういってルーブルからパンを受け取って食べる2人。特に自分の屋敷に戻れないお嬢様は生気をなくしたような顔をしていたけど、今じゃすっかり生きる気力を取り戻したようだ。


「お帰りルーブル、用ってこれの事だったんだね?ホントなら泥棒と変わらないけど今は非常時だから仕方ないか」

「まぁそれだけでもないんだが・・・まぁ元気よくがっついてくれて良かったよ」


 なんだか歯切れの悪い返事だ、それよりも。


「ねぇ・・・ボクこの子たちを放っていけないよ?」

「分かってる、屋敷には帰れないから・・・ロザリスの町まで連れて行くか」


 食事を終えたボク達は疲れて寝ている子供達をそれぞれ負ぶさってウルカン領を夜通し歩いて領境の街道に着いた。途中ロザリスの町に向かっている行商人の馬車の荷台に乗せてもらって翌朝には町に到着。



◇◇◇



 ルーブルはギルドへ行って報告するという。ボクもついていくけど子供の面倒を見るように頼まれたのでギルドの待合所で待つことに。


 昨日は夜通しだったので備え付けの椅子に座っているとうつらうつらと眠くなる。しかし突然大声が響き渡る。


「僕達、冒険者登録しにきました!お願いします!!」

「わ、私も・・・登録します」


 慌てて起きると2人がいない?あ、受付のところだ!そうか、男の子君はさっそく登録しに行ったのか。受付の横には男のギルド職員がいた。


「何なんだこのガキんちょ共は・・・こっちゃ遊びじゃねぇんだ、早くかえっ」


 ギルド職員の横柄な言い方にムカっとくるも怒りを抑えて。


「この子達を登録してあげてよ?マスターにはボク達から言っておくから」

「ら、ライオネ・・・わ、分かりましたよ!坊主達、しっかり俺らの言う事聞かなきゃクビだからなぁ?!」


 ボクの顔を見るなり態度を変える職員。ルーブルと一緒にリザードマン討伐で活躍したから顔が知られているみたい、全く何が役に立つかわからないな。


「は、はいっ!わかってます!!」

「しっかり・・・頑張りますっ」


 元気に返事をする2人。そこへルーブルが戻って来た。


「おっ、さっそく登録したのか2人とも!待たせたなウィルマ」

「お疲れルーブル、マスターへの報告は?」

「問題なく終わった、後で色々話すよ・・・よし、登録ができたから今日の仕事は終わりだ!2人とも宿屋に泊まって休むぞ?」


「そ、そんな!僕はこれからクエストを受けようと・・・」

「わた・・・アタシだってモンスターを退治します!」

「昨日あれだけ動いてて疲れていないハズがない、冒険者の仕事は健康でなきゃ出来んぞ?自分の身体を大事にする事だ・・・さ、宿屋に帰って寝るぞ!」


 2人はしょんぼりしてルーブルに従う。せっかくやる気を出してたところで水を差されてちょっと可哀そうだけど、2人ともロクに休めていない事は本当だ。


 それに大人のボクとルーブルも一度休まないと限界だ。早く休もう。

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