ウルカン領2・ご令嬢の安全確保

 大きなウルカン屋敷。こんなのクトファでも議会の幹部の邸宅しか見たことがない。大きな入り口まで来て大声で呼びかける。


「すみませぇぇぇぇん!ギルド・グラーナから来た冒険者でぇぇぇす!!お貴族様はいらっしゃいますかぁあああああ?!」


 ボクの声が響いてから軽い足音が聞こえてくる。ドアが思いっきり開けられる。


「お父様お母様!!!・・・じゃなかった・・・あっ、貴方たちはだれ??」


 中から出てきたのは・・・前髪を切り揃えたミディアムヘアでカワイイドレスを着た小さな女の子だった?その猫のような目はボク達を見て少し怯えているようだ。その後から子供用スーツを着た男の子が女の子を抑える。


「お嬢様!誰だか分からないのにドアを開けてはダメですよ!!」

「だって、お父様が帰って来たと思ったから・・・でも違うっ」

「あの、貴方がたは一体・・・」


 きちんと髪形を整えたいかにも坊ちゃん刈りの男の子は女の子を後ろに下がらせてボク達に警戒の目を向ける。


「ああ、ゴメン・・・ボク達怪しい者じゃないんだ、冒険者ギルドからウルカンの領主様の家族を助けるように言われて・・・もしかして君達が?」


「僕は違います・・・でもお嬢様は・・・ギルドの方ならクエストの契約書を見せて下さい!」


 うわーこの子まだ小さいのにしっかりしてる!まだあどけない顔立ちをしているのにすごいや。関心しているとルーブルが前に出る。


「これだ・・・確認してくれ」


 男の子は書類を受け取って確認する。驚いた事に契約書の字まで読めるみたい。


「失礼しました、ギルド・グラーナの冒険者さんですね?僕はお嬢様の使用人のデルト・ミナズです、この度は緊急クエストで救援に来て下さってありがとうございます!改めてご紹介します・・・こちらはご領主ソーマイト様のご令嬢マィソーマお嬢様です」

「ま、マィソーマ・ウルカンです・・・」


 デルトという男の子君に対してマィソーマというお嬢様は年相応のようで人前に出るのが恥ずかしいのか赤くなっている。でも可愛らしい。


「ふ~んそっかぁ、ボクはウィルマでこっちはルーブル・・・ボク達ライオネットが来たからにはもう安心だよ、さぁ早くこの屋敷を出」

「待てウィルマ・・・領内を回らせてもらったが領民が一人もいないな、何か知っているか?」


 そうだった、ボク達の任務は領民の脱出支援だった。うっかり忘れるところだったよ。


「それならもうご領主様が隣領地のロジャー・バロン=ウルカン様に掛け合って、4日前にそのご領地にみんな避難しています」


 領民達はもう避難させていたの?領主様の物凄く早い対応力に驚いてしまう。


「そうか、なら最優先事項はクリアしたも同然だ・・・それで領主様はどこに?」

「領主様は3日前に奥様と僕の父と母、戦闘のできる大人達と一緒にここから西の荒地に向かわれました、そこからスタンピードが発生すると仰いまして・・・」


 だったら話は早い、早く領主様と合流して脱出しよう!


「よし、ボク達はそこへ行って領主様達を連れてくる・・・その後みんなで脱出するんだ!君達はこの屋敷で待っていて?」

「はい、宜しくお願いしま」

「デルト、私も行きます!」


 なんとお嬢様が前に出てきた。顔はこわばっているもののその目は力強い。


「そんな、ダメですよ!僕達はちゃんと待っていなさいとご領主様に言われたでしょう?」

「何も出来なくて待っているのはもうイヤなの、お願いデルト!」


 お嬢様の決心はカタイようだ。ルーブルがさり気なくしゃがんでお嬢様と目線を合わせる。


「領地の中はモンスターだらけだ・・・勝手に飛び出したりせず、俺達のいう事に従うなら連れていく・・・約束できるか?」

「・・・はい!ぉ、おねがいします!!」


 ルーブルの言葉にもたじろがないお嬢様。さっきまでのおどおどしていた態度が無くなってしまっていた。この娘、いざとなると力を発揮するタイプだな。

 すると男の子君もすぐさま前に出る。


「お嬢様・・・だったら僕もついていきます、冒険者さん達の邪魔はしませんので!」

「だったらお嬢様の面倒は君に任せよう・・・いくぞウィルマ」

「うん、それじゃ2人とも・・・ボクのそばを離れないように!」

「「はいっ!!」」



◇◇◇



 ウルカン領の西の荒地。前もって簡単な防壁を作っていたらしいけど・・・何もかも滅茶苦茶だ。そこにあったのは大小様々な大きさのモンスターの死骸と人間の遺体だった。結果を見るに相討ち、といったところだ。


「ぅ・・・これはひどいよ」

「あぁ、ここまでとはな」


「ぁぐっ・・・お父様、お母様ぁ・・・ぅわぁぁぁぁあああん」

「と、とうさん・・・かあさん・・・うぐぅぅぅぅっ」


 お嬢様と男の子君は泣きながらそれぞれ遺体に抱きついている。恐らく2人の父親と母親達だろう。あまりの光景に胸が痛む。しばらくそっとしておいてあげよう。


 2人の有様を見て居られないボクは辺りを見回す。死骸のモンスターの種類がケタ違いだ。ボク達の戦ったリザードマンなんかじゃなくて2メートルクラスのビッグアリゲイターや格上のドラゴニュートだったり・・・中でも一番大きかったのは。


「ねぇルーブル・・・これってアースドラゴン、だよね?」

「ああ、俺も初めて見たけど大きい・・・コイツの出現には国の軍隊が派遣されるレベルだぞ?よくこの30人程度の陣営で対処していたな・・・」


 だからどの遺体も損傷が激しいのか。ここにいた人達は文字通り命懸けで領土を守っていたんだ。


 ルーブルはモンスターの死骸を確認しながら念動力で魔石を回収していく。こんな時にまでと思わないでもないけど、魔石の換金だけじゃなくスタンピートでどんなモンスターがいたかの証拠になるので報告する時に信憑性が増すとか。


 幸いにももうモンスターはいない。この間に2人を連れて領地から脱出を。


 泣いているお嬢様を男の子君が宥めている。自分だって両親を亡くしてツライのにホントにしっかりした子だ。


「君達・・・つらいだろうけど早く脱出しよう、ここにいちゃ危険だ」


 ボクの申し出に首を横に振る子供達、無理もないけどここにいつまでもいるワケにはいかない。そんな2人にルーブルが一言。


「わかった、だったら亡くなった人達を埋めて上げよう・・・そのまま放っておいたら可哀そうだもんな」


 一瞬目を大きく見開く子供達・・・でもルーブルの言葉に何かを感じたのか黙って頷く。



 作業する事3時間ほど、領主夫妻に執事の夫婦・・・それと他の大人達を全員埋葬した。ボクのバリケィドで土を深く掘り起こしルーブルが遺体を丁寧に埋葬する。その上から子供達がスコップ代わりの小盾を使って土を被せていく。

 割に手早く終わる事が出来たけどこの間にモンスターが現れなかったのは奇跡だった。


「お父様、お母様・・・」

「父さん、母さん・・・」


 両親の眠る場所を何時までも離れない子供達。ルーブルが優しく声を掛ける。


「これでご両親も安心だ・・・後は君達がしっかり生きればいい、ご両親は君達の中で生きている・・・それは間違いない」


 上手い、身内を亡くした人達への言葉使いが上手過ぎる。子供達も理解し切ってはいないだろうけどルーブルの言葉を飲み込んでいるようだ。


 ルーブルも亡くした身内や仲間を見送った事があるんだろうか?

 こんな光景を見ていると家族の事を思い出す。早い段階で故郷を出るハメになったボクは家族がどうしているのかは知らない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る