緊急クエストの依頼

 ロザリスの町の宿屋。ボクより先に起きて準備をはじめているルーブル。ボクは未だベッドの上だ。


「ぼちぼち出かけるぞ、ウィルマ」

「えー、昨日働きまくったからクエストやらなくていいじゃん!ギルドマスターがボクたちの経費を立て替えてくれるんだし・・・」

「相手の好意に甘えすぎるとロクなことにならんぞ?それに俺達は旅の資金を貯めなきゃならん・・・向こうの大陸に行くからな?」

「もぅ、相変わらず生真面目なんだから・・・」


 ルーブルに追い立てられて着替えを始めるボク。付き合ってわかったけど彼の生真面目さは時として融通の利かない面を見せる事がある。

 ボクとしてはもう少し他人を頼る事も必要だと思う、でも彼の自分の力で何とかするって姿も素敵なんだけどね。



 どんどんっ!


「ルーブルの旦那!俺は昨日一緒に盾役で戦ったモンだ!!悪ぃが開けてくれ!」


 唐突に叩かれるドア。ルーブルがドアの影に入るよう目で訴える。ボクの移動を待ってからドアを開ける。


「どうしたんだ、急に?」

「すまん、ルーブルの旦那!実はギルドマスターがアンタ達を呼んでいるんだ!詳しくは知らんが何でも緊急事態で早く来て欲しいとかで・・・」

「・・・分かった、準備が終わったら向かうから先にギルドに戻っていてくれ」


 そう言うと冒険者は帰っていった。昨日のモンスター撃退が終わったところなのに何か慌ただしくなってきたなぁ。




 ギルド・グラーナに着くと受付の女の子からギルドマスターの部屋に案内される。

 中には昨日の小柄なマスター・シォマーニと黒いスーツを着た中年ぐらいで口ひげの生えた渋いおじさんが待っていた。


「おお、すまんのぅライオネット・・・こんな朝早くから来てもらって」

「いや、今日はクエストをする予定だったので・・・それで?」

「スタンピードじゃ、それもこの町から少し離れたアール=ウルカンの領地でな?」


 スタンピード、いわゆるモンスターの大量発生だ。ある時期になると同種類のモンスターが爆発的に増えて村や町を一気に襲うのだとか。原因は未だによくわかってないらしい?



「マスター、そこから先は私めが・・・貴方がたがCランクのライオネットですか、私めは執事のラヒルと申します・・・我が主人の代理としてこちらに伺いました」


 スーツ姿のおじさんが胸に手を当てボク達に一礼して話し始める。

 主人の代理?という事はその人が本当の依頼主だろうか?ルーブルはあくまで事務的に質問をする。


「我が主人、とは?」

「・・・今は申し上げる事ができません、ただ我が主人の情報網によるとこの町の向こうにある我が国の貴族ソーマイト・ウルカン卿の治める領地でモンスターの大軍が発生したとの事・・・時間がない故貴方がたには直ちに出発してもらいたい」


 貴族様の領地か。ボクもルーブルも農村生まれだからそんな身分の高い人とは付き合ったことがない。しかしそれよりも、


「ちょっと待ってよおじさん、まさかボク達2人だけで大量モンスターを全滅させろって言うんじゃないよね??」

「出来ればそうして頂きたいところだが・・・最優先事項は領民の脱出支援、その次に領主とその家族の保護・・・この2つを貴方がたに依頼したい」


 昨日の何倍何十倍ものモンスター相手に戦闘をするワケじゃないけど、モンスターだらけの中を通る事には違いない。どっちにしても戦闘は避けられないようだ。


 シォマーニおじさんが話に入ってくる。


「昨日の騒ぎでも見た通り今動けるのはCランク以下の連中のみ・・・それも昨日の戦闘でほとんどの者は疲れ果てていて使い物にならん、すまんが頼れるのはお主らだけじゃ」


 どこの誰が本当の依頼者か分からない上に一度も入った事のない領地で人探しと領民の避難優先・・・一見すると無茶な依頼だ。早くしないと時間が勿体ないけどボク達はこの国に不案内だからうかつに引き受けられない。


 またもやルーブルがしっかりした質問をする。


「領民の避難方法と領主様の詳しい情報は?」

「さすがに元Aランク冒険者であらせられる・・・確証はございませんが領主ソーマイト・ウルカン卿は聡明な方、すでに領民の避難対策はされている事でしょう・・・よって脱出支援は現地の領主およびその家臣の方針に従って頂きたい」


「つまり、ぶっつけ本番か」

「申し訳ないですがその通りで・・・保護対象となる領主の情報ですが当主ソーマイト卿とその家族は奥方マィリーン殿に一人娘のマィソーマ嬢の3人です」


 物語の貴族様ってのはお嫁さんが何人もいて子供も増えるから大所帯になる事もあるらしいけど、助けに行く貴族様は至って普通の家庭のようだ。


「あまり考えるべきではないが、もし俺達が到着する前に領民や領主様がモンスターにより手遅れだとしたら・・・」

「そのケースも承知しております、その時はご自身達の安全を優先して速やかに撤退を・・・後はマスター・シォマーニにご報告頂ければクエストは完了です」


 ルーブルの口から最悪のケースを考えた言葉がでる。でも事前にこうした取り決めをしておかないとクエストが終わってもトラブルのもとになる。


「それとマスター、俺達余所者はウルカン領について全く知らない・・・」

「心配無用、最新の地図を渡しておくし現地までは馬車を手配するぞい」


 まったくルーブルの質問には隙が無い。ここまでしつこく質問攻めにしているという事は。


「分かった、この依頼引き受けよう・・・いいなウィルマ?」

「もちろんだよ!早く助けに行こうよ!!」


「おお、ありがたい!立場上私めは参加できませんが宜しくお願いします!」

「うむ、この件は緊急クエストとして扱い現在Cランクのお主らでも参加できるように手配しておく、気を付けて行きなされよ!」

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