第11話

●翌朝

 

 【君は独身の女性?】


 あれ? 寝る時にスマホの電源切ったから分からなかったけど、ローランド、あの後もLINEくれてたんだ。

 

 相手が寝るのを分かっているのに、すぐに返信なんかするのは非常識きわまりないって?

 

 別にいいじゃん。電話と違って、メールやLINEなら都合の良いタイミングで見られるんだし。ローランドだって、わたしがすぐに返信することは期待していなかったと思うよ。

 

 それにしても、ずいぶんダイタン♥ な質問だね。


 え? 男子のフリをすれば、きっと金輪際こんりんざい連絡が取れなくなる?


 まさか。ローランドにそんな下心はないよ。このに及んで、さすがに試す気はないけど。


 まあ、普通に答えておくよ。

 

 〖はい。彼氏はいましたが怠け者で働かず、仕事を探そうともしませんでした。家業の農業ですらダラダラやっていた感じです。頭だけは良かったんでしょうけど、ダメ人間ですね。

 

 五年以上も付き合って、就活も結婚もする気がないようなので、わたしも頭に来てメールで別れ話を切り出したら、気が狂って自分の家に放火して、その後自分で消火して、挙げ句に自分で通報して逮捕されました。


 それから警察や弁護士がわたしの所に話を聞きに来て、わたしまで犯罪者扱いされ、本当に大迷惑でした。あのダメ人間、それだけの行動力を他に向けられなかったんですかね……?〗


 ああ、やばっ。なんか愚痴みたくなっちゃった。こんなの、ローランドにとっては関係ないし退屈だしどうでもいい話だよね。

 

 でも、あの自作自演自滅野郎、最低最悪だったんだよ! 


 〖あのクソ男、まるでわたしのせいで自宅に放火したようなことを警察や弁護士に言ったようなんです! そうじゃなきゃ、特に弁護士の方、あんなに感じの悪い態度で来るわけないですし! 


 ありのままを話したら、さすがに後半には態度が変わりましたけど、でも、あんなクソ男の戯言ざれごと鵜呑うのみにするんですから、日本の弁護士のおつむのレベルも大したことないですね。アレで司法試験をパスしたなんて信じられないです〗


 そうちゃん、邪魔しないで。ローランドにはきちんと話しておいた方がいいと思うの。


 〖でも、あのクソ男の妹さんは理解してくれました。聡明で美人な方でした。本当にあのクソ男と兄妹なのかって疑いたくなるほど、人間としてできた方でしたよ〗


 【…………ああ、そんなことがあったなんて………災難だったね】


 ローランド引いてるかもって? そんなことないでしょ。あのクソ男と違って、うつわが大きい男だよ。お猪口ちょこと太平洋ぐらいの違いはあるって。

 

 まったく! 思い出したらまたムカムカしてきた!


 他にも、あのクソ男のダメダメエピソードを上げたらキリがないからね!

 

 米作りに専念したいからって正社員の仕事を辞めて、それからアルバイトをするわけでもなく、田植えのシーズンになってもチンタラチンタラチンタラチンタラ×1000000やってて、最終的に田植え終わったのが六月の半ばだよ!? もう梅雨入りしてるじゃん! 他の地方はどうか知らないけど、北関東でそんなノンビリ田植えしているデレスケいる? 


 しかも刈り入れしたのが十一月初旬! 奥日光おくにっこう戦場ヶ原せんじょうがはら辺りなら初雪観測されちゃうんじゃないの!? 会社勤めをしていて、天候との都合が合わなかったとかなら分かるけど、専業農家でそんなルーズにやってる奴初めて見たよ!

 

 ……あ、デレスケって、莫迦とかアホとかマヌケとかって意味ね!

 

 あとね、ルーズって言えば、猫もそう! 生後数日の赤ちゃん三毛猫を飼っていたんだけど、『予防接種とかしないの?』って訊いたら、『しなくてもこんなに元気だよwww』とかアホ面で言って、それから避妊手術すらしなかったから、約半年後には妊娠して仔猫四匹も産んで! 

 

 一匹は貰い手がいたんだけど、あと三匹は見つからなかったから結局その仔猫達も育てることになって、しばらくして母猫が交通事故で死んじゃって、あれは可哀想だったと思うよ! 

 

 で、半年ぐらいしたら、三匹の仔猫達が兄弟姉妹間でマウンティングを始めたとかで、あのクソ男、慌ててその仔猫達に避妊手術を受けさせたんだよ。

 

 切羽せっぱ詰まらなきゃ行動に移せないんだね。莫迦だから! 遅すぎるっつーの!


 ここまで全部ローランドに聞いてほしいところだけど、これ全部英語にするのはちょっと大変だからやめておく。


 【……日本の弁護士のレベルが低いとは思いませんが……。でも、アヤナ。君の気持ちはよく分かります。彼氏と別れてどのぐらい経ちますか?】

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る