第7話

 【娘が一人いますが、私は独身で兄弟姉妹もいません。私が八歳の頃、両親は服毒自殺をしてしまいました。以来、身寄りのない子供として孤児院で育ちました。


 若い時は、地獄のような生活から何とか抜け出そうと必死でした。両親がいないため、良い学校にも行けませんでしたが、そんな困難に負けまいと死に物狂いでした。親戚からも見捨てられ、私は昼も夜も、一日中泣きながら、とにかく神に祈り続けました】


 え? 急激に嘘くささが増した? 悲劇のヒーローをかたる、友達いないニセ医者? 今時、こんな映画やドラマみたいな不幸な人間いないって?


 ちょっと、そうちゃん。あんたどんだけ性格屈折くっせつしてんの? ローランドは逆境の中、血のにじむような努力をして、やっと医者になれたんだよ。たくさん苦労をした人は他人の苦しみも理解できる。だからMSFに志願したんだよ。苦境の中のウクライナの人達の助けになりたいと思ったんだから。


●翌朝


 なんか、昨夜は辛いことを思い出させて、ちょっと悪いことしたかもね。謝っておこう。


 〖嫌なことを思い出させて、本当にごめんなさい。神様がつねにあなたと共にいてくださると信じております。そして、わたしの心も、いつもあなたのそばにいます〗


 会ったこともない相手の傍にいるなんて、正気の沙汰さたじゃないって?


 もうっ! いちいちに受けないでよ! 社交辞令じれいとか言葉のあやとかって知らないの? 辛い過去を思い出させちゃったんだし、少しでもなぐさめになればいいじゃん。そういう気持ちは大切だって。


 ひとまず、ちょっと話題変えるわ。


 〖あと、これは本日のわたしのお弁当です。ところでローランド、あなたはいつもどんな食事をしておりますか?〗


 ちなみにね~、今日のお弁当はなかなかの自信作なんだ! お弁当の画像を送信!


 ……って、お料理が得意な女子ですって、アピールしたいわけじゃないからね、別に!

 

 こういうのを見れば、戦場で働くローランドも、いくらかでもなごめるだろうなっていう気遣いだよ、き・づ・か・い。


 【お弁当ですか、美味しそうですね。とても興味深い。私はいつも七時に仕事を始め、十二時に昼食、その後、戻って三時まで仕事、様々な雑務もあり、最終的には夜の九時半までかかります。仕事の後は、大抵ブルースを聴いてリラックスしています。


 時には、土曜日に書類に目を通して整理もします。それに、定期的に巡回して兵士達を診察し、彼らのカルテを作成しています。基本的に、日曜日は休みです】


 なんでまた質問に答えないで、いてもいない業務内容を説明してるのかって?


 ……まあ、ちょっと変だけど、知ってほしいんだよ。いいじゃない。こっちもMSFの仕事には興味あるんだから。


 まったく、そうちゃん、ローランドからのLINEにいちいち難癖なんくせ付け過ぎ。


 【お弁当は自分で作るのですか?】


●その夜


 【こんばんは。どのように一日を過ごしましたか?】(日本語)


 ローランド、またこっちからの返信が待ち切れなかったのかな~♪ せっかちねヾ(*´∀`*)ノ♥


 え? やっぱりコイツ、ヒマなのかもって? 


 何言ってんの。ローランドも忙しい合い間をってLINEをくれてるんだよ。


 そんなことより、帰ってから、さっきまでうたた寝しちゃった。早く返信しなきゃ。


 〖帰宅してしばらく寝てしまいました(´Д⊂ヽ お弁当は毎朝自分で作っています。でも、早起きが苦手な上に、料理もあまり得意な方ではないので、ちょっと大変です〗


 お料理大得意ですぅ~!!! とかアピールはしないよ。まあ、人並み程度にはできると思うけど、あくまで謙虚けんきょにね。自分からハードルは上げないように。


 〖ローランド、兵士達や人々にとって、あなたのお仕事はなくてはならない、とても重要なものであることが分かりました。改めて、とても尊敬します〗


 褒め過ぎだって? そんなことないでしょ。大勢の人達の救いになってるんだから!


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