4章

4-1.違和感

 朝起きて、不思議な感覚がする。頭のもやが晴れない。

 大切な人がいたような気がする。目醒める度、そんなことを考えてしまう。


 空白の15日間。そこに何があったのか。


 ヨルはまだ、何も思い出すことができていない。

 梅雨が明けて、季節は夏を迎えようとしている。

 今日は、ツグミがヨルの休暇申請を出してしまったため、一日休みだ。


「散歩でもしてみるか」


 習慣で淹れたコーヒーは飲み終えてしまい、気晴らしに外に出てみようと思った。

 Tシャツにジーンズとラフな格好に着替え、ヨルは街へ出た。

 外は風が緩やかに吹き、街路樹につく新緑の葉を揺らしている。

 平日の昼間だからか、人通りはまばらだ。


「……ハンカチ、落としましたよ」

 そう声をかけられてヨルは振り向いた。

 みそらいろのパンプス、リブニットのワンピースを着た女性がいた。

「あ、どうも」

 顔に見覚えはない。つまり赤の他人だ。それなのにどこか引っかかった。

「……どこかで、会ったことありますか?」

 女性は驚いたように目を見開き、顔を背け隠した。

「あ、いえ。ナンパとかじゃないんです」

 その様子がヨルには怖がっているように見えて慌てて訂正した。

「……」

 女性は沈黙のままだ。


「ただ、あなたとは初めて会った気がしなくて……。それで、つい声をかけてしまって……」

 ヨルはしどろもどろに言葉を繋ぐ。未だ頭の中のもやは晴れない。

 女性は顔を上げ、薄く微笑んだ。

「きっと人違いですよ」

「そっか。……そう、ですよね。すみません」


 ヨルはそう言い立ち去った。

 女性はヨルが去るまで背中を見ていた。

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