モモちゃん、売上のために一肌脱ぎます!(本当に)

 ――翌朝、ザルードの街のやや外れにある商店街。

 メインストリートよりかは静かではあるが十分に活気があふれているそこには、多くの露天商たちが店を出している。


 遠くの街から運んできた食べ物、美術品、魔法道具等の珍品を取り扱っているそこは、物好きな人間たちが集まる場所でもあった。

 生活必需品のような品物は売っていないが、偶に見て回れば掘り出し物が見つかるかもといった具合の期待を抱かせるそこに、本日は新入りがやって来ている。


 ゴミ捨て場から拾ってきた壊れかけのテーブルにライオから借りたクロスを掛けただけの質素な露天を出したモモは、パンパンと大きく手を叩いてから道行く人々へと声をかけていった。


「さあさ、寄ってらっしゃい、見てらっしゃい! 新人グラビアアイドルモモのデビュー写真が、本日販売開始しましたよ~!」


「おん……? なんだ嬢ちゃん、新顔か? ぐへへ、何売ってんだい?」


「いらっしゃい! 私が売ってるのはね、私のグラビア写真! つまり、こういう物だよ!!」


 景気のいい声に反応した一人の男性が、鼻の下を伸ばしながらモモへと声をかけた。

 その視線は大きく膨らんだ彼女の胸元やチラチラとへそが見え隠れしている腹部へと向けられており、完全に下心が丸出しである。


 しかし、モモはそんな男性の様子にも一切嫌悪感を示すことなく、売り物である自身のサイン付きグラビア写真を見せつけてやった。


「むほっ!? これは、これは……! すげえ精巧な絵だなあ!! モデルは嬢ちゃんかい?」


「うん! どう? すごいでしょ!?」


「確かにすげえなあ……! 乳も尻もでっかくって、俺好みのエロい体してるぜ」


 写真の中のモモと、目の前にいる彼女との姿を見比べて、その胸や尻の大きさを確認する男性客。

 ほぼセクハラといって差支えのない行動なのだが、その視線にもモモは動じずにニコニコと笑みを浮かべている。


「……気に入った! 嬢ちゃん、この写真はいくらで売ってるんだ?」


「まいど! 写真一枚で銅貨三枚で~すっ!!」


「へえ、安いじゃねえか。そんじゃ、ほい!」


 こんなに精巧な絵なのだから、もっと値が張るかと思っていたと言わんばかりの表情を浮かべた男性は、財布から鈍い光を放つ銅貨を三枚取り出すとモモへと手渡した。

 モモもまた、初の客である彼へと愛想よく笑顔を見せながら、頭を下げて感謝の言葉を告げてみせる。


「お買い上げ、ありがとうございました~! また新作が撮れたら売りに来るから、楽しみにしててね~! それと、私の名前はモモ! この名前も覚えてほしいな!!」


「おうよ。モモだな? 絵描きだかなんだかわかんねえが、頑張れよ!」


 グラビアアイドル、という仕事の宣伝はできなかったが、モモの名前を覚えてもらうことはできた。

 開店早々に一枚写真が売れるという順調な滑り出しに大喜びするモモであったが、こんなのはまだ序の口であったようだ。


「おい、お嬢ちゃん! この絵、どうしたんだ?」


「絵、なのか……? まるで実物をそのまま閉じ込めたようだ……!」


「着ているのは下着……いや、水着か。にしても美しい女体だなあ」


「わわわっ、わわっ!?」


 気が付けば、粗末な露店に何人もの男たちが詰めかけており、全員が見本として置いてあったモモの写真を食い入るように見つめている。

 写真という文化を知らない彼らからすれば物珍しいということもあるのだろうが、その中に写る彼女の姿に魅了されている者も数多く存在しているようだ。


「ふむ、この美しい肌、艶やかな髪、大きく膨らんだ胸と尻……素晴らしい、最高のモデルだよ」


「絵の出来も素晴らしいが、モデルの美しさも抜群だな!」


「おお、これは……! なんとも目を引かれる美しい女性の姿ではないか……!!」


(およよ? もしかせずとも、これってチャンスなのでは!?)


 予想外の事態だが、自分が注目を集めていることはわかる。

 ここで名前を売らずしてどうするのかと判断したモモは、勢いよく着ていたシャツとハーフパンツを脱ぎ捨てると、集まった客たちの前で写真と同じ水着姿を披露した。


「うおおおおおっ!!」


「は~い、ちゅうも~くっ!! こっち見てくださ~いっ!!」


 かわいらしくピースをしながら、お茶目にウインク。

 刺激的な姿を曝したモモの行動に男たちが歓声を上げる中、彼女は思い切り自分の武器を使って大々的なアピールを行っていく。


「本日デビューしました、新人グラビアアイドルのモモで~すっ! まだまだわからないことばかりだけど、一生懸命勉強して色んなことをしていきたいって思ってるから、名前だけでも覚えてくれると嬉しいにゃんっ!!」


「おおおおっ!!」


 顔に手を寄せ、猫のようなポーズを取りながら両肘で胸を押し込んでその大きさと谷間をアピールするモモ。

 男性たちの視線が自身の胸に集まっていることを感じながら、彼らの熱が高まっていることを確信しながら……彼女は、弾けるような笑みを浮かべながら叫ぶ。


「私のデビューブロマイド、銅貨三枚で売ってま~す! サインも付いてる限定品で、これからこんな感じの物をいっぱい売っていく予定だから……是非とも、みんな買っていってねっ!! ちゅっ!!」


 ウインクをしながらの投げキッスに、男性たちは完全に心を掴まれてしまったようだ。

 あまり高くない値段ということもあってか、モモに魅了された客たちは我先にと彼女の写真を購入していく。


「買う! 買うよ! 銅貨三枚なんだろ!?」


「俺は三枚買うぞ!」


「俺にも売ってくれ! 五……いや、十枚は買わせてもらう!!」


「わわ~っ!? そ、そんなに慌てないで! 順番、順番にお願いしま~すっ!!」


 熱狂の渦に包まれた露店にて、水着姿のモモは男性客たちへと自身の写真を売り続けていく。

 客たちは、モモへの熱意を表すかのように複数枚の写真を購入していき、その数はどんどんエスカレートしていくばかりだ。


 途中で販売制限をつけたものの、それでもモモのグラビア写真は飛ぶように売れ続け……あっという間に完売してしまった。

 最後の一枚を買った客は、顔を真っ赤にしながらモモへと言う。


「あ、あの、も、モモちゃん! な、名前、覚えました! またモデルになった絵、買いにきます! が、頑張ってください!」


「本当にありがとう! 喜んでくれたら嬉しいな!」


 その客を見送り、山のようにあった写真たちが完全に売り切れたことを改めて認識して……じわじわと込み上げてきた喜びに拳を握り締める。


「……っし! よし! やった、やったぁ!!」


 この世界には存在していなかった写真という技術に興味を引かれた者もいるだろう。

 いきなり水着になったモモが起こした熱狂に当てられ、ついうっかり写真を購入してしまった者もいるだろう。


 しかし、それでも……最初に写真を買ってくれたあの男性客のように、自分に魅力を感じてこの写真を手元に置いておきたいと思ってくれた人もいた。

 そして最後の客のようにモモをこれからも応援すると、ファンになってくれた者がいたこともまた間違いないはずだ。


 大量の銅貨を包む袋は、ずっしりとした重みをモモに感じさせてくれている。

 これが、異世界人たちの自分への評価。グラビアアイドルとしてデビューしたモモのことを、彼らは魅力的だと思ってくれた。

 そのことを心の底から喜ぶ彼女は、人通りの多い道の端で何度も幸せを噛み締め続けている。


「やったんだ、私! 私は、グラドルとして認めてもらえたんだ……!!」


 涙があふれそうになるくらいの感動を覚えながら、喜びに心を震わせながら、笑みを浮かべて頷き続けるモモ。

 今までとは違う意味で胸を弾ませる彼女は、そこから暫くの間、水着姿のままで喜びを享受し続けるのであった。

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