第32話 侯爵家崩壊(2軒め)

 「はは‼️そこ狙うとか、鬼か⁉️ミウ‼️」

 こう言う時、サチはわざとはすっぱな言い方をする。

 完璧メイドのフリも出来る。

 実は子爵家に12歳までいて、礼儀作法はしっかりクリア。

 なのにスラムの経験が酷すぎて、自ら『そう言う者』になろうとするから、悲しくなる。

 「さすがドS兄貴の妹‼️」

 「姉さん‼️」

 笑い飛ばそうとする、サチに怒鳴る。

 感情がグシャグシャで涙になった。

 「お願い、姉さん‼️すぐに自分を盾にしないで‼️自分を大切にして‼️」

 泣きながら叫び、叫びながら泣く。

 ミウはサチにすがり付く。

 平均より小さめなミウだから、まるであの日の再現だ。スラム時代もすがり付いて泣いた。

 本当に……

 「変わらないな、お前。」

 「姉さん、返事‼️」

 「ああ……」

 それでも、またやる自信がある。

 これが自分の性格だから仕方がない。

 「善処します。」

 『やらない』とは言えないサチの最大限の譲歩に、仕方がない、

 「今回は許す‼️」と、ミウも話を打ち切った。

 「で?ドS兄貴は⁉️」

 「多分侯爵のところ。」

 「んじゃ、殺しちゃう前に止めよっか。」

 当たり前に立ち去ろうとする、2人の背景には股間を押さえる男が2人、呻いている。 

 「で?あいつら、治してやらないの?」

 「やらないよ。ちゃんと考えて焼いてるもん。」

 「?」

 「一部は焼かずに残してある‼️トイレには行ける‼️」

 「なるほど。」

 事も無げに立ち去る2人。

 背景は最後まで背景で、こちらもけっこうなSだった。


 「え?」

 「なんで?」

 「白銀⁉️」

 思わず出た言葉も言い切らぬまま、

 「うわっ‼️」

 「ぎゃあ‼️」

 口々に叫んで、レッドローズビル侯爵の護衛が、執事が落ちていく。

 侯爵の執務室は2階にあり、部屋の中央にいきなり転移して来た銀髪の青年が、軽く腕を振る度に窓から落ちる。

 風魔法で飛ばしたのだ。

 「ま、2階だし死にはしないさ。」

 不敵に笑う青年を、侯爵は誰だか分かっていた。

 「イオ・リバーウェル伯爵……」

 そして彼が来た理由も。

 「よくもうちの人間に手を出したな。」

 凄まれて、言葉が出ない。

 10代とは思えない迫力だった。

 娘の頼みで伯爵邸を強襲した。

 全ての護衛を放り捨てられ、自分1人で対応するなど予定外だ。

 瞬間、イオの青い目に深みがまし……

 「ああ、確かにオレは火魔法好きだから、その対策をするのは正しいよ。でも……」

 服の下に金属製の小手を隠していた、侯爵はギョッとしたが、次の瞬間‼️

 「ぐう‼️」

 思わず声が漏れた。

 急に空気が重くなる。

 大きな荷物を背負ったようで、その場に尻餅をついたが、更に重くなる。

 柔軟体操でもするかのように、体は2つ折りのまま押さえつけられ骨の軋む音がする。

 「これが重力魔法だ。あと、」

 急に右手が伸ばされた。

 巨大な手で絞られるような力が加わる。

 「うぎゃあぁぁぁ‼️」 

 右手が捻りあげられ、骨がバキバキ音をたてて砕けた。

 「これが空間魔法、な。」

 イオがにこやかに、

 「全属性持ちに喧嘩を売る意味、わかったか⁉️」と尋ねたと同時に、

 「パパァ?」と、今回もっとも間が悪かった女が現れる。

 王太子の婚約者候補、マリアン・レッドローズビル侯爵令嬢、その人だ。

 「あの生意気な女、ミウって子、片付けてくれたの?」

 「なるほど、お前か。」

 修羅場の執務室に飛び込んだマリアンに向けて、イオの小太刀が振り抜かれる。

 

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