第31話 黒銀の怒り

 うーん、またこの展開かぁ……

 強引に馬車に押し込められ、どこかにゴトゴト運ばれる。

 目隠しをされ猿轡をされていたが、多分リバーウェル邸を出て4、5時間といったところか?

 王都だろうなと予想がつき、内心大きくため息をつくサチだった。


 アルルとローサと、3人で昼食を済ませた直後だった。

 元来5人しかいない、他人の入る余地のないこの家の庭が騒がしくなる。

 馬のいななき。ガチャガチャとした金属音は多分剣だ。

 敵襲だろうと判断する。

 本人たちの資質は人に憎まれるようなものではないが。

 イオ、ミウの兄妹は敵が多い。

 いわゆる武力による成り上がりと判断するからだ。派手に戦ったのが6年前。忘れて無茶なことをしでかすタイミングだった。

 アルルとローサを守らねばならない。

 決して出てこないよう言い含めて、2人をクローゼットに隠す。

 「何か御用ですか?」と、極力無知で無害なメイドを装う。

 「余計な抵抗をするな。」

 「付いてこい」と拘束された。

 鑑定魔法によれば……

 レッドローズビル侯爵の手の者だ。

 ミウと……

 本人には全くその気はないが、王太子の正式な婚約者を争う間柄の、マリアンとかいう19歳の娘がいる。

 これは王宮での権力争いの一環だろう。

 大魔法使いといわれる、イオ、ミウに直接挑むのは躊躇われ、無力なメイドを人質にした。

 貴族にとって平民のメイドなど物の数ではないが、あの兄妹が情に厚いことは有名だ。

 所詮平民、丁寧に扱う必要がなく、兄妹には最高の交渉材料になると思ったのだろうが……

 見通しが甘いなぁと、他人事ながら心配になるサチだった。


 「レッドローズビル」と、ローサが言った。

 しっかり賊を鑑定したのだ。

 「いつ頃攫われた?」と、イオが聞く。

 「昼過ぎ。」

 「今から5時間くらい前か……なら、王都の別邸についたあたりか。」

 レッドローズビルの領地は王都のはるか西だったが、王立学院に通う子供がいる貴族は、往々にして別邸を持つ。

 レッドローズビルも持っている。

 「転移して助けてくる。」

 「待って、イオ。」

 「?」

 「あたしがサチを助けるから、イオは侯爵を。」

 ミウの目が怒っている。

 普段はイオが攻撃、ミウが癒しと住み分けたが、ミウはイオのコピーなのだ。

 本人達以外誰も知らないが……

 ミウは攻撃魔法も全ていける。

 決意の瞳に、

 「わかった」と、うなずくイオ。

 初の超攻撃的兄妹デュオが、侯爵家に吹き荒れる。


 レッドローズビル侯爵別邸についた途端、倉庫らしき場所に押し込まれるサチ。

 「逃がさないよう見張っていろよ」と、上官に言われたのは2人の男だ。

 貴族の使用人とはいえ荒事部隊は、下に行けばただのごろつき、理性や矜持はありはしない。

 本人はその壮絶な育ちから認めていないが……

 サチは飛び切りの上玉だ。

 金髪というより白っぽい、クリーム色の髪。細すぎるのが玉に瑕だが、上品な顔立ちをしている。

 男たちの目的は1つだったが、サチの目隠しと猿轡を外し(叫ばせたい、嫌悪されたいといった感覚だろう)襲い掛かろうとした瞬間‼

 目の前に黒銀が転移した。

 「ぎゃあっ‼」

 「うわっ‼」

 あれがポーク〇ッツより短くなった事実に……

 焼け付く痛みがひど過ぎて、今はまだ気づけない。

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