第10話 謁見、そして

 「この度はオーガの魔王種の討伐、まことにごくろうであった。」

 王に言葉を賜っても、イオは頭を下げるでもない。

 王宮に入るには不適切すぎるボロボロの平服で仁王立ち、黙って前を見つめるのみだ。

 「なんだ、あやつは‼」

 「無礼者め‼」とざわめくものの、主人である王が怒らない以上、騒ぎ出すわけにもいかない。

 謁見室に居並ぶ貴族達も歯噛みして耐える。

 「オーガの討伐報酬で白金貨10枚、素材代で白金貨7枚、あとは大金貨3枚だったな。」

 イオの前に皮袋に入れられた白金貨17枚と、大金貨3枚が運ばれた。

 「うん」と、初めて声を出す。

 当たり前に袋を持ち上げ、当たり前に出ていこうとする小さな背中に、

 「まあ、待ちなさい」と、王様。

 「イオ少年は、家はあるのか?」

 「ない。買うならこれで買う。」

 「なら、アルタン伯爵が君を養子にすると言っておる。買わなくていいぞ。」

 さも魅力的なように言うから間髪入れずに断った。

 「お断りだ。」

 「なに?」

 「報告で聞いているだろうが、オレはこの国が嫌いだ。いつでも出ていけるようにしたい。縁組は余計だ。」

 歯に衣着せぬ物言いだ。

 ついに耐えられなくなった。

 「小僧‼王様に対し無礼だぞ‼」と掴みかかってきたのは、今話題のアルタン伯爵その人だった。

 瞬間‼

 全属性のイオとは言え、得意不得意というか、好き嫌いみたいなものがある。

 イオが好きなのは火の魔法。

 いつもは射出する炎の矢を、剣のように振りぬいた。

 伯爵の右腕が肩口から切れた。傷口を焼かれて血は出ないが、皮1枚でつながっている。

 信じがたい有様に絶叫する伯爵。

 そこに近づいたイオは、過去への回帰なので厳密にはヒールではない、しかし回復魔法を使うと、これまた一瞬で腕が戻った。

 「2人目は治さない。」

 静かだけれど、響く声だ。

 国王含め、全員が動けない。

 敵対を選ぶなら、今この場で全員を殺害する覚悟だったイオは、割り込んできた穏やかな声に救われる。

 「大丈夫だよ、父様も、皆さんも。」

 王太子のハルトだった。

 「余計な詮索さえしなければ、イオ君はここを出ていかない。そうでしょ?」

 人好きのする笑顔で微笑まれ、チラリとシャンデリアに目をやった後、

 「まあな」と、イオは頭をかいた。

 「なら、王都に住むといい。王都の貴族の子弟と、魔力の多い平民は、16歳になったら王立学院に進むんだ。イオ君も来るといい。僕が最終学年にいるはずだから。6年制だし。」

 「10年先の約束か。」

 緩やかな拘束は、具体的に縛り付けようとするものよりやっかいだと思ったが……

 「まあ、いいだろう」と、イオは言った。


 後で王様に尋ねられたハルトは、

 「大丈夫と思いますよ」と、今一度言う。

 「なんか、目がキラキラしてたし」、と。


 

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