第9話 第2次世界大戦中のアメリカの都会のような

 あれから10日の旅の後、イオの乗った馬車は王都へ、そして王宮へと向かっていく。

 町並みは、テンプレの『中世ヨーロッパ』では無い。

 もう少し進んだ感じ。

 ああ、あれだ。映画なんかで見る20世紀初頭のアメリカの都市。

 無骨なビル群あり、露天商あり、薄汚れたスラムあり。

 ちなみに王宮に行くのに、イオはいつもの擦り切れた服だ。

 現金がない、彼にはそれしか服がない。

 王太子であるハルトが用意しようと申し出たが、嫌いな国の世話にはなりたくなかった。

 施しはいらないと突っぱねて、旅の間食事も自分で用意した。

 ホーンラビットならあちこちにいる。魔法があるから獲るのは簡単。

 魔ガモなんかも獲れる。

 肉類ばかりで飽きるには飽きるが……

 食べられるだけ良しとしよう。

 実は現金を手に入れるチャンスは1度、両親を裁いた時にあったのだが。


 「ギルマス、オレに大金貨3枚寄こせ」と言うと、無慈悲な強盗にでもあったような、驚愕の表情を浮かべる。

 図々しい。

 人の名前を覚えないバカに、そんな顔をされるいわれはないと思う。

 両親には、オレを売った同額の借金をさせ、その分で借金奴隷にしてもらった。

 借金相手はギルマス、のつもりだったが、彼に手持ちはないという。

 仕方がない。オーガの報奨金及び素材代にプラスされる。

 結果、王宮での謁見まで現金は支払われないので、イオは文無しのままなのだ。

 両親は『奴隷』にはなるが、大金貨3枚なら2、3年で返せるだろう。

 ちなみに大金貨3枚あれば、そこそこ贅沢に1家族が1年暮らせる。

 奴隷の間は仕事は選べず、汚い仕事、きつい仕事がメインだが、妹とも暮らせるだろう。

 我ながら甘いと思う、大岡裁き(?)だった。


 やがて、王宮が近づいてくる。

 窓から見ていたイオは驚いた。

 イギリスやフランスの観光情報番組で見た、とんがり屋根の王城だ。

 その日は雨がいつ落ちるかと言う曇天だったが……

 曇り空を切り裂くように映え、美しいと思った。

 いつもの着の身着のままで、裸足のイオは王宮を行く。

 毛足の長いカーペットは、今世では初めての感触だ。電気はない世界である。何をエネルギー源としているかわからないが、キラキラのシャンデリアもある。

 イオは一瞬、女子高生だった糸に戻り……

 いけない、いけない。

 気を引き締めて謁見に臨む。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る