第14話 二日目を終えて

 開店して、最初はぼちぼちだった客入りも、ティータイムの時間になってからは情況が変わった。



「ノエル、そっちのテーブルを片付けて!! ジュデッカはそちらのテーブルにこれを持って行ってくれるかしら? あ、持ち帰りのチョコレートですね、今包みますので少々お待ちください!!」

「「はい!!」」



 試食の効果があったのか、それとも他の理由でもあるのか、店に大量の人が押し寄せてきたのだ。テイクアウトの方もそこそこ人気があり、嬉しいが予想以上に忙しい。

 聞き耳を立てるとその理由がわかった。



「本当だ。ジュデッカ様が接客をしてくれているわ。夢みたい♡」

「ああ、無表情な感じも素敵ね」



 ウエイター姿のジュデッカに黄色い歓声が上がる。ちなみに無表情なのはなれない接客で緊張しているからだと思うのだが、言わないのが花だろう。

 そして、人気の理由はそれだけではないようだ。



「聞きました? ユグドラシル家の話を」

「はい、何でもチョコレートを意中の方に贈ると結ばれるらしいですね」



 父の惚気が広まったのか、他のご婦人や男女問わず貴族が買いに来ているのだ。まあ、うちの家の両親の仲があまりよくないっていうのは有名だったみたいだしね……

 まあ、実際はすれ違っているだけだっだのだが、それが解決してイチャイチャしているのを見ればチョコレートの力だと勘違いされてもおかしくはないだろう。



「あ、おねーちゃん。今度はお客さんとしてきたよー。友達にも分けてあげるの!!」

「ありがとう。ちょっとだけおまけしておくわね」



 さっきチョコレートを食べてくれた少女までテイクアウトでやってきた。そこそこ高いがお母さんにおねだりでもしたのだろうか? おまけとしてチョコレートのかけらをプレゼントしてあげる。

 そして、ティータイムのピークがすぎたこともあり、一時休憩の張り紙をあって休む。こんなの身体がもたない……あとはもう、晩御飯の時間である。時間も時間だし、テイクアウト以外はそんなにこまないだろう。



「お嬢様……ジュデッカ様……大丈夫ですか?」

「私は鍛えていますから大丈夫ですが、リンネは……?」

「うう……まさかこんなにいきなり来るとは……嬉しいけど疲れるわね……」



 一息ついて椅子に座る。前世で接客業のアルバイトをやっていた経験があったおかげで何とか回せたが、だいぶ疲れた。チョコレートの在庫もそろそろつきそうである。

 

 こんな時は……やっぱりチョコレートよね!!



 厨房の方へと向かう私をよそにノエルとジュデッカが雑談を始める。



「それにしても……貴族の方々の間でチョコレートを想い人に渡すと結ばれるという噂がながれているようですね……」

「ああ、それでなんですね。令嬢たちからチョコレートを頂いてしまい困惑していたんです」

「ジュデッカ様はモテますね。そうは思いませんか、お嬢様」

「そうね……まさか、あの噂でもこんなに繁盛するなんて思わなかったわ。両親には感謝ね」



 それだけ我が両親の話が印象的だったのだろう。きしくも前世のバレンタインデーのようで私はクスリと笑う。

 異世界に行っても女の子は恋に夢中なのだ。私はチョコレートに夢中だけど……



「ジュデッカ、チョコレートはいるかしら? ちょっと果物を混ぜてみた新製品なんだけど……」

「そのチョコレートは……まさか!?」



 私が父からのお祝いの果物で作ったチョコレートを取り出す疲れが吹き飛んだかのようにジュデッカは目を輝かせる。

 流石チョコレート友達である。新商品には目が無い様だ。



「そうなの!! 中に刻んだ果物を混ぜてあるんです!! 試作だから二人に食べてもらおうと思って。ノエルもどうぞ」

「ああ……そういうことですか……」



 私が満面の笑みで差し出すとなぜかジュデッカの元気がなくなる。一体どうしたのかしら? 彼の手者には体力のチョコレートがつんである。ああ、そういうことか……



「ジュデッカは……それだけあるならやっぱりいらないかしら?」

「いえ、いただきます!!」

「お嬢様……」



 私たちのやりとりを見ていたノエルがなぜか溜息をついて頭を抱える。一体どうしたのだろう、果物とチョコレートって抵抗あるのかな? でも、ショートケーキとかは普通にあるのよね……



「すいません、まだやっていますか?」

「はーい、いくつか商品は切れていますが、やっていますよ」



 ノエルがお客さんを迎えにいったので私も準備をしようと思ったところだった。その来訪者に見覚えがあった。

 彼女が一体どうしてこの店に? そうそれはとても可愛らしい服装を着て、少し緊張したようすのアリスだったのだ。

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