第7駅 セントラル駅の夜 ~セントラル駅着~

 僕はこのままセントラル駅を通過し、穀物が生えている場所を目指そうとしていた。でも、エディが仲間に加わったことで計画を少し変更しようと思っている。

 エディは五歳の時から今まで聖獣のトラに育てられたので、当然ながら服なんて成長と(おそらく)野生生活でボロボロになって着られなくなったので、裸だった。それと身体が汚れている。

 だから、エディが着る服の調達と、シャワーを浴びにセントラル駅で一泊することにした。幸い、食料(フルーツ)は多めに確保してあるし。


「すごいのだ! これ、トシノリが建てたのだ?」


「スキルを使ってね。『駅』って言って、ここでお客さんとか荷物を載せて別の駅に運ぶんだけど……僕達しかいないから、実質寝泊まりする場所になっちゃってるけど……」


 セントラル駅に着いた僕達はシャワールームに直行。

 エディの身体を洗わなくちゃいけないし、どうせ濡れるならと僕も服を脱いで一緒に入ることにした。


「狭い場所なのだー」


「本当は一人用だしね。とりあえず使い方を覚えちゃってよ。一人で使う分には十分な広さなんだから」


 シャワールームと言っても、実際には洗濯機が付いた洗面所とジャワ-ブースがある空間なので、二人いっぺんに入って使うと狭い。

 でも、エディはシャワーを使うのが初めてらしいので、こうやって一緒に入りながら使い方を教える必要があった。


「ここを捻ると、ここからお湯が出る」


「わっ!? びっくりしたのだー」


 エディの身体をお湯で濡らし、まずはシャンプー。トラ耳に泡や水が入らないように注意する。

 シャンプーを流したら、次は身体を洗う。シャンプーはなぜかリンスインシャンプーだったので、リンスを使う必要はなかった。

 ボディーソープを濡らしたボディタオルに付け、泡立たせてから身体をこする。

 全身こすり終えたら、またシャワーで泡を流す。


 で、エディの身体を洗っている最中気付いたことがあった。


「あれ? 長い間野生で生活していた割には、汚れが少ないような……」


「水浴びしてたからなー。涼んだり、泳いで獲物を追いかけたり、あと匂いを消したり。匂いがキツいと、獲物に気付かれて逃げられるのだ」


「ああ、なるほど。だから汚れが思ったより少ないんだね。……よし、これでシャワー終わり。あとは外にあるバスタオルで身体を拭いて、着替えれば終了だよ」


「わかったのだ! ……あ、でも、これからトシノリも身体洗うんだろ? エディが洗ってやるのだ!」


「うーん……じゃ、お言葉に甘えようか。さっき教えたことの練習にもなるだろうし」


 というわけで、僕はエディに頭と身体を洗って貰った。

 エディはかなり頭が良く、所々やり方が乱暴ながらも危なげなくシャワーの使い方をマスターしているようだった。まぁ、それくらい頭が冴えていないと、いくら聖獣に育てられたとはいえ野生で生き抜くのは難しいんだと思う。


 そういえば、よく考えてみると……。


(同世代の女子の裸を見るの、初めてじゃないか!?)


 僕には姉妹もいないし、同年代の親戚は全員男子だし、幼稚園とか低学年の時から家族ぐるみで仲良くしていた友達もいなかった。だから女子と一緒に着替えたりお風呂に入ったりする機会は皆無だった。


 だから今日が初めて女子の裸を見た日になったんだけど、特に何も感じるところは無かった。

 トラ耳や尻尾のインパクトが大きすぎて、そっちの方に目が行ってしまうんだ。だから、トラ耳と尻尾に馴れてくればまた心境が変わるかも知れない。


「終わったのだ。これからどうするのだ?」


「ありがとう。バスタオルで水気を取って着替えよう」


 シャワーを終えた僕達は、シャワーブースを出るとバスタオルで身体を拭き、着替える。

 予備の作業着に着替えた。動きを阻害しない服だから、こっちの方がいいと思ったんだ。

 ちなみに作業着は上下セパレート式で、上半身はボタンで前を留めるようになっている。さらにエディの作業服は、尻尾を出す穴が下半身にある。僕もこの作業着を見つけたとき、正直驚いた。


「ごめんね。下着は無かったんだ」


「構わないのだ。久しぶりに服を着れてうれしいのだー!!」


 残念ながら、この駅に下着の予備は置いていない。だからエディは必然的に下着無しで服を着ることになる。

 作業服はチャックで前を留めるタイプも存在したけど、下着が無い状態でそれは着心地が悪いだろうと思ってボタン式を渡したんだ。


 着替えたら、今度はドライヤーで髪を乾かす。


「おー、乾くのが早いのだ」


「髪はなかなか乾かないからね。濡らしっぱなしだと痛むし」


 髪を乾かし終えるとすでに日が落ちていたので、夕食にフルーツ、それと余っていたミグラトリ・アナコンダの肉を焼いて食べた。

 その肉の味なんだけど……良く言えば淡泊。悪く言えば味気ない。何か下味を付けないと食べるのが辛い。


「そうなのか? エディはいつもと違う味がしておいしいと思うぞ?」


 そりゃあ、生肉を食べられる人からすればそうかも知れないけどさぁ。




 翌日。朝ご飯にフルーツを食べ、いよいよ穀物をゲットしに客車に乗る。

 前方のデッキから座席があるエリアに入ると少し様子が変わっていた。


 全ての座席の背もたれと座面に、緑色のクッションが設置してあった。


「レベルが上がりましたからね。ステータスをご覧下さい」


 トムにそう言われ、スマートグラスを慌てて起動しチェックする。

 すると、スキルのレベルが5に上がっていた。


「お、これは……」


 追加された機能を見た僕は、急いで後部デッキへと足を運んだ。


「すごい。切実に欲しかったものだ……」


 そこには、今まで存在していなかった扉が一つ。

 中は青いタイル敷きになっていて、白いイスっぽい物体が一つ設置してある。

 壁には『流』と書かれたスイッチと小さい手洗い場、そしてペーパーホルダー。


 つまり、これは……。


「トイレだ……!」


 今まで移動中にトイレに行きたくなった場合、駅まで我慢するか危険を冒して外でするしかなかった。そのせいで昨日は殺されかけたし。

 でも、トイレが客車に出来たから、これからは命の危険を冒すことなく用を足すことが出来る。


 ちなみに、トイレはウォシュレットがない。便器の中は黒く、貯まっている水は駅にあるトイレより少なく、流すと空気と一緒に流れる音がする。

 どうやら新幹線のトイレと同じ方式らしい。


 ちなみに、追加された機能はもう一つあり、『ホッパ車』が使えるようになった。

 ホッパ車とは、漏斗型になった無蓋車みたいなものなんだ。貨物の積み降ろしをよりスムーズにするために設計された貨物車の一種と思えばいい。


 どういうことかというと、小麦、鉱石、石炭みたいな流動性のある貨物を、専用の機械で上から落としホッパ車に積み込む。

 輸送先に付いたら、ホッパ車の底の蓋を開ける。すると、荷物が勝手に流れ落ちて、線路の下に設置してある受け取り装置に自動的に荷物を下ろせるってわけ。


 もちろん、ホッパ車の能力を十分に使いこなすには駅側の相応の装置が求められる。現在の僕らの駅はそんな設備内ので、今は使わない車両かな。


 それと、有蓋車に通気用設備が付いた。と言っても、スリットが全ての壁に付いただけだけど。

 でも、スリットが入るだけで大分違う。温度はある程度下がるし、果物が分泌する成熟促進ガス、つまりエチレンガスを逃がしたり出来るから、ただの有蓋車よりは鮮度を保てるんだよね。

 ちなみに、スリットは閉めることも可能で、雨が侵入しないように出来る。

 


『グラニット号、間もなくセントラル駅を発車します』


 ポォ~~~~~~、ポォ~~~~~~、ポォ~~~~~~!


 トムの放送と同時に汽笛が三度鳴り、列車が動き出した。

 穀物を手に入れる旅が今、始まった。


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