第6駅 トラ耳少女 ~フルーツタウン・セントラル駅間~
「トシノリさん、大丈夫ですか!?」
「うん、まぁ……。この子が助けてくれたから」
ようやく異変に気付いたのか、トムが機関車から降りて助けに来てくれた。
もっとも、すでに終わった後なんだけど……。
「それは良かった……って、あれ? もしかしてエディさんですか?」
「ガル?」
なんと、トムはこの子の事を知っているらしかった。
詳しく話をし、早く安全な車内に入りたかったのでトムとトラ耳の子を客車に乗せ、ボックス席で話をすることにした。
「まず、トシノリさんが襲われた魔物ですが、『ミグラトリ・アナコンダ』というヘビ型の魔物です。毒を持たない代わりに全身の骨と筋肉に魔力を注ぎ込んで強化し、圧倒的なフィジカルで獲物をねじ伏せる戦法を採る魔物ですね。さらに身体の強化方法を応用して骨と筋肉を擬似的な魔石にして大量の魔力をため込めるので、短時間であればレイラインの上でも活動できる能力を持っています」
「ああ、だから僕がレイラインの上にいたはずなのに襲われたんだ」
さらに、レイラインの上でも短時間であれば大丈夫という能力を生かし、レイラインを横断して広い範囲に生息域を広げられるという能力もあるらしい。
とりあえず僕の疑問の一つが解決したけど、一番聞きたいのはそこじゃ無い。
「その女の子は誰? 南部大陸は人間がいないはずじゃ無かったの?」
そう、このトラ耳と尻尾を持った女の子だ。女の子だとわかったのは、この子が全裸だったからすぐにわかった。
まぁ、その子は殺したミグラトリ・アナコンダを食べているけど。丈夫なヘビ皮をバナナでも剥くみたいに剥いで、肉をバナナみたいに食べている。
返り血がひどくてグロテスクな見た目になっているけど、そのことについて何も感じず冷静に見ることが出来ている自分に驚いている。
「ボクもまた聞きで知っただけなんですが、どうも人間の中には特定のスキルを忌み嫌う者がいるそうです。この方――エディさんもそういったスキルの持ち主なのです」
かなり気分が悪くなる話だね。この世界でも差別や偏見は存在するらしい。
その対象が、特定のスキルというだけで。
「エディさんのスキルは『虎の祝福』と言って、取得するとトラの特徴や能力が現れるスキルです。トラ耳と尻尾もこのスキルの影響ですね。ちなみに、『○○の祝福』という名前で動物の名前が入ると、動物の能力を得るスキル系統となります」
「なるほど。それで、エディが南部大陸にいる理由って?」
「魔法使いのせいなのだ」
なんと、トムが話す前にエディが話し始めた。
その口調は淡々としていて、何の感情も抱いていない、どうでもいい事を話しているようだった。
「五歳になったときにスキルが出たのだ。それで耳と尻尾が生えたら、お父さんもお母さんもエディのことを気味悪がったのだ。そしたら魔法使いがやって来て、エディに魔法をかけたら、いつの間にかここにいたのだ」
「おそらく、転移魔法のスキルを持った魔法使いでしょう。人間は子供を捨てるとき、転移魔法を使って南部大陸に飛ばすんです」
ですが、とトムは注釈を入れた。
「転移魔法は現在位置と転移先の位置関係を正確に認識していなければなりません。しかし南部大陸は人類未到の地で、地図すらありません。なので転移魔法はほぼ必ず失敗し、北部大陸の南端辺りに転移します」
「じゃあ、なんでエディは南部大陸に?」
「極まれな確率で、南部大陸に転移成功するんです。数百年に一度とかそれくらいの確率で。エディさんはその極まれな確率に当たったんでしょう」
それはラッキーだね、とは言えない。南部大陸は強力な魔物が跋扈する危険な土地。五歳の女の子が生きて行くにはあまりにも厳しすぎる。
だけど、そんなエディにある救いの手が差し伸べられたらしい。
「ここに来てすぐ、ママに出会えたのだ」
「ママ?」
「白虎の聖獣の事です。聖獣とは南部大陸で千年に一度生まれるかどうかという魔物の一種ですが、生体は魔物とは別種と言っていいほど大きく異なります。人間に肉薄するほどの知能を有し、むやみに戦闘を仕掛けようとはしません。また保有する魔力量が多く、レイラインの上や聖樹の領域といった魔物が住めない場所でも問題なく住むことが出来ます」
そんなスゴイ存在とエディが出会えたらしいんだけど、なんとエディはその白虎に拾われ、育てられたという。
「聖獣が人間を育てているという情報を聞きつけて、ボクは一度見に行ったことがあるんです。ただ、すでにスキルを与えられた人間にまたスキルを与えることは出来ないので、ホントに見ただけで終わりましたけど」
「エディはお前みたいな精霊、見たことなかったぞ」
「影から隠れて見てましたからね」
だからトムはエディのことを知っていたんだ。
「ところで、そのエディのママは今どこに?」
「死んだのだ。強い魔物に襲われて」
また重い話になった。しかもエディは、そんな重い話をさらっと言い放つから心臓に悪い。
「言っておきますけど、聖獣は魔物を凌駕する戦闘力を保有しています。その力をやたらと振りかざすことはしませんが。ですが『相性』というものがあって、聖獣で無い魔物でもその能力次第で聖獣を殺すこともあり得るのです」
「まぁ、これも自然界の掟なのだ。仕方ないことだし、なんとも思ってないのだ。……でも、もしママを殺した魔物を見つけたとしたら、何も思わないわけでは無いのだ」
……うん。所々コメントしづらい所もあったけど、大体の事情はわかった。
だから、今度は提案の時間だね。
「ところでさ、エディはひとりぼっちになったばかりでしょ? だったら、僕と一緒に旅しない? トムと二人だけだとなんか物足りないし、そもそもトムは機関車の運転をすることが多いから一人でいる時間が長くてさ。エディも一緒にいてくれると、うれしいかなーって」
すると、エディは少し考える素振りをして、返事をした。
「わかったのだ! ママとの出会いも偶然だったし、この出会いも何か意味があると思うのだ。だから、エディはお前と一緒にいることにするのだ!」
「ありがとう。あ、名前がまだだったね。僕は井上 俊徳。井上が名字で、俊徳が名前ね」
「わかったのだ、トシノリ!!」
こうして、僕の旅に新たな仲間、トラの力を宿した少女エディが仲間に加わった。
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