第25話 機神ネメシス

「ギギッゴッ!!」

『あれが統率個体――【ヌガー=クトゥン】だとギギッガが言ってます』


 アトラナータがフィリムに言う。


「言葉、わかるんですね!」

『自己アップデートに余念は無いので』


 フィリムはアトラナータの指示に従い、隠れていたそのミ=ゴに狙いを絞る。


「ギギッガッ!!」


 そのミ=ゴは、手に持った光線銃を発射する。

 それは、正確にフィリムを狙っていた。


「うわっ!?」

「ギギィ!!」

「くっ!」


 フィリムは咄嵯に避けようとするが、その光弾は追尾性能を持っていた。


「ギギギギギギ!!」


 無数の光弾がフィリムを襲う。


「ひゃああっ!?」


 直撃こそ回避したものの、爆風によって吹き飛ばされてしまう。


「ギギギギギッ!!」


 さらに追い打ちをかけるように、ヌガー=クトゥンは飛び上がると、上空から落下するようにフィリムへと突っ込んできた。


「あっ!」

「ギイッ!」

「――!」


 その時、間一髪のところで、アトラナータが割り込んだ。


『させません』

「ギイィッ!?」


 ヌガー=クトゥンはアトラナータの腹部を貫き、地面に縫い付ける。


『損傷確認』

「ギギッ!!」


 だが――


『今です、フィリム』

「はいっ!」


 アトラナータの合図と共に、フィリムは飛び出した。


「ギギッ!」


 それに気付いたヌガー=クトゥンは、すぐさま行動に移る。


「ギギッ!」

『――!』


 アトラナータの頭部を掴み、盾にする。


 だが。


 フィリムは躊躇する事なく、アトラナータごと――

ヌガー=クトゥンを貫いた。


「ギギィ……」

『お見事です、フィリム』

「――」


 ヌガー=クトゥンが泡となって消える中、アトラナータが言った。


「――はい」


 そう返事をして、ふらりと倒れ込むフィリム。


『お疲れ様でした、フィリム。私も――もう――』


 そして、アトラナータは機能を停止した。


◆◇◆◇◆


 そして。


 獣王は――その肉体は、ゆっくりと倒れた。


「……やったか」


 フィリムたちが、成功したか。ミ=ゴの統率個体の撃破。


 それさえ為されれば、呪詛菌糸を植え付けらた獣人たちも、脳髄を抜かれ肉体を操られていた獣人たちも解放される。


「まだ、脳髄を肉体に戻すという作業が残っているが」

『いえ、マスター。

 どうやら彼らの頭脳は外科手術で摘出されたのではなく、転送摘出されていたようです。預かっていた獣王の脳髄が、ケースから消失しました。興味深い技術ですね』


 アトラナータからの通信が入る。


「そちらは、抜かりないようだな」

『はいマスター。端末ドローンを一体失いましたが。統率個体を失ったミ=ゴたちは無力化いたしました。フィリムが頑張りましたよ』

「そうか」


 ならば、後は任せても大丈夫だろう。フィリムは後で褒めてやらねばな。


「……終わりだ、ギデオン」


 俺はギデオンに向かって言う。


「……っ」


 ギデオンは唇を噛み締め、拳を握りしめる。


「……くそがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

絶叫するギデオン。


 だが、直後、ギデオンが笑い出す。


「くくくくくく、なーんてな。勝ったと思った?

 ミ=ゴどもとか、呪いとか、ぶっちゃけオマケなんだわ。

 なあ、わかんだろ隊長。俺がどうやってそこの犬を倒したか――お前ならわかるはずだぜ、死霊騎士と冥王を倒したお前ならな」

「……それは」

「ああ、そうだよ。未開のファンタジーな原始惑星を支配するには、やっぱ……これっしょ」


 そうしてギデオンが、リストバンドのコンピューターを操作する。


 闘技場の一角が爆発する。


 砕けた石の中から現れるのは――俺もよく知っている機体。


「銀河共和国軍制式可変宇宙戦闘機――ライトニングⅢ」

「その通り。この世界じゃ最強の兵器さ。この世界ふうに言えば無敵のゴーレム?自動人形?まあ、コイツにかかれば……な」


 そしてギデオンは、ライトニングⅢに乗り込む。


「これで俺の勝ちだ。テメーはここで死ぬんだよ!!」


 ギデオンの叫びと共に、ライトニングⅢはは飛翔する。

 この展開に、観客席の獣人たちは騒ぎ出し、我先にと闘技場から逃げ出そうとする。

 ミ=ゴたちは無反応だった。ギデオンからの――統率個体からの指示はもはや機能していないと見える。


 だが、ギデオンにとってもはやそれらはどうでもいいことなのだろう。

 ライトニングⅢは上空から機銃を掃射した。

 弾丸が地面を穿つ。

 俺たちに当たる事は無かったが――次は当てる気だめろう。 


「死ねよぉぉおおおお!!!」

「くっ!」


 だが、その時。


 黒い巨体が飛翔し、ライトニングⅢに体当たりをする。


「!! なんだああっ!?」


 それは――


『お待たせしました、マスター』


 アトラナータの通信が入る。


 それは、死霊騎士を倒した機体――ネメシスだった。


「遅い」

『これでも超特急ですが』

「そうか」


 俺は苦笑する。

 間に合ったのならいい。


「おい、そこの獣人たち!」


 俺は声をあげる。その声に、何人かの獣人が足を止めた。


「獣王陛下を頼む、避難を」

「――は、はいっ」

「ラティーファ、お前も陛下と一緒に」


 だが、ラティーファは首を横に振った。

 その瞳が告げている。意思を。


「……好きにしろ」


 そして、俺とラティーファはネメシスに搭乗する。


「兄上様、体は……」

「問題ない」


 多少の骨折程度なら、スーツの補助で動ける。

 痛みは鎮痛薬でなんとか誤魔化す。

 しばらくは持つはずだ。


「――行くぞ、ラティーファ」

「うんっ!」


 俺はラティーファの頭を撫でる。ラティーファは嬉しそうな笑顔を浮かべる。

 そして――


「――!」


 俺たちを乗せた漆黒の機体は、音速を超える速度で飛翔した。


「ぐっ!」


 加速Gに、一瞬息が詰まる。


「……っ!」

「……っ!」


 だが、すぐに呼吸を整える。

 この程度の加速度で音を上げるなど、あってはならない。

 ……ラティーファは慣れてないだろうが、まあ命に別状はあるまい。


「面白くなってきたねぇ、隊長。

 文明人同士の戦いは、やっぱこうじゃねえとな!」


 空中で静止し相対する、二体のロボット。


「――!」


 先に動いたのはギデオンの方だった。


「そらっ!」


 ライトニングⅢは両手に装備されたブラスターライフルを連射する。


「っ!」


 それを難なく回避しながら、ネメシスは突進していく。


「へっ! ちょこまかうぜってえ!」


 しかし、それはギデオンも織り込み済みだったらしい。


 ライトニングⅢは上昇して避けると、そのまま急旋回を行い、ネメシスの背後に回る。


「喰らえ!」


 そして、両肩からミサイルランチャーを発射した。


「……くっ」


 被弾する。

 だがネメシスの後部シールドで防御出来、ダメージはない。

 即座に振り返り、ブラスターライフルを構える。


「甘めぇっ!」


 だが、それよりも早く、ギデオンが操縦桿を動かす。


「――!」


 ライトニングⅢは飛行形態に変形し、高速で後退する。


「逃がさん!」


 ネメシスはそれを追う。だが――


(速い……!)


 こちらも可変し、追う。


「ちっ、流石に速いな!」


 ギデオンは舌打ちする。


「だが、ついてこられるかな?」

「っ!」


 ギデオンは更にスピードを上げていく。


「くっ!」

「っ!」


 それに負けじと、俺とラティーファは必死に機体を操る。


「ほら、どうした!?」


 ギデオンはさらに加速を続ける。


「くっ!」

「っ!」

「くくく、どうしたどうしたァ!」


 ギデオンは笑う。


「――ぐっ」

「兄上様!」


 旋回に継ぐ旋回を繰り返す事で、俺の身体にGによる負担がかかる。


「はは、苦しそうだなぁ!

 まああの犬とやりあってボロボロだもんなあオイ!」」


 ギデオンの嘲笑う声が聞こえる。


「……黙れ」

「ははっ、強がってんじゃねえよ!」

「黙れと言っている」

「おいおい、マジギレか? いいぜ、もっと怒れよ! 俺はそういう奴をブッ殺すのが好きなんだよ!」

  

 ギデオンは狂気的な声で叫ぶ。


「……っ」


 俺は歯を食いしばる。


「……兄上様ぅ」


 だが、ラティーファの声に我に返る。

 ……焦るな。

 呼吸をし、冷静になる。


 ……ギデオンの機体は相変わらずアクロバティックに飛んでいる。時たま牽制のように弾を撃ってくるが、正面から挑んでくる様子はない。

 逃げようとしているわでもない。


 ――嬲る気か。

 俺の身体が傷ついている事を承知で持久戦に持ち込み、消耗を狙っている。

 なるほと、地味て陰険だが実に効果的だ。


「――そうか」


 俺は口元を歪めながら言う。


「ならば――試してみるか」

「兄上様?」

「……」


 俺は静かに、操縦桿を握る手に力を込める。


「……ラティーファ」

「はい」

「すまないが、少しの間、耐えてくれ」

「え……? あ、はい!」


 ラティーファはぎゅっと力をいれる。

 俺はそれを確認し、操縦桿を全力で引く。


「――っ!」

「きゅううううううっ!?」


 突如として、凄まじい加速により、俺とラティーファはシートに押し付けられる。

 それはまるで――ジェット機のような加速力。

 ネメシスはライトニングⅢを――追い抜いた。


「ああっ!?」


 今の俺の傷で、このような無茶な加速はしないと踏んでいたのだろう。ギデオンの驚愕の声が響いた。

 ――ダメージは大きいが、痛みは無視し、吐血は飲み込んだ。


 そしてネメシスは旋回する。

 人型形態に変形し、ブレードを装填してライトニングⅢを迎え撃つ。


「一騎打ちってかああ!!」


 ギデオンが叫ぶ。


「誰が乗るかよぉおおっ!!」


 ――だろうな。

 ライトニングⅢはミサイルを射出する。だが、高速飛翔するネメシスはその悉くを躱す。


 そして――



「――な」



 ライトニングⅢは、ネメシスの電磁ブレードによって両断された。


「――東方の惑星で学んだ。居合だ」


 ロボットで使えるかどうかは賭けだったが――


「……嘘だろ」


 呆然と呟く、ギデオンの声が聞こえた。

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