第8話 死霊騎士アガンディル

 最初に襲ってきたのはゾンビだ。


 そいつらは数体まとめて俺たちに襲いかかってくる。


「ふっ!」


 だが俺たちは慌てない。

 落ち着いて対処すれば雑魚だ。


「やあっ!」


 フィリムの電磁ナイフがゾンビを切り裂く。

 さらにもう一体が斬りかかってきたのを俺のブラスターが撃ち抜いた。


「的確だ、フィリム」

「はい、せんぱい!」


 そこにスケルトンが槍を突き刺してくるが、これはアトラナータのシールドドローンが防ぐ。

 同時に放たれたミサイルが爆炎とともにスケルトンを粉砕した。

 ……この端末ドローンたちは、中々に優秀だ。

 物騒ともいう。


『まあ、私が作ったものなので当然です』


 アトラナータは誇っている。


「はあっ!!」


 俺も負けじとブラスターを撃ちまくる。

 次々と倒れていくアンデッドたち。


「てけり・り」


 そして残骸を食べるノイン。


「よし、このまま……」

「待ってください!あれを……」


 伯爵が叫ぶ。

 見ると、先ほどの倍くらいの数のアンデッドが押し寄せていた。


「増援か……だが」


 俺はブラスターを乱射する。

 しかし、今度はそう簡単にはいかないようだ。 アンデッドたちの身体はバラバラになっても、その死体を踏み越えながら進んでくるのだ。


「面倒だな……」


 そろそろ各個撃破も厳しくなってきたか。


『マスター、こちらを』


 蜘蛛のような多脚型ドローンのアトラナータ端末が、ひとつの武器を持ってきた。


『ガトリングブラスターです』

「ほう」

『これなら広範囲に攻撃が可能です。エネルギー消費も少ないので、戦闘継続時間も長くなりますよ』

「なるほど、よさそうだ」

『はい。では、ご武運を』

「ああ」


 俺はガトリングブラスターを手に取る。


「では……派手にいかせてもらう」


 俺はアンデッドの軍勢に銃口を向ける。

 トリガーを引く。


 連続的な射撃音が鳴り響き、アンデッドの軍勢は瞬く間に肉片へと変わっていった。


「おお……すごい」

「これが勇者様の力……」


 背後から感嘆の声が聞こえるが、いちいち構ってはいられない。

 俺は次の獲物へと向かう。


「次だ」


 そして、また別のアンデッドが吹き飛ぶ。


 俺はトリガーを引き続ける。

 アンデッドの軍勢は次々に殲滅されていった。


「よし、これで最後か……」


 最後の一体を仕留めたところで、ようやくアンデッドは全滅した。


『お疲れ様ですマスター』


「すごい……」


 後ろから感嘆の声が聞こえる。だが、気は抜けない。

 今の攻撃は魔力弾だ。つまり……


「事前情報が正しいなら、通じていないだろうな」


 土煙の中から現れる巨体。やはりそうか……死霊騎士アガンディルだ。


「我が配下を全滅させるとは見事なり、と褒めておこう」


 死霊騎士は言った。


「しかし、これで終わりと思うなよ?」

「なんだと?」

「貴様の力はわかった。次はこちらの番だ。

 冥王の加護を受けよ……!」


 死霊騎士が剣を振り上げると、奴の鎧が変質していく。

 黒いオーラのようなものに包まれた鎧は、まるで闇のように黒く染まっていた。


『あの光は……まさか!』


 アトラナータが驚く。


『エーテル反応増大。来ますよマスター』

「何が来る?」


 俺はブラスターを構える。


「死霊術奥義……」


 死霊騎士が剣を構え、振り下ろす。


「ヘルディウス・デスサイズ!!!」


 死霊騎士の周囲に漆黒の鎌が無数に現れる。


『マスター、危険です。回避を』

「言われなくても!」


 俺は跳躍して避ける。すると、一瞬前までいた場所に無数の刃が突き刺さった。


「ちっ」


 俺は着地と同時に横に飛び退く。


「逃すかァ!!」


 続けて飛んできた刃をギリギリのところでかわす。


「速いな……」


 明らかにさっきまでより動きが速くなっていた。


『気をつけてくださいマスター。ヘルディウス・デスサイズは周囲の魂を吸収して強化する技と推測されます』

「厄介だな……」

『ええ。おそらく、もうすぐ効果が現れ始めるはずです』


 アトラナータの言葉通り、変化はすぐに現れた。


「なに……?」


 俺の身体に異変が起きる。

 全身に力が入らない。いや、それだけじゃない。


『気をつけてください。エーテルを吸われています』

「そういうことか……」


 アトラナータの言う通り、ヘルディウス・デスサイズの効果は俺の生命力を奪うことだった。


「まずいな……このままだと」

『はい。戦闘不能になるのは間違いありません』

「このままなら、な」


 俺はリストのコンソールを操作する。

 そして、俺の全身を光が包んだ。

 俺にのしかかっていた圧が打ち消されていく。


「な……!?」


 死霊騎士アガンディルが狼狽える。


「貴様、何を……」

「エナジードレインを仕掛けてくる宇宙モンスターや宇宙種族は少なくないからな。アンチEDフィールドは宇宙軍には基本装備のひとつだ」


 俺は答える。


「さあ、続きを始めようか」

「調子に乗るな人間風情が!!」


 激昂したアガンディルは突撃してくる。


「食らえェ!!」


 そして、その巨体を加速させ、巨大な大剣を振るってきた。


「おっと」


 俺はその一撃を避ける。だが、その先にはさっきの漆黒の大鎌が迫っていた。


「くそっ」


 俺は咄嵯にエネルギーシールドを展開して防御するが、その瞬間、凄まじい衝撃とともに弾き飛ばされる。

 なんとか空中で体勢を整えて着地したが……。


(なんというパワーだ……油断は出来ないな)


 危うく死ぬところだった。


「ふん……少しはやるようだな」


 死霊騎士アガンディルが笑う。


「だが所詮は小手調べ……本気を出すとしよう」


 アガンディルの身体を纏うオーラが、さらに禍々しくなっていく。

 そして巨大化していく。10メートルには達しただろうか。


 これは……


『私たちが倒したアンデッドたちの魂、負の生命力を吸収しているようです』


 俺からエナジードレイン出来なくても問題ない、ということか。


「これは……危険です、ティグル様……」


 リリルミナ姫が呟く。


「ああ……勇者様も同じように」


 伯爵も不安げな様子を見せていた。


「大丈夫ですよ」


 そんな二人にフィリムが声をかける。


「先輩は負けません。だって、私が認めた人ですから」

「フィリムさん……」

「そうだといいのですが……」


 伯爵はそれでも心配そうな表情を浮かべていた。

 まあ、無理もないだろう。

 いくら雑魚モンスターをあっさりと殲滅したといえ、それが強力な個体に勝てるとは限らない。

 戦いには相性がある。

 この惑星の人間たちにとって、俺は未知の存在だ。不安があるのも仕方ない。


 だからこそ、ここで勝利せねばならない。


「さあ、行くぞォ!!」


 死霊騎士の巨体が、木々を倒しい突進してくる。


「ちいっ!」


 俺はブラスターで応戦する。

 しかし、奴の動きを止めることはできない。豆鉄砲で象は止まらないのだ。


「ぐっ!」


 薙ぎ払う攻撃。

 シールドで受けるも、俺は木の葉のように吹っ飛んだ。


『マスター!』

「先輩!」

「勇者様!」


「まずいな……」


 俺は立ち上がる。

 ダメージはかなり深刻だ。


「ふん、その程度か? ならば止めを刺してくれよう!」


 死霊騎士が飛びかかってくる。


「くそっ!」


 俺はブラスターを連射する。だが、アガンディルはそのすべてを装甲で跳ね返しながら、俺に接近してきた。


「死ねィ!」

「ぐあっ!」


 強烈な蹴りが炸裂した。俺はまたも地面を転がる。


「先輩!」

「勇者様!」


 二人の悲鳴が聞こえた。


「ぐっ……くそ」


 俺はふらつきながらも立ち上がろうとする。

 軍用スーツが無ければかなり危険だ。


「ふん、しぶとい男だ」


 アガンディルが近づいてくる。


「だが、それもここまでだ!」


 そして、奴は再び俺に向かってきた。


「終わりだァ!!」


 死霊騎士の剣が迫る。


 俺はブラスターを撃つが、奴の勢いは止まらない。


「ここまでか……」



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