敵意2

「少年たち、ほどほどにして料理をどうぞ」

 待ち兼ねていると、レイがタンブラーを二つと大皿をトレイに抱えてやって来た。サイリはシウを突き放し、さっそく大皿に載ったブリトーを手に取る。挽き肉やトマトがチーズと絡んでいて美味しそうだ。

 タンブラーでは、輪切りにされたライムが氷の中を涼しげにたゆたっている。シウは縁に口をつけて、半分ほどいただいた。ライムの清涼感が、一気に発汗を抑えてくれる感じがする。

 サイリは肘をテーブルに突き、マナーなど気にしないといったふうに頬を膨らませて食べている。どうも行儀が良いのは、兄といるときだけのようだ。彼は咀嚼しながら、無言で佇むレイを見上げた。

「兄とは、どうだった?」

「……と、言いますと?」

「惚けるなよ、寝ている俺の横で平然と兄を奪っといて」

「昨晩は、そちらの少年と反対側の草叢におりましたが」

「何だって?」

 テーブルの下で膨ら脛を蹴られたシウは、食べかけていたブリトーを軽く詰まらせた。サイは咳き込むシウの手からブリトーを抜き取り、躊躇わず自分の口に運ぶ。シウはなぜサイリが憤っているのか理解できず、眉根を寄せて横顔を見た。沿岸を照らされた、夜の海のように綺麗だ。

「シウ、遊びたいなら俺に付き合えよ」

 突然名前を口にされて、シウは耳を疑った。いつの間にか、レイはいなくなっている。

「知ってたのか、僕の名前」

「リースとかいう女が、出がけに呼んでたのを聞いた。俺には目もくれないくせに」

「彼女は女性客の相手が主な仕事なのさ。君が気にすることじゃないよ」

「サイリだ、ちゃんと名前で呼べよ」

 サイリはライムティーを飲み干すと、強引にシウの腕を引っ張って立ち上がった。何処かへ行く気なのだろう。彼は厨房に直接顔を出し、「ごちそうさま」と声をかけた。双子は調理器具を片付ける手を止め会釈する。

 裏玄関を出たサイリは、西の階段を上り道路へ立った。シウも拘束を解かれぬまま、ビーチとは反対の方角へ彼と並んで歩く。すぐに右手に折れたサイリは、ペンションの裏側を覗き込んで口許を歪めた。

「見てみろよ」

 サイリは物干し台のある敷地の東側を指した。よく洗濯された清潔なシーツが、何列も竿に掛けられている。その陰に鋼色の車が一台、横向きに停まっていた。駐車場はその手前なので、些か不自然な位置だ。

 だが、見えるのは車体の一部だけで、運転席や助手席までは判らない。ドアの閉まる音が聞こえたかと思うと、アスファルトを人影が移動してきた。

「なんだ、リースじゃないか」

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