多難『12歳の文学賞』

第39話 違うらしい、動機


 小学生のころ突然小説が書きたくなった。


 若気の至りというか何というかとにかく頭の中にある数あるストーリーを直に証拠品として完成させたくてしょうがなかったのだ。


 小説を書き始めるきっかけで「小説を書いて有名になりたいから」という理由で書き始める人がいる。


 他にも「自分を表現したい」とか「ほかの人に認められたい」とか「たくさんの文章を紡ぐってカッコいいから書きたい」とか理由は様々だけれどその多くの人たちはいざ書きます、そして、ストーリーを考えます、という人が圧倒的に多いということを私は大きくなってから知った。


 


 とにかく私が小説を書き始めた動機はそれとは違った。


 もともと頭の中にストーリーがあってそれを紙の上に書き写す、もしくは文で組み立てるというある意味では煩雑な作業だった。


 


 空想癖は文字を覚える幼児の頃からあり物語を創造することは私の生活の一部だった。


 空想しなければ私は大半の楽しみを失い、どうやって独りで過ごせばいいか困ったことだろう。


 詳細な空想を文字で起こせばいいと思い立ったのが小学五年生のころだから遅いと言えば遅いだろう。


 私は空想の種(主に宮崎県に伝わる日向神話が元である)をどこで消化すればいいのか、まるで分らなかったのだ。


 


 11歳の秋――よく覚えている、夕方にせかされたように「私の空想を紙に写す!」と思い立っていそいそと文房具店に原稿用紙を買って帰ってから一気に十枚書き連ねた。


 当時の私は世間知らずというか短編小説というカテゴリーがあるとはまるで知らなかったから、小説といえば百枚以上書かないと小説ではないと思いこんでいた。


 


 頭の中にあるストーリーはすでに長編級で拙い文章力でその詳細なストーリーを書けるか問題だった。


 


 結局、小学卒業するまで書き終えることができず、一五十枚ほどの紙切れが残った。


 小学六年生のころに『12歳の文学賞』が小学館で設立されて私はますます受賞という目標に向かって暇さえあれば書き続けた。


 シーンをだらだら書き連ねた枚数だけが長い駄作ができて完成品は日を拝むことはなかった。


 最後まで完成できない。


 これは大きな痛手だった。


 

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