第27話【天狗騨記者本領発揮、遂に異世界の政治家にインタビュー!】

 王都中心部、官庁街と思しき一角のとある建物の中に天狗騨はいた。人が出てくるたびに首からかけている銀色のペンダントを手に取り、

「ステータスオープン」

「ステータスオープン」

「ステータスオープン」

 するとどんどん相手が天狗騨を案内してくれる。

(実に楽なものだな)と思うほかない。取材を申し込んでも断られることは決して珍しくはないが、ここでは〝無双転生者〟というだけでフリーパスであった。


 かくして天狗騨はこの異世界にやって来て初めて〝記者〟らしい行為をとることができた。それは即ち要人へのインタビュー。

 相手は『軍務卿』という、この世界この王国における防衛大臣であった。名をグルタスといった。ただし、面会が叶ったのは天狗騨のみで、リンゼ、フリー、大家ミルッキの3名はお呼びではなかった。


 グルタス軍務卿が口を開いた。

「それで無双転生者のあなたが私に用というのは? 我々としてはなぜその無双の力をもって魔物を退治しては下さらぬのかと、そう思っているのですが」

 口ぶりだけは丁寧だったが、その発言内容は限りなく〝要求〟に近い。


「やはり何かをやるにしても、そこに〝納得〟があるか無いかは非常に重要だと思いまして」と天狗騨は応じた。


「何か不審な点でも?」


「ぶしつけとは思いますが、この国の〝国民の安全〟をどう守るのかについて疑問点がありまして、」


「しかし今現在安全は維持されておりますが」グルタス軍務卿は憮然とした顔でそう言った。しかし天狗騨の質問は止まらない。

「〝ギルド組合員〟という名の、言い方は悪いが『傭兵』と、その中の、なかんずく異世界出身者に国民の安全を任せきりというのは、政治家としてかなり無責任ではないでしょうか?」


「いっ、いくら無双転生者とて、それはあまりに失礼な物言いではないですか」


「いろいろと調べさせて頂きました。確かに王都は壁に囲まれていて城門部には魔物除けの結界は張られている。しかし張ってあるのはあくまで城門だけ。ずうっと街を囲んで続いている壁部分には結界は張られてはいません。聞けば広すぎて張るのは無理だとのことです——」

 この最後の部分、訊いた相手はリンゼだった。なにしろクロスゲード家別邸の住宅部分に結界を張っている経験者の言うことである。


「——これは壁のどこかを越されたら最後、易々と魔物はこの街を蹂躙できるということです。ところが壁の上に隙間無く兵員を配置できるかというと、配置するに十分な兵力はこの国には無いようですね」


 詰まるグルタス軍務卿。


「まずギルド組合員の登録者は500名弱しかいません。衛兵という立派な兵隊はいてもその役割は王族を護るための最小限の数、その上魔物と戦う能力は持ち合わせていないと聞きました。今後の安全についてどうお考えでしょうか?」


「だから無双転生者が魔物を退治してくれればこの街に近づいてくる魔物はいなくなるんだ。そのあなたが何もしなければそういうことが起こり得るんだ」


「そこが問題なんです。外国人の傭兵に国の安全を委ねるあなた方はどこかおかしいんじゃないかと、そう考え、訊いています」


「ひとつ訊くが君には無双の力があってもそれを魔物退治には使ってはくれないわけか?」


「道徳的非難で来ましたか。そう言われるとこちらは弱い。しかしその点は安心して下さって大丈夫でしょう。生活するためにはクエストをこなし報奨金を得ないと家賃も払えなくなりますからね」


「君の言いたいことはこれで終わりだな?」明らかにグルタス軍務卿はイラついている。


「傭兵頼みの国民の安全、政治家として改善の意志はありますか?」天狗騨はなお切り込んでいく。

「これまで安全だったんだ。これからも安全に決まっている! さあもうこの辺でお帰りを。私にも片付けねばならない仕事があるんだ」そう言うやグルタス軍務卿はこの会見を打ち切った。

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