第33話 はひ…はひ…〈サイド:とある3人組〉

 王都からわずか先にある森の中に彼らはいた。


「はひ…はひ…やっと目の前にゃ…。ニャーへとへと…もう駄目だみかも…」

「オイも…。足ぱんぱん…お腹も空いた…しばらく虫と草しか食べてない…」

『情け無いのぉ。超わし超元気』


 どさりと2人の少女が倒れ伏した。地にうつ伏せに倒れた彼女たちは、嗄れた声に対して弱々しくも非難の声を上げる。


「デ、デグ爺は、鏡から出てないからにゃろ…」

「デグ爺ずるい…ずるい爺…」

『ふん、賢いと言え。超賢いと。じゃが、よくやった。しばらく2人は休んでるといい。ここからはわしの仕事じゃあ』


 ぬるり


 へたり込んだロロの首飾りから、皺だらけのひび割れた腕が飛び出した。腕は地を掴むと、続いてそのまま全身を引っ張り出す。


「ふう…地に立つのも百年ぶりじゃ。わし超郷愁」


 首飾りに埋め込まれた小さな鏡から、狩人のような格好の1人の老爺がその地に降り立った。何度か懐かしむ様に古ぼけた革のブーツで地を踏み締めると、その容姿からは想像も出来ない身軽さで、近くの木を駆け上がる。

 鳥の巣の様な特徴的な髭の禿頭の男は樹上より、目前となったかの都を見やり、目を弓形に細めた。


「くここ…。久方ぶりなるや王都。しばらく裏方に回っておったからなぁ。…さて、感傷もそこそこにするか」


「出し惜しみは無しじゃ。三つ指の悪魔よ…真に居るなら必ずや見つけようぞ。居らぬならこの都、無くなろうと構わんじゃろう。…滾るのう。漲るのう。超わし超超超高揚」


 デグロは背の弓を手に取る。


「『三矢一節さんしいっせつ鏡面一矢きょうめんいちや』」


 そう呟いた老爺の手のひらから一本の矢が生まれ出た。本来であれば鏃があるであろう部分に、板状の鏡がついた変わり種の矢だ。

 彼はそれを弓に当てがうと、真っ直ぐに引く。老爺とは思えない伸びた背筋は、彼が未だ衰えていない事をありありと表している。

 目掛けるは前方の王都。ぎりり…と弓が大きくたわむ。

 弓引く彼の元に真下の地面から声が響いた。よく知る2人の声にデグロは弓を引き絞りながら耳を傾ける。


「デグ爺…ニューのぶんも残してて…」

「オイも…ちょっと寝てからお仕事頑張る…」


 オレンジ髪の少女、ニューロの体がどろりと地面に溶け出した。

 一方で灰色の髪の少女、ロロが腕や足から木の根の様な物を伸ばし、地面や周囲の木々に根を張り出した。

 老爺は彼女らを一瞥すると、口端をにやりと歪めて笑う。


「嫌じゃ。今、わし超張り切っとるから。じゃあの。目覚めた時には、王都は灰か、はたまた…じゃ」

「「ず、ずるい…」」


 ビュン


 老爺の大人気ない言葉に呆れたその瞬間。彼は張り詰めた弓の糸より手を離す。王都目掛け、矢が流れる星の如く飛んだ。

 その頃には既に、その矢を放った本人であるデグロ・BBの姿も消失していた。

 残されたのはへたり込んだ2人の少女。彼女たちは、疲労に動けぬまま顔を見合わせ頷いた。


「…次、会ったらデグ爺のヒゲぜんぶ毟るにゃ」

「オイも…デグ爺、ハゲ爺にする…ち○こも毟る…ハゲ婆にする…」

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聖女なんだなぁ、せいじょ どかんとぱおん。 @dokandokan

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