冒険者ギルド2
「こういう移動の時にはハクたちには乗らないんですね」
「地竜くらいならまあ、向こうの世界で言う馬に近い認識を持ってもらえてるけど、魔獣はやっぱいい目で見られない」
「冒険者の皆さんが相手でもですか?」
「生活区域にいるのは冒険者以外にも、その家族だったりいろんな人もいる。なにより魔獣の怖さを一番身にしみてわかってるのは、冒険者本人だからな……」
「アツシさん、よくペットショップ開こうと思いましたね……」
本当に彼らを商品として扱うのは色々な障害があった。それでも店を持つに至れただけ良くやったんじゃないかと思う。
「私、正直アツシさんにあんまりペットショップで食べていこうっていう気持ちが感じられていなかったんですが、そういうわけじゃなかったんですね」
それに関しては冒険者の稼ぎがあるから何とかなるだろうと、高をくくっていたところがあるので、何もいえない……。
実際のところ、積極的に宣伝をすればいいというわけでもないなという気持ちはあった。それでも、まあいいかという楽観的な考えと比較すれば、後者が6:4いや8:2くらいでリードしていたことを考えれば、ほのかの言葉は色々な意味で刺さるものがある。
「まあでも、ほのかみたいな可愛らしい女の子が、ハクと一緒にいるっていうのは宣伝になるのかもな?」
「えっ?私、可愛らしいんですか?」
「まあ、そう思うよ。もう俺みたいな歳だとほのかくらいの子は皆そう見えるけどな」
「そうですか……」
照れ隠しで言った言葉は思いの外ほのかの機嫌を損ねたようだ。
とはいえ一回りは歳の差があるであろう相手だ。あれ以上は口説き文句みたいになるし、それはそれで嫌だろう。
スマートな対応は出来ないが、誤魔化すくらいのことはさせてもらおう。
「サモン!」
「えっ?!わっ!」
歩いているほのかの真下に魔方陣を展開し、ハクを召喚した。
「ちょっと!いきなりびっくりするじゃないですか!」
「ごめんごめん」
怒っているはずのほのかの声は、もうハクの毛に埋められた顔からもごもごと、かろうじて届くだけだった。
――
「ここが、冒険者ギルド……」
「思ったより大きいか?」
「そうですね。田舎のデパートと言うか、ショッピングモールくらいの広さですか?」
「さすがにそこまではないと思うけど、まあかなり大きいのは確かだな」
ギルド自治区、南支部。
ギルド自治区は帝国領土と森に挟まれる、というより、帝国領土を森から守るような位置づけになっている。そのまま北へ伸びた自治区は、帝国の北に位置するルベリオン皇国に隣接する形で北部へとつながっている。
北支部には行ったことはないが、帝国と皇国が敵対関係にある煽りを受けて、お互いに過度の干渉を控えるのが暗黙の了解になっている。
「アツシさん、すごい人気ですね」
「いや、クラスメイトに挨拶するようなもんだよ」
ギルドは入るとすぐ、木製の丸テーブルが並ぶイートインスペースが現れる。ここには常に、ある程度の数の冒険者が集まっており、万が一にもここで犯罪を犯す気にはなれない第一の防壁にもなっている。
右手に依頼を出したり受注したりといった、冒険者の活動を支える施設があり、訓練場も併設されている。
左手が生活用品や、基本的な装備類、その他様々なものを置いた店になっていた。
真っ直ぐ冒険者登録のためのカウンターを目指しても、必然的に多くの知り合いにすれ違う。
ハクを連れてきて良かったかもしれない。おかげで女連れをからかう声もほとんど聞かずにすんだ。二人で行けば酔っ払いのおっさんどもに絡まれていただろう……。悪い人でなくても、酔っ払いの相手を素面でするのは避けたかった。
「久しぶりですね。アツシさん」
「三日位しか空けてないよな?」
「ニホンジンは三日会わないと大変なことになるって教えてくれたの、アツシさんですよ?」
冒険者ギルドの受付嬢、リリアさん。
きつねか猫かわからないが、三角形の耳と八重歯が特徴的な獣人族の女性だ。 “チャーム”のスキル持ちではないかと噂されるほど、人を魅了する愛らしさがあった。
「それで、今日は女の子を連れてきてるんですね」
「ハクよりそっちを突っ込むか」
「道理でアツシさんは私にはなびいてくれないはずですね……そういう子が好みだったなんて……」
「こら、やめろ。繊細な関係なんだ」
また距離を取られるのではと思ったが、予想に反してほのかは俺に身体が触れるほど接近してきていた。
「ふーん?」
「なんだ……」
「何でもありません。それで、今日はどんな用件ですか?」
「色々あるけど、一番はこの子の登録だな」
「あれ、ほんとに拾ってきた子だったんですか?!」
「人聞きの悪いことを言うな。同郷人だ」
冒険者の登録に必要なものは特にない。本人から伝えられた情報を入力してもらって、身分証になるカードを発行してもらうだけだ。
冒険者は実力に応じたランク付けをされるが、登録時には全員ビギナーというランクに振り分けられる。一定期間の成果によってランクを決定するが、ビギナーの間は得られる報酬が少ないので、危険な任務は割に合わない。普通は訓練場を利用した認定試験を受けて、とっととビギナーを脱出することになる。
認定試験はFランクからBランクまで用意されており、それぞれ費用がかかる。ビギナーで報酬をカットされるよりは、認定試験に金を払ったほうが効率がいいので、大体の冒険者はFランクだけでも認定を受けて冒険者生活をスタートすることになる。
「ニホンジンということは、特別措置を取りますか?」
「そうだな」
一般的なランク付けは成果や試験によって決まるが、特殊な例の場合は直接ギルド側が力を測ることになる。
ギルドに所属する鑑定士を通して報告されるため、本来の方法では判明しない“スキル”や能力を鑑定してくれる。
特に回復や味方の強化を行うサポートタイプや、特殊なスキル持ちは、本来の評価方法ではたいした成果を挙げることができず、また試験を受けても大きくこれが生かされることはない。しかし、いざパーティーを組んで戦うとなればその影響力は絶大なものになる。こういった不遇なサポートタイプの保障、あるいは、俺のような素性のわからないものの対応のため、特別措置が用意されていた。
ほのかの力は未知数だが、同じ日本人。何の変哲もない俺が二つもエクストラスキルを持っていたのだから、ほのかに何もないと考える方が不自然だろう。すでにかなり高い魔法適性は示している。
どうなるかわからないなら、ギルドに任せてしまったほうが賢いだろうと判断する。話について来れず戸惑うほのかには悪いが、リリアさんにあとのことは任せるとしよう。
ペットショップを異世界にて~スローライフを望むペットショップ店長は、実は最強の冒険者〜 すかいふぁーむ @skylight
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