新たな一歩へ2

 俺がテイムしたボーンソルジャーたちは、冒険者から奪ったであろう武器を扱って戦っていた。剣くらいなら二足歩行型の魔獣が利用することもあるが、一部のボーンソルジャーは魔道具まで器用に使いこなす。呼んだ五十体はすべてその器用なやつらだったので、魔法石があれば色々できるとは思っていたが……。


「あっ!アツシさん!見てください」


 俺に気づいたほのかがうれしそうに声をかけてくる。


「それ、魔法石か?」

「いえ、この子に教えてもらいました」


『カタカタカタ』


 楽しそうに肩ごと頭を揺らすボーンソルジャー。

 確かに器用なやつをピックアップしたとはいえ、人間の中でも三割程度しか使えないとされている“人力”の魔法を、目の前で見せ付けられると、戸惑いしかない。


「待て、教えてもらったって言ったな?」

「はい。そうですよ」

「どうやって」

「え?こう、手を重ねて力の流れ?みたいなものを教えてもらって、それで」

「まじか……」


『カタカタカタカタカタ』


 得意げに震える骨の魔物。

 もちろん魔物のなかには魔法を使えるものもいる。特にアンデッドは長く生き続ける中でゲームの進化のように、姿形が変わるほどの成長を遂げるものまでいる。そういった成長の過程で、魔法を習得することは上位の魔物であれば珍しくない。


 だが、ボーンソルジャーが使ったとなれば話が変わる。ボーンソルジャーは死なないことが厄介なだけで、強さでも格でも下位の魔物だ。そんな簡単に魔法を使われたら困る。

 ましてそれが人に魔法を教えられるレベル。そしてそれをあっさり受け入れて魔法を発動させるほのか……。どこからつっこめばいいのかわからない。


「お前、ほんとにボーンソルジャーか?」


『カタカタカタカタ』


 勢い良く縦に頭が振られる。

 かえって怪しいくらいだが、疑ったからと言って話は進まない。この見た目でボーンソルジャーじゃないなら何だっていう話だ。


「アツシさん、この子、名前付けてあげませんか?」

「あぁ、そうだな」


 名付けを契機にテイムの契約を更新することもできる。

 必要があるとき、可能なものだけが召集に応じるという緩い契約しかなかった魔物を店に置くとなれば、一度ここで更新しておいたほうがいいだろう。


「お前も、いいか?」


『カタカタカタ』


 縦に首が振られる。


「名前は……」

「待ってください。アツシさん、一応聞きますけどシロとかホネコとかつけませんよね?」

「シロは残念ながらもういるんだよ。ホネコか……」

「何、ちょっとありだな、みたいな顔してるんですか!」

「よくわかったな」


『カタカタカタカタ』


 めちゃくちゃ嫌そうだな、ホネコ。


「わかった、じゃあ名前はほのかが決めてくれるか?」

「え?いいんですか?」


『カタカタカタ』


 うれしそうに首を縦に振っているし、いいだろう。


「じゃあ、えっと……」

「一応被らないように今までつけた名前、言うか?」

「いえ、大丈夫です」


 あっさり断られる。


「決めました」

「お?」

「バアルです」

「それは……」


 俺とは正反対の方向に飛んでないか……?


「バアルもそれでいいですか?」


『カタカタカタ』


 まあ、嬉しそうだしいいか。


「じゃあ、契約更新といこうか」


『カタ』


 イメージを送る。手先の器用さはこちらの予想以上だった。店での働きはかなり期待できると考え、こちらから要求する条件を絞る。


『店に不利益な行動を意図的に取らないこと』


 これだけで、たとえば魔物として人を襲うこともなくなるし、店で暴れるようなこともなくなる。

 対してバアルからの要求は、『制限の中で自由に過ごすこと』だけだ。

 もともと自由なやつらだし、そのまま過ごしたいということだろう。お互いに曖昧で危うさのある契約だが、まあいい。


「これで契約更新だ。これからよろしくな」

「やったね、バアル」


『カタカタカタ』


 こうして新たな店員を得て、ペットショップとして新たな一歩を踏み出すことになった。前進と言っていいかは疑問が残るが、ほのかが楽しそうだからまあ、これでいいかと思う。

 笑いあってメンテの続きを始めた二人を、のんびり眺めていた。

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