ほのかのペットショップ改善計画1

「私が気付いたお店の改善点を挙げていきたいんですけど、いいですか?」

「お願いします……」


 記念すべき第一回店舗ミーティング。

 ほのかはやる気だ。一応店長である俺が、下手に口をはさめない程度には……。


「昨日もそうですが、ここって営業時間中にお客さん、来ないんですか?」

「まあほら、辺鄙なところだし、こんなところにわざわざ足を運ぶ人って少ないからさ」


 ギルド自治区の中でも森にほど近い位置にある。

 理由は二つ。ここが安かったから。それから、森から生活エリアへの入り口を、うちの魔獣たちがある程度守ることを期待され、ギルドに依頼されたためだ。もちろん対価も受け取っている。


「私が見ている限り、少し先に行っただけで、ある程度活気のある様子だったんですが、そちらからお客さんが来たりはしないんですか?」

「わざわざこっちに出てくるのは冒険者たちだけだからな。向こうで生活している人たちからすえば、変わった店があると聞いてる、程度だと思う」

「まずその宣伝力を改善しましょう」

「はい……」


 今後の店をもっといろいろな人に知ってもらう方向で、作戦を立てることになる。

 店の状況はすでに伝えているが、さらに細かくこれまでの話を含めた現状を伝えていく。


「じゃあ、今までお店を使ってくれていたのは冒険者として活動しながら知り合ってた、いわゆる身内だけだったと……」

「さすがに貴族なんかは紹介してもらったりで、直接の知り合いじゃないぞ?」

「どっちにしてもペットショップとしてお客さんを捕まえられていないのは変わりありません」


 鋭い指摘にぐうの音もでない。


「そもそも店と言っているのに、いつやっているかもわかりませんし、外から見てここが店だとはわからないですよ」

「え、そうか?こんなに生き物に囲まれてるのに」

「それは中に入って初めてわかることです!このお店を外から見た人が初めて抱く感想を考えてください!」


 店の入り口は、スペースがないから引き戸の半分は荷物やケージが積まれていて塞がっている。両脇にも所狭しとものが溢れ、中の様子は一見しただけでは薄暗くてよくわからない。

 周りには頼りになる魔獣たちが自由気ままに生活している。

 確かに、初めて足を運んだ人が客になる状況ではない。


「ああ……」

「理解しましたか?」


 元の世界でも爬虫類なんかを中心に取り扱うショップは、一見さんお断りかのような雰囲気を醸し出す店が多かった。入ってみるとそうでもないことは多いが、自分の中のショップのイメージがその方向で固まってしまっていたのは確かだ。ペットショップなんてそういうものだろうと思うようになっていたが、確かに最初は入りにくかったことを今更思いだした。


「まずこの入口のごちゃごちゃをどうにかする!それから、ハクたちをある程度、柵とかの中で生活させてあげてください」

「柵なんてあってないようなもんだぞ?」

「それでもです。精神的な距離感として、一応ここから先は安全だと思わせないと」

「でもほら、知っての通り危険はないし」

「普通の人からすれば脅威だって昨日だけで十分理解してます!しっかりやってください」

「はい……」


 まあ、薄々思ってはいたことだ。

 こいつらが店の周りにうじゃうじゃいるのは、ショップとしてどうなのかなあと。


 一方で楽観視もしていた。特に力も魔力も強いわけじゃない俺が店長をやっていて、楽しそうにこいつらと触れ合ってるんだから、大丈夫と思ってもらえるのではないかと。


「甘いです」


 そんな想いは、ほのかの一言に一蹴された。


「だってさ、柵とか作るのも結構大変なんだぞ?」

「頼んだりしないんですか?」

「そんな金に余裕がないのは、さっきばれたよな」

「え?いや、別に人間に頼む必要はないじゃないですか」

「え?」

「え?」


 食い違う二人。ほのかは何を言っているんだろう?

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