少女と悪魔の約束

秋雨千尋

待ち合わせの階段

 あるところに、不思議な階段ありました。

 真夜中に一人で登ると、そこには神様が居て、どんな願いも叶えてくれるというのです。


 ある日、一人の少女が登りました。

 そこに居たのは神様ではなく、恐ろしい悪魔でした。

 しかし彼女はひるみません。


「お願いします。カイの怪我を治してください」


 少女には大好きな幼馴染がいました。

 少女の大切な帽子を取るために木に登り、突風のせいで落ちてしまったのです。二度と歩けないほどの大怪我です。


「キサマが最も美しい時に、吾輩の妻になるならば」


 少女には教師になる夢がありましたが、カイのために悪魔の提案を受け入れました。

 最も美しくなったら、またこの階段を登る約束をしました。



 翌日、カイは全回復し、医者は腰を抜かしました。

 叫びながら喜ぶカイの両親。

 とっても不思議そうなカイに、少女は本当のことを告げました。

 するとカイは少女を叱ってから、感謝をして、そして好きだという気持ちを伝えました。


「君が最も美しい時が来たら僕が教える。だから黙って階段を登らないで」


 少女はうなずきました。

 それから二人はすくすく成長し、十八歳で結婚しました。


「今の私、美しいかしら」


「うん、僕にとっては最高に。でも悪魔から見たら子供だと思う。まだダメだよ」


 二人の間には三人の子供が産まれ、慌ただしく日々を過ごしていきます。

 子供たちに手がかからなくなったら、少女は夢だった教師になりました。

 たくさんの生徒たちに感謝されました。


「今の私、美しいかしら」


「僕にとって君はいつも最高だよ。でもまだまだ上を目指せるね」


 三人の子供たちは結婚しました。少女は校長先生になって、より多くの生徒を卒業させました。

 それも定年を迎え、趣味を楽しんだり孫と遊んだりしながら月日は流れ、最愛の夫と別れる時が来ました。


「カイ、死なないで。あなたが居ないと私……」


「君と一緒になれて本当に幸せだった。悪魔に君を取られたくなくて、ずいぶん時間が経ってしまったね」


「本当よ。こんなお婆ちゃんになってしまって、悪魔が怒って孫たちに危害を加えたらと思うと……」


「大丈夫。何度も言ったけど、君は美しい。たくさんの人に愛されて、歳を重ねた今の君こそが──。

 だから、胸を張って行っておいで」


 彼は最後に「ずっと愛している」と告げて、旅立ちました。

 一人になった少女は身の回りを整理して、階段を登っていきます。

 悪魔はイライラした様子で座ってました。


「吾輩を九十年も待たせるとはいい度胸だな」


「申し訳ございません。しかしながら、今の私こそが最も美しい私なのです」


「なんだと?」


「家族に恵まれ、職場に恵まれ、大変幸せな人生でした。よく見て頂ければお分かりになると思います。以前の私と大きく違うことが」


 堂々とした態度に、悪魔は圧倒された。

 近づいてジロジロと見つめる。


「ふむ、確かに。顔のシワはよく笑った証であるし、白くなった髪も好みと言える。何より瞳の輝きが段違いだ。人間の美しさとは内面からにじみ出るものだな」


 悪魔は少女を妻とし、寿命が尽きるまでのわずかな時間、とても大切にしました。



 めでたし、めでたし。


 スペシャルアドバイザー・さこゼロ様

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少女と悪魔の約束 秋雨千尋 @akisamechihiro

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