SNSの影響

 昨日、考える事を放棄する様に就寝したけど今朝の寝起きは良くなかった。

 睡眠時間はいつもより長く取れていたはずなのになんかボーッとする。

 それからどのくらいの時間が過ぎたのか優璃ゆりが起こしにやってきた。扉を三回ノックして声をかけてきた。いつもと同じ柔らかい優璃ゆりの声。

柳一郎りゅういちろうさん。起きてますか?」

「起きてるよ……」

「朝食の用意ができてますから降りて来て下さいね」

「うん、わかった」

 優璃ゆりの足音が遠ざかって行く。

「起きるか……」


 朝食を済ませ、登校の準備をしていると優璃ゆりに声をかけられた。

「今日は周りから色々言われると思いますけど気にし過ぎない様にして下さい」

 なんかすごい気を遣われている気がする。けど、優璃ゆりが言う様に今日は色々言われるんだろうな。ああ、学校に行きたくなくなった。

 でも、休んでもどうにもならないんだろうな。諦めて行こう……



 教室に入るまでは周りからの奇異な視線とヒソヒソと話す声を聞くだけで済んだ。

 これくらいなら程度の差はあるけど経験済み、まだ大丈夫。


 そう思っていた時が僕にもありました。

「おはよう」

「おはようかじくん」

「SNS見たよ」

「えっ、あっ、いや、あれは……」

 僕、動揺しすぎじゃない。

「その話、詳しく聞かせろよ」

 いつの間にか僕の席の周りに男子が集まってきていた。

 遠巻きに女子も聞き耳を立てている。


「ぼ、僕と山梨やまなさんはなんでもないよ……」

「え〜っ、手を繋いで歩いててなんでも無いって」

「嘘だな」

「なんも無いハズないわな」

「そうだな。正直に話せよ」

「いつから、付き合ってたんだ」

 こんな感じの質問が延々と続く。僕はなんて返せば良いのか分からない。

 助けてくれそうなかじくんは有岡ありおかさんに呼ばれて席を外している。


山梨やまなも趣味悪いよな」

「あいつで良いなら俺もワンチャンあるかな」

「あははっ、あるある」

「なら、いってみるか」

 遠巻きにしている男子から聞こえてくる声。


嵩賀谷かさがやって、良いとこあった?」

嵩賀谷かさがやって?」

「どうだろ、絡まないから分からない」

「影薄いからわかんない」

「うちのクラスだったんだ」

 女子の話声も聞こえてくる。

 ていうか僕、認識すらされてなかった……、まあ、良いけど。


「お前ら席につけよ〜」

 意図せず騒ぎの中心となってしまった僕の話題は担任がやって来るまで続いた。今日一日はこんな騒がしさが続くのかなあ。滅入るなあ……



玲香れいかちょっといい?」

 登校してすぐにクラスメイトが集まってくる。

 皆んなの聞きたい事は大体わかっている。昨日のSNSの件だろう。


「どうしたの?」

「これ、どういう事?」

 教室の中に静寂が訪れる。私の返答に聞き耳を立てているのがわかる。

「どうって?見たままだけど」


「嘘だろ……」

「あんな冴えないヤツが彼氏……」

「あれなら、俺の方が……」

「俺を振ってあんな冴えない奴と……」

 男子が一斉に騒ぎ始める。概ね想像できていた反応。最後の男子、私、あなたに告白された覚えないんですけど!?妄想が酷くない!?


玲香れいかって、男の趣味悪い?」

「でも玲香れいかがこの人と付き合ってれば市来いちきくんも諦めるかも」

羽柴はしばくんも」

「私、この機を逃さず市来いちきくんに告白する」

「私も羽柴くんに告白する」

 あそこの二人はお互いを励まし合ってる。ふ〜ん、あの二人告白するんだ。


「見たままって事は……、二人は付き合ってる、の?」

 ゴクリと唾を飲み込む音が周りから聞こえてくる。一人や二人じゃない。みんな恋愛話好きだよね。


 返事の代わりにニッコリと笑う。

「やっぱり……、そうなんだ……」


「うおおおおっ、嘘だろぉおおおっ、お、俺の玲香れいかがっ!?」

「「「「「「いや、お前のじゃね〜し!!」」」」」」

 騒がしくなり始めたところで馬鹿な発言をした男子に皆んなから否定の言葉が飛ぶ。私も同意見。私は誰のものでもないよ!!


「みなさん、席についてください」

 担任の早霧さきりちゃんが教室に入ってきた。

 おっとりした早霧さきりちゃんの声を聞いても中々静かにならない。

「席についてください。ホームルームを始めます」

 ざわざわと騒がしい教室内で真面目な生徒は席に戻ったけど、大半はまだ騒いでいる。私もそろそろこの騒ぎにうんざりしてきた。


「皆んな、先生がきたよ。早く、席に戻ろうね」

 立ち上がって周りに向けて声を張る。

 それまで騒いでいて早霧さきりちゃんに気が付いてなかったクラスメイトも席に戻り始める。


山梨やまなさん、ありがとうございます」

 ペコリと頭を下げて席に着く。

「それでは、ホームルームを始めます」


 私の想定以上に騒ぎが大きい。

 この調子なら先輩の方も大騒ぎになってそう……

 あ〜あ、これだけの騒ぎになったら先輩の事だから絶対否定するだろうなあ。


 ホームルームでは昨日のSNSについて注意があった。

 投稿は今朝削除されているとのことだったけれど暫くの間は騒ぎが続くんだろうなあ。


 私にはホームルームの内容よりもこれから先、どうやって嵩賀谷かさがや先輩と私が一緒にいられる環境を整えるかが問題。


「先輩……、私の事、避けるんだろうなぁ……」

 どうしてかは分からないけど、そう考えると少しだけ寂しさが込み上げてきた。

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