レッド ブラック ホワイト

六神

第1話「はぐれ機兵」①

  第一話「はぐれ機兵」



 足元の石がつま先に触れ、転がった。

 キーンはそれを意識には入れていたが、視野には入れない。

 もっと強大な危機が迫っていたからだ。

 ずしり、と重い音がして、それは尖った足先を地面に埋める。キーンの眼前には馬車ほどの大きさをした機械の虫が立ちはだかっていた。幸いなことに、周囲は砂地でやわらかいため刃物状になった足先が沈むらしく。動きが阻害されていた。けれど前後と身体の横に配置された四つの目が常にキーンの動きを追っている。

 そんなに見ても大して面白くもないぞ、とこぼしたところで機械仕掛けの存在には通じない。こちらの髪が赤くても、肌が褐色でも関係ない。年齢どころか性別すら判別できているかは不明だ。

 顔を上げ、陽光を思わせる黄金色の瞳で相手を正面から見据える。表情を引き締めるも顔つきには幼さが残り、身体も成人にはまだ遠い。

 それでも吐き出す息には落ち着きがあった。

「……シュギョク型、か」

 覚えている限りの知識を想起する。機械型兵器、略して機兵。眼前のそれは戦端が開かれた直後の突撃か、定められた範囲内を周回し、警戒域へ入った存在を攻撃する。

 今回は後者で、シュギョクの背後にある岩山。そこをくりぬいて作られた基地へ近づく存在を警戒、もしくは排除するのが役目だ。

 ただし、その基地はかなり古く、二年前に終結したクアール武装蜂起以降に閉鎖された。

 公的にはすでに存在しないものとされている基地だが、放棄の際に担当の方術士が術式を解体しなかったのか、何らかの条件が重なって動き出したのか、今もこうして警備兵が徘徊しているのだ。

 ぎちり、と鈍い音をさせながらシュギョクは六本足のうち、前肢の二本を掲げる。

 身を低くし、キーンは相手の動きを見定めようとにらんだ。この型と相対したことは何度かある。大きい身体で突進し、前肢を振り回すのが厄介だが、挙動が大きいので避けるのはそう難しくはない。

 うなりを上げて振り下ろされる前肢を飛び退(すさ)って避ける。空振りしたシュギョクの脚は岩に突き刺さり、岩はあっけなく砕け散った。

 遅い、とキーンは冷や汗をかきながらも安堵の息を吐く。シュギョクはこちらを認識し、追ってはいるがその挙動は鈍い。基地が放棄されてからの二年、何の整備も受けずに稼働していたのであちこちにガタがきているのだろう。避け続けるだけならできる。キーンの役目はあれを制圧することではない。単なる時間稼ぎだ。

 それでも距離を開けようとそろりと足を引いた途端、大地が大きく跳ねた。下から突き上げるような衝撃と共に、周辺の地面が持ち上がる。やわらかい砂地の中から何かのかたまりが複数飛び出し、うごめく。

 なに、とキーンはたたらを踏む。かたまりは身震いしながら自身を覆い隠していた砂を振り払うと、六本足を使って大きな身体を持ち上げ、こちらに複数の目を向けた。

 現れたのは、シュギョクと同形状の機兵。その数四体。キーンは先ほどまで相対していたものと併せて五体の無機質な眼差しに見下ろされる。

 しまった、と口中でこぼすがもう遅い。攻撃を避けるにしても、二体か三体が限度だろう。こちらの武器はナイフと小銃。振動で砂に埋まったかかとを引っ張り出して体勢を立て直しつつ唇を噛む。じゃり、と砂の味がした。

 状況悪化の中、視界の端で何かが光る。数歩離れたところで鏡に似た破片がゆらゆらと漂っていた。同じものが砂地に点々と浮かび、基地へ続いている。

 キーンは一瞬、目だけでその鏡を追いかけると意識を眼前の機兵に集中した。

「グロリア、急いでくれよ」

 キーンの役目は外の機兵をひきつけること。その間に内部へ侵入した仲間が機兵を動かしている術式を破壊する手はずになっている。

 小さな鏡には、巨大な機兵と焦燥を浮かべる少年の姿が映っていた。


   ■□■


 少女は顔を上げた。

 視線を動かすも、周囲は闇が深い。侵入している基地は元が岩盤をくりぬいて構築されたため窓がなく、照明設備も今のところ復旧できる見込みはない。

 雪のように白いかんばせを上げると、動きに合わせて金属光沢の長い髪が揺れる。髪も肌も、そして服まで白い。軍事施設には不釣り合いな衣装にちりばめられた透明な宝石が、近くで作業している相方が持っているランタンの明かりを受けて星のようにきらめいた。

「……グロリア」

 呼びかけると、一拍の間のあと、なぁに、とゆるやかな女の声が返ってくる。

 ややあってから、ランタンごと移動してきた女が少女の隣に立った。

 背の高い女性で、黒髪を根元で縛り、少女とは対照的に動きやすそうな服装をしている。

 グロリアと呼ばれた女は額に浮いた汗を手でぬぐうも、手が汚れていたので顔に砂と油が混ざったものが広がってしまう。だが当人は気づかないし、少女も指摘しなかった。

「何かあったの?」

「キーンが死にそうだぞ」

 えっ、とグロリアが大きな声を上げる。だが少女は一向にかまわず長い袖に覆われた手を掲げる。そこに、すいっと小さな破片が降りてきた。

「なんか、でかいのが増えた」

 いちにいさん、と数え、五つだな、と答えて振り返るとグロリアは青ざめていた。

「うそ~~~~そんなにいるなんて聞いてないよっ!」

「だが、周辺で襲われた人間の証言とは一致するが」

 事前の情報では基地の近くを通りかかった一般人が大型の機兵に襲撃を受けた、とあった。中には複数体の目撃例もあったが、基地の規模や放棄された状況を考えて稼働中の警備機兵は少ないだろうと楽観視してしまったのだ。

「どうする、グロリア。ちなみに我は助けにとかは行かないからな」

「ティエン! ひどいっ!」

「我はグロリアの守り刀だぞ」

 そこを何とか、嫌だの押し問答を数回繰り返したあと、話の矛先を変えたのはグロリアの方だった。

「なら、当初の予定通り、先に機兵を止める」

 来て、と手招きされ、ティエンはその背を追う。少女の身体は華奢で小柄だが、膝から下が異質だった。先へ向かうにつれて細くなり、つま先立ちになったような形状になっている。その足にはかかとがない。そんな不安定な下肢にも関わらず危なげなく暗い屋内を進む。歩き方もふわふわとして重さを感じさせなかった。

「……ここだよ」

 とある壁をグロリアが示す。他と同じコンクリート製だが表面処理がかなり雑だった。

「多分、基地を放棄する際に術式を止めないまま扶桑(ふそう)を壁に埋め込んじゃったんだよ」

「雑な処理だな」

「担当の方術士がいい加減だったのかもね。それか、担当者不在のまま後始末をした誰かが、これが何なのかよく知らなかったとか」

 どちらでもいいや、とグロリアは一歩引くと壁を指さす。

「お願い」

「わかった」

 短いやり取りでティエンは壁の前に出る。指先が隠れるほど長く伸びた袖を振るうと、そこから鋭い先端が飛び出す。

 長く、薄い刃だった。

 ティエンは冴え冴えとした輝きをたたえた刃を掲げると、そのまま跳躍、一閃した。

 長い髪と衣装が優美な曲線を描きながら、鋭い軌跡を追いかける。重さを感じさせない挙動で跳んだ少女はすぐさま後退した。先のとがった下肢でこつこつと硬い床を叩きながら数歩後ずさると、そこでコンクリート壁が瓦解する。

 切り裂かれ、いくつかのブロックに分断された壁が崩壊し、床へ落ちて砕け、細かな破片が散る。周囲は舞い上がった粉塵で濃霧のような状態になったが、グロリアはかまわずコンクリート塊の上に乗り上げ、露出した壁の内部をランタンで照らした。

「……予想通りだ」

 そこに埋まっていたものは、植物の根に酷似していた。色は鮮やかな肉色から金属光沢と幅広く、根はコンクリート壁の向こうにあった本来の壁から生えるようにして壁面全体に広がっている。表面にはいくつもの瘤が浮かび、脈打っていた。

「扶桑( ふそう)だったか、いつ見ても気持ち悪いな、それ」

「生命の木、脳樹、疑似神経網、呼び方はいっぱいあるけどね」

 けど、と言いながらグロリアは腰に下げたポーチから大きめのシリンジを取り出す。中には液体が揺れ、その量を確認すると躊躇なく根に先端を突き刺す。

「仕組みはどれも、ほぼ一緒だよ」

 押し子部分に力を込め、内部の液体を根の中へ注入する。一本を空にすると、すかさず二本目を取り出し、同じ行動を繰り返す。

「おお、大盤振る舞いだな」

「急いでるからね」

 三本目を取り出したとき、根に変化が起こった。

 規則正しく脈打っていた表面が乱れ、まるで苦悶するように隆起する。扶桑の根はよじれ、壁の中から浮き上がり、突き出した先端が苦しみの表現とばかりに床を叩いた。

「効いた!」

 根に捕らわれないようグロリアは後退する。その間にも変化は続き、脈動は全体へ広がり、徐々に表面の色が変わっていく。色彩が失われて灰色になり、爆(は)ぜ割れる。扶桑は自らに起きていることが信じられないとばかりに大きくうごめくも、異変は止まらない。

 最後に爆発するようにして周囲に広がると、先端からぼろぼろと崩れていった。

「……終わったか」

 ティエンは扶桑がはじける寸前、彼女の前に立ち、細かな破片を受ける盾となった。そして扶桑の動きが停まった途端、グロリアは盾の向こうから飛び出す。

 根のかけらをブーツで容赦なく踏み砕きながら壁に向かって突進すると、瘤を手で握る、あるいは叩いてもろくなった表面を砕き、中にあった白い珠を取り出すとポーチへ放り込んでいく。

「九……はい、鱗珠(りんじゆ)十個確認っ! 扶桑、完全沈黙っ!」

 ポーチのふたを閉める間も惜しんで取って返すと、今度は来た道を走って戻る。

「キーン、待ってて!」

 あいつなら放っておいても大丈夫だろ、という少女のつぶやきは、髪を振り乱して走る背には届かなかった。


   ■□■


 どうする。キーンは回避行動を続けながらも対処を考える。

 機兵相手の戦闘は慣れているが、さすがに分が悪い。何より、ひきつけるという目的があるためこの場から離れられないのが痛い。単独行動なら即逃げ出している状況だ。

「こっの……っ!」

 岩を蹴り、シュギョクの上まで跳躍して落下の勢いを借りてブーツの底で目を踏み砕く。シュギョクの四つの目が五体分、二十個のうちのひとつを破壊したところであまり意味はないだろう。基地内の機兵はすべて同じ扶桑につながっているのである程度までは情報共有が可能。途中で四体増えたのもその証拠。視覚をふさいでも、熱感知などが共有されてしまえば一緒だ。

 同じ目的を持って迫ってくる巨体に圧されながら、それでもキーンはせわしなく視線を動かし何とか相手を足止めできないかと探る。

 シュギョクは身体が平たくて大きい。そのわりに、足が細い。

 目は周囲を確認しやすいよう前方後方、側面にある。身体の下にはない。

「っ、そうだ!」

 ひらめくものがあったキーンは腕を避けながら一体の側面へ回り込み、脚の間をすり抜けながら腹の下へと潜り込む。シュギョクの装甲は厚いが、配備されている機体はどれも武装の類はないようだ。基本的に侵入者をとがった脚の先端で突き刺すか、薙ぎ払うだけ。

 つまり、身体の直下へ入ってしまえば攻撃されない。

 キーンの動きを学習して異なる動きをする可能性は高いが、その前にナイフを足関節に叩くようにして突き入れる。ぶちり、と内部で何か配線のようなものが切断できた手応えがあったのを確認すると、相手が身体を動かしてナイフを折られる前に引き抜き、転がって逃げる隙にもう一か所、同じようにして関節を壊した。

 目と同様、シュギョクは足も多い。関節のひとつやふたつでは大した痛手にはならないが、腹の下という死角に入られては上手く攻撃できないらしく連携に乱れが生じた。脚を曲げて突こうにも、見えない個所なので上手くいかない。周囲の個体はキーンの姿を見つけられず右往左往する。

 キーンは次々とシュギョクの腹の下から下へと移動しながら嫌がらせのように関節を破壊していく。その様はまるで地を駆ける獣のような動きだった。シュギョクが疾走する影を追って反転するも、そのときにはすでに小さな侵入者は隠れてしまっている。

 それでも関節破壊を五体分二周もすれば、先に動きが鈍るのは人間の方だった。

 走って、走って、呼吸が乱れ、足先が砂に埋もれた。身体を低くして走っていたのでそのまま転倒してしまい、手が地面につく。ナイフはかろうじて手放さなかったが、次の瞬間、自分の頭上に影が下りた。

 振り返ることもせず身をよじる。尖った爪が目の前を通過した。かろうじて胴体へ穴が空くのは防げたが、左腕の肘から下がかすった。シュギョクの脚は細いが、それでも丸太ほどの太さがある。大型質量が落下した衝撃で砂と石が舞い上がり、キーンは風圧で吹き飛ばされた。

 脚がかすった腕は、大きく削り取られてしまう。

 そのまま砂地を二転三転したキーンは、後半は自ら転がってシュギョクから距離を取る。全身砂まみれになって顔を上げると、シュギョクが前肢を持ち上げていた。引っかかっているのは、千切れたキーンの左腕だ。

「ちっ、くしょ……壊しやがったな……」

 衣服が大きく裂け、そこから削り取られた腕の残りが露出していた。

 銀色の表面と、ぶらぶら揺れる太いケーブル。

 砂地に落ちる液体は、血とは似ても似つかない色。

 少年の腕は生身ではなく、機械で構築されていた。

「この、やろっ!」

 悪態をつきながらも素早く起き上がり、キーンは再度シュギョクの脚を狙って腹の下へ飛び込んだ。一体でも歩けなくすれば、こちらの回避行動にも余裕が出る。

 だがナイフの刃は片腕では威力が足りず、先ほどよりも浅くしか刺さらなかった。手応えのなさに舌打ちする。装甲に弾丸が弾かれるのを覚悟で小銃を撃ちまくるか、とナイフから武器を替えようとしたその一瞬だった。

 横から、シュギョクの脚が突くように襲いかかってきたのだ。

 かわそうとするも、予想外だったため反応が遅れ、避けきれなかった。脚はキーンの右足に突き刺さり、そのまま腹の下から引きずり出される。攻撃してきたのは潜り込んでいた個体ではなく、別のシュギョクだった。

 どうやらちょこまかと逃げ続けるキーンの動きを学習したらしく、狙いを定めて脚を突き出したようだ。

「っ!」

 脚はキーンのすねに深々と突き刺さり、持ち上げられて宙吊りになってしまう。視界が逆さまになり、振り回されて髪につけている金のメダルがチャリチャリと音を立てた。

 そのままシュギョクはぐるりと身体を反転させる。と、脚先がすねから抜け、落下したキーンは近くの岩に背中から叩きつけられる。

「っ……くっ」

 息がつまり、うめく。

 喉元に何かがこみ上げ、思わず咳き込むも背中の痛みにもがいた。

 早く起き上がらなければならない。シュギョクはキーンを岩にぶつけようとしたのではない。動いたらたまたま外れただけ。

「まだ、壊れるなよ……」

 ちらりと視線を落とすと、腕同様に足も無残なありさまだった。そして腕と同じく、破れたブーツの隙間から見える足もまた、金属製だった。

「っ、う、お、おお……」

 身体の痛みを無視して無理やり起き上がり、こちらへ向かって突き下ろしてくる前肢を寸前で避ける。脚は岩に深々と埋まり、シュギョクの動きが停滞する。その隙に砕けた岩を踏み、地面に突き刺さった前肢をはしごにして一気にシュギョクの背中へ駆け上がり、走り抜けて後ろ側へ飛び降りる。

 そして運良く、他の四体はこちらへ向けて反転している最中。動きがぎこちないのは、どうやら少しばかりはキーンの嫌がらせが効いていたようだ。

 キーンはナイフを手早く鞘へ戻すと小銃に持ち替える。脇の下で銃身を支え、短くなった左腕で抱え込むようにして無理やりかまえて引き金を引いた。小銃はフルオートに設定してあったため、一度引き金を引けば弾倉が空になるまで弾を吐き出す。

 狙うは一番近いシュギョクの脚。一体でも足止めできればと、轟音を吐き出し続ける銃の反動を膝と腕で無理やり押さえ込む。だがしかし、弾丸は脚の表面に弾かれてしまう。

「当たれぇええっ!」

 ようやく関節の装甲板がはじけ飛び、内部回路が露出。続けざまに上がる火花と煙。脚が一本折れたシュギョクは身体を傾かせるも、バランサーが即座に全体を支えてしまう。

 まだだ、と唾をのむも、一秒後には弾倉が空になってしまう。交換を、と腰の後ろに下げたポーチに手を回すも、その左手は肘から向こうがなくなっていたことを思い出す。

 周囲のシュギョクも反転を終え、こちらへ迫る。

 撤退か、継続か。逃げるにしても、素早くは動けない。

 右足は空いた穴から潤滑油が漏れ、損傷個所が砂まみれになっていた。

 どうする、どう動く。

 キーンが逡巡していると、シュギョクの群れがわずかに揺れた。身体がしびれるような動きを見せたあと、すべての個体が停止する。

 ひゅ、と息をのんで呆然とするも、またたきの間に我に返ると今のうちにと弾倉を交換する。右腕と半分になった腕では遅々とした作業だったが、弾を込めてもう一度銃口を向けても五体のシュギョクは止まったままだった。

 機械群の中、キーンは慎重に後退して包囲網から抜ける。途中、一体は脚が限界だったのか、巨体を支えきれずにどうと倒れて砂が大きく舞い上がったが、それだけだった。

 じりじりと距離を開け、キーンは相手が跳躍でもしない限りは届かない場所まで下がる。

「……終わった、か」

 つめていた息を深く吐き出す。

 先ほどまで執拗にキーンを追い回していた銀色の虫は、砂まみれの岩となってしまった。どうやら、何とか相方は基地内の扶桑の停止作業を終えたらしい。

 大きく息をつき、キーンはかまえていた小銃を下ろした。

 と、同時に、急にシュギョクに受けた傷が痛みを訴える。

「いってぇ……」

 背中もどこもかしこも傷だらけだ。千切れた左手も回収しなければならないが、取りに行ったところであそこまで派手に粉砕していてはつなげられるかどうかはわからない。とりあえず、右足はまだ動く。

 キーンは嘆息すると、口で右手の手袋をくわえて外す。その下にあった右腕もまた機械だった。その機械仕掛けの右手で、無傷だった左足の裾をまくる。そこも右足同様、銀色の光沢がのぞいた。

 少年の四肢はすべて、金属製だった。

 砂塵にまみれた四肢から砂を落とすのをあきらめて息を吐いていると、呼びかける声に顔を上げる。

 見れば、基地の入口から女が走ってくる。

「キーンくん! 大丈夫っ⁉」

 背の高い女性が髪を振り乱して全力疾走してくる様に、キーンは嘆息して肩を落とす。そして、無事だった右手を掲げて応えるのだった。

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