第45話 初めての喧嘩

“ザザァン…”




美優は両親と巧との思い出の海を砂浜に座ってずっと眺めていた。




ひたすら波の動き、潮の香り、波の音をボーっと何も考えず、ただ海を感じていた。




『どうせなら波と一緒に私の涙もさらっていってほしい…』




以前もこの海をみてそう思ったことを思い出した。




何があったかまでは思い出せないけど…




――巧といると辛い




「美優!!」




巧の声が聞こえた気がしたが、波の音ではっきりは聞こえなかった。




「美優!!!」




「え…?」




声が聞こえたほうへ振り向くと巧が走ってきている。




美優は立ち上がり巧から逃げようとする。




「待てよ!待てってッ…」




「離して!!」




巧は美優の手首をギュッと握った。





「…」




美優は巧の顔がみれず俯く。




「昨日…」




「うん。」




「どうして沙織さんと…?何であんな写真…巧はしないでしょ?」




「…」




「どうして黙るの…?巧の話が聞きたいんだよ。どうして沙織さんと一緒にいてあんな写真撮られたのか…巧の口から聞きたいんだよッ…」








「美優、ごめん。」







「ごめん…?」




『私とお兄ちゃんが…そういう関係だって誰にも言わないで…今までずっと、ずっとずっと我慢してきたの!!周りの目が怖くて…我慢してきたの!』




沙織が言っていたことを思い出すと真実をいえなかった。




「どうしてああいう写真を撮られたか言えないけど、でも俺はしてない。」




「してないって…理由がいえないのにどう信じるの?」




「連絡もしなかったし、謝るしかできない。」




「…私大切な話があったの。巧に支えてもらいたかったの…ただでさえボロボロだったの…」




今日医者に言われたこと、以前の流産、思い出せないけど悲しいことがあった海――




「巧といると泣いてばっかり…沙織さんのことも憎くて仕方ない…誰かを恨むとかそういう自分も嫌い…」




“ザザザァン…”




同じ波はない――




私たちの愛の形も同じ形には戻れないのかもしれない




「巧といると辛い…ッ」




巧は美優を握っていた手の力を緩めた――








「…距離をおこう。」






「……え?」




「このまま一緒にいてもよくない。」




「…」




「俺は美優に嫌われたいわけじゃない。辛い思いもしてほしくない。」




「…ッ……」




美優の涙をそっと巧がぬぐってきた。




巧の顔をみると、いつもは自信を与えてくれるブルーの瞳は今にでも泣き出しそうな悲しみに包まれたブルーの瞳だった…







いつも自信に溢れたブルーの瞳が好きなのに




悲しみに溢れている瞳にしたのは私だ――





私たち距離をとって





このあとどうなるの?





先が見えないトンネルはどこへ向かっているの?





巧のそのブルーの瞳で照らしてほしい…




こっちに来いって





俺のところに来いって私を導いて――




“ザザザァン…”




巧とこの海で別れ、美優はまだ海を眺めていた。




“ピリリリリリッ…”




登録していない携帯番号から着信が鳴った。




「…はい。」




「あ、今大丈夫?」




「…誰?」












「武田だけど…」








「あ…中学の…」




「ニュースみてさ、心配になって…大丈夫?」




「………」




何も言えず無言になってしまった。




「じゃあさ、今度一緒に遊ばない?」




「え…?」




「愛と仲良かったよね?愛も誘ってみんなで遊ぼうよ。中学の仲間でさ。」




「あ…うん。愛に聞いてみる。」




「じゃあ、またラインで連絡するよ。あと…」




「?」




「いつでも連絡して。相談乗るから。」




「うん…ありがとう。じゃあまた…」




「うん。」




“ピッ…”




武田は通話を終えるとポケットからタバコを取り出し吸い始めた。




「おぅ!武田!機嫌よさそうジャン!」



「あぁ…ちょっとね。フゥ…」




「キャーー武田君よ!!」




武田は大学の喫煙所でタバコを吸いながら黄色い声援を送ってきた女学生に手を振る。




「相変わらずもてるね~」




「俺にも一人くれよ~」




「いっつもオンナに惚れさせてポイだもんな~」




武田の友達が数人集まってきた。




「恋なんてゲームだよ、ゲーム…俺のストレス発散。」




「確かに医大生ってストレスたまるよな~親のあとを継ぐって決まった人生歩んでいる人が多いもんな。」




武田の周りに集まってきた友達はみんな親のあとを継ぐために医師の道を選んだ者たちだけだった。




「中学から絶対落ちない女がいたんだよ。しかも今芸能人と付き合っているオンナ。今度はそいつを落とす。」




「マジかよ!怒らせると怖いんじゃねぇの?」




「今危ないらしいから大丈夫だよ。」




「だけど武田が落とせない女がいるなんて意外だよな?」




「確かに。」



















「絶対落としてやる…美優。」

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アムール~絶対秘密の結婚~ かのん @usagilove

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