第18話 幼馴染なんて…

“ブォォォォ…”




ヒロの車でヒロのお家の別荘へ向かうことになった。




「…美優?」




「…え?」




「顔色悪いよ。大丈夫?酔った?」




「うん…なんか気持ち悪い…」




「車停めようか?」




「ううん…早く横になりたい。」




“ブォォォォォ…”




ヒロがアクセルを踏んでスピードを上げる。




美優は外の景色がものすごいスピードで移り変わるのを眺めていた。




「なんか…巧と出会ってあっという間に時が過ぎたな…」




そう呟いて美優は寝てしまった。




「ん…」




美優が目を覚ますと知らない部屋にベッドの上で寝ていた。




「ヒロ…?」




ドアを開けるとそこは二階だったらしく、ウッドデッキに手をかけ下をみると巧の姿が見えた。




「…巧?」




美優が駆け寄っても駆け寄っても巧は遠くへ行ってしまう。




「巧?待ってよ…」




「俺のこと覚えてないんでしょ?」




「…え?」




「バッグ…」




「バッグ?」




「大事なものが入っているんでしょ?」




「大事なもの…?」




巧の姿がスゥッと突然消えてしまった。




「巧!!」




美優が目を開けると目の前にはヒロの顔があった。




「美優、うなされてたよ。大丈夫?」




「あ…夢か…あれ?」




美優の目から涙がこぼれた。




「はは…夢が現実だったらよかったのに…」




美優は涙をぬぐって涙を止めた。




「美優…」




ヒロは美優の肩に手が伸びたが、引っ込めた。




「着いたから、中に入ろう?」




「もう着いたんだ…私結構寝てた?」




「最後はうなされてたけど、気持ちよさそうに寝てたよ。」




「ヒロといると子供の頃に戻ったみたいになって気が緩んじゃうのかも。」




「…そっか。」




ヒロは美優がやっぱり幼馴染としてしか自分を見てくれていないことが切なかった。




「食材も買ってたの?」




ヒロがトランクからスーパーの袋を取り出す。




「家に荷物取り替えるときに森さんに電話したらどうぞって。」




「すごいたくさん~何食べようか?」




「美優はソファに座るか、ベッドで寝てて。具合悪いんだから。」




「え…ヒロ料理できるの?」




「少しはね…カレーとかそういうのしか作れないよ。」




「包丁握れるってことでしょ?すごいじゃん。」




“ザクッ…”




「ギャッ!ヒロ指きりそうだよ!怖いよ…」



「え!?でも森さんは上手だって…」




「森さんはヒロに注意なんてできないよ~こうやるんだよ。やってみて。」




「こう?」




「うん、上手上手!」




結局美優もキッチンに立ってポトフを作ることにした。




「あはは!」




「ワッ…危なかった~」




キッチンでは二人の楽しそうな声が響いていた。




ヒロの告白からギクシャクしていたのが嘘のように




昔のように二人はじゃれ合った。




「あつッ…」




「美優!?」




熱湯が美優の手にかかった。




“ジャーーー”




ヒロは美優の手首を握り、水で冷やしてくれた。




「美優は昔からドジだね。」




昔のように今を過ごせたらよかった。




だけど手首を握る手もあの頃と違って男の人の手になってしまった。




背中にあたる胸板も厚くて、耳元で囁く声も低くて




ヒロも私も大人の【男】と【女】になったんだ。




“バッ…”




美優はヒロの手から逃げるように自分のほうへ手を引き寄せた。




「あ…もう大丈夫だよ。ありがとう。」




よく考えたら幼馴染とはいえ男の人と同じ屋根の下で寝ることになる。




しかも相手は自分のことを好きだといっている相手




美優はヒロにどれだけ自分が甘えていたかを実感した。




“グツグツグツ…”




ポトフがグツグツと煮えて具が鍋の中でゆれていた。




鍋の中を見ていたらまた急に気分が悪くなってきた。




「美優?大丈夫?」




「…うん…吐く…」




「吐きなよ!」




そういってヒロは背中をさすってくれた。




その手は温かくて気持ちがよくて…




でもこの手に甘えてばかりはいけない




手放さなきゃいけない…




わかっているけど




気持ち悪くてこれ以上考えられなかった…




美優は結局吐いてソファに横たわっていた。




「お医者さん呼ぼうか?それとも何か薬買ってこようか?」




ヒロが心配そうにテーブルに水を置く。




「大丈夫…吐いたら気分だいぶよくなった…」




「そっか…あ、寒いよね…」




そういってヒロは窓を閉めようとする。




「待って…外の空気吸いたい。」




美優がソファから立ち上がる。




「…大丈夫?」




ヒロが美優の肩を支えてあげる。




ウッドデッキに二人で出ると今にも降ってきそうなぐらい、たくさんの星であふれていた。




「うわぁ~すごい…」




「流れ星も見えるよ…ほら、あそこ!」




「え!?みえなかった~よし、今度こそ!」




「美優は…流れ星見えたら何お願いする?」




「そうだな…いっぱいありすぎて絞れないな…」




「巧のことは?」




「え…うん、巧のこともあるかな…」




「ひとつにしないと願い事かなわないよ。三回言わないといけなんだから…」




「でも流れ終わる前に三回いうなんて難しいよね。」




「そうだね…」




「ヒロは何をお願いするの?」




「俺…?」









「美優と幼馴染じゃなければよかった。」










そう言ったヒロの後ろで流れ星が流れた。




その流れ星はヒロの心の涙のようだった。




「美優と小さい頃からずっと一緒だから…美優の気持ちわかるんだ。」




ヒロの左手が美優の右手の指を絡ませてきた。




「俺はこうやって美優と手を繋ぐとドキドキするけど、美優はあの頃のまま…幼馴染の俺と手を繋いでいるだけなんだよな…」




「ヒロ…」




「美優がこのまま俺と一緒にいていいのか迷っている気持ちもわかる。俺に気持ちを答えることができないのここにいていいのかって思っていることも…」




ヒロはギュッと手を握り締めてきた。




「俺なら…美優のそばにこうやってずっといるよ?こうやって手を繋いでどこへだっていける。」




「ヒロ…」




「それでもやっぱり巧を選ぶ?」




「…」




美優は黙って首を縦に一度ふった。




「ごめんね、ヒロ…」




「…もう一度美優の答え聞きたかったんだ…」




美優は目に涙を浮かべる。




「美優も泣き虫だけど…俺も泣き虫だな…」




二人とも目から涙をこぼして、星空を見上げた。




「美優、お願いがあるんだけど…」




「うん…」




「まだ…もう少し…ここで一緒に過ごそう。」




「いや、でもさ…」




「さっきみたいな…あの頃のような…ここを出たら美優を諦めきれるような思い出がほしいんだ。」




「…」




「美優の嫌がることはしないし、アイツが…巧が迎えにくるまででいいから。」




「…いいの?」




「うん…寒くなってきたから、中入ろう。」




「…うん。」




巧…




巧にもこの星空見せてあげたいよ




巧は流れ星が流れたらどんな願い事する?




私はとにかく巧に会いたいよ…










巧は15年前に戻りたいって願うのかな?

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