第17話 引き裂かれる

“ピリリリリリッ…”




「…はい……え!?わかった今すぐいく。今美優の家にいる。…わかった。」




「ん…たく…み?」




「美優、起きたか?」




「…朝?え?どうした…の?」




巧が美優をギュッと強く抱きしめた。




「…痛いよ…本当にどうしたの?顔色悪いよ?」




「美優…」




「巧…?」




美優は巧の背中に手を伸ばし抱きしめた。




「…初めて会った海、覚えているか?」




「うん。」




「クリスマス、そこで夜7時に会おう。待ってるから。」




「え?クリスマスってまだ一ヶ月以上先ッ…」




巧がさらにギュッと強く抱きしめてきた。




「折れそうだよ…」




今度はいきなり体を引き離された。




「俺が出た一時間後、荷物をまとめて友達のところへ行くんだ。いいな?」




「え…待って。訳がわかんない。」




「いいな?」




巧はキャップを手に取り玄関へ向かう。




「待ってよ…行かないでよ…」




美優はもう二度と巧に会えない気がしてすがるしかなかった。




「クリスマス、絶対来い。」




「置いてかないでよぉ!嫌だよぉぉぉお!!」




美優が泣きながら叫んでも、巧は出て行ってしまった。




「うッ…ウゥ…」




美優は今の状況に頭がなかなかついていけなかった。




「…どうして突然ッ………」




泣きながらたどり着いた答えは




「もしかして…結婚がバレた?」




少しづつ冷静さを取り戻し愛に電話をかける。




「…愛?ごめん、何日か泊まらせて。急でごめん…ワケは会ってからキチンと話す。」




美優は荷物をまとめて家を出る準備をする。




巧からもらった指輪はネックレスに通して鏡の前でネックレスをつける。




指輪をギュッと握り締め家を出た。




「…あの~すいません。」




「え?」




後ろから声を掛けられ美優が振り向くと




“カシャッ…”




カメラマンがシャッターを切った。




「え?何ですか?」




「神田美優さんですよね?日向巧さんとどういう関係なんですか?」




美優は怖くなって大学へと走った。




「あ、ちょっと!」




走ってもカメラマンは走って追いかけてきた。




大学まで全力疾走し、何とか構内に入ることができた。




「チッ…」




カメラマンは舌打ちをして入り口をウロウロしていた。




美優は裏門から出て愛の家へと急いで走って向かった。




“ピンポーン”




「…はい…美優!」




「愛…助けてッ…」




怖い思いをしていたのが、愛の顔をみたら緊張がとけて涙が出てきた。




「入りなよ!今ニュースみたよ!」




「ニュース?」




「ほら、こっち来て!いいから入って!」









あのイケメン俳優日向巧と大物女優の息子を手玉に取る女子大生!




あのイケメン俳優日向巧と大物女優の息子Aさんが女子大生の家から出てきた!

しかも息子Aさんは顔に殴られた傷があり、二人は喧嘩をしたようだ。

日向巧は女子大生の家にお泊りしたため、日向巧が本命なのか!



しかし女子大生は先日その息子Aさんとイルミネーションを抱きしめられながら見ている姿がテレビで放送され、ラブラブなカップルと周りも信じていた。

これは息子Aさんもイケメンだが、日向巧に乗り換えたということなのか――











巧がタバコを吸っている写真や巧とヒロが睨み合っている写真などが掲載されていた。




「これ、昨日の学際の時紹介してくれた人と同じ服だよね!?巧君だったの?てか巧君と付き合ってるの?」




美優は首を横に泣きながらふった。




「本当は結婚しているのッ…黙っててごめんッ…」




愛は泣きじゃくる美優を抱きしめた。




「…芸能人が相手だったからかもしれないけど…でも言ってよ~お祝いの言葉言ってあげたいじゃん…」




「ごめん…ごめんッ…」




「泣かないでよ~今まで辛かったんだね…」




「追いかけられて…一人で怖かったぁ~」




「よしよし…ねぇ、美優。」




「ん?」




「こんなときにあれかもしれないけど…結婚おめでとう!」




「……愛~ありがとう…誰にも祝ってもらえないと思ってた~」




「あんたが手玉に取るような女じゃないってわかってるし。」




「わかってくれる人がいて嬉しいよ…」



「あ、私もう大学行かないといけないから、またあとで話聞かせて!」




「うん。」




「今日大学行く?どうする?」




「今日はやめとく。」




「教授にも伝えておくから。」




「ありがとう。」




「家にあるもの勝手に使って、冷蔵庫のものでご飯食べておいてね。」




「うん、本当にごめんね。」




「じゃあ、鍵絶対かけておいてね。」




「うん、わかった。」




「じゃあ行ってくるね。」




「うん、気をつけてね。」




愛を送り出すと、ポツンと一人の寂しさを感じた。




「テレビ…は何となく嫌だし、携帯で音楽を…」




“ピリリリリリッ…”




着信をみると公衆電話になっていた。




「え…」




何となく怖くてでなかったら、今度はラインがきた。




『手玉にとるとかサイテー』




美優は怖くなって携帯を胸に押し当てた。




“ピリリリリリリッ…”




今度は非通知で電話がきた。




美優は携帯の電源を落とすことに決めた。




「巧…会いたいよ…」




美優は結婚指輪を握りしめて、体育すわりで蹲った。




「え!?海外!?」




「今ちょうどいい機会だから海外で写真集のロケしましょう。明日チケット取ったから。」




橘が巧にスケジュールの話をする。




「だけどこんな時に…」




「こんな時だからこそ日本を離れるのよ。海外ロケっていっても二週間ぐらいだし、帰ってきたらまた別の話題になって世間は忘れるわよ。」




「だけど美優に何度連絡しても連絡取れない状態で…」




「だけどだけどだけど…いい加減にして!こんな風になったのは日向!アンタが隙を見せたからでしょ!もう!」




橘が巧に怒鳴り、巧は黙るしかなかった。




確かにあの時ちゃんとカツラを被っていれば…




もっとカメラに気をつけていたら…




学園祭に行かなければ…そう思ってももう遅かった。




「美優、ただ今~わ!すっごいい匂い!」




「愛、おかえり~台所と食材勝手に使わせてもらったよ~」




「いいよいいよ~てかすっごく美味しそう!食べてもいい?」




「もちろん食べて食べて!」




「美優に電話しても繋がらないからさ、何買ってきていいかわかんなかったから適当に買ってきたよ~充電でも切れちゃった?」




「あ…うん…」




「私の使ってよかったのに~はい。」




「ありがとう。」




愛には心配をかけたくなくて何となく携帯の電源を落とした理由を言いにくかった。




「ヒロも心配してたよ~」




「ヒロ大学に来てたの?」




「マスコミの人たちが集中しちゃって警備員さん出てきてたよ~」




「ヒロは大丈夫だった?」




「彼女は一般人なのでこれ以上探らないでください。ってそれだけ言ってたよ。」




「ヒロ…」




「こういう噂ってすぐみんな忘れるよ!大丈夫だよ。これ美味しい!」




「本当?よかった…」




「そういえば巧君は?」




「え?」




「巧君も大変なんじゃない?」




「あ…携帯の電源入ってなかったから連絡来ているかもわかんない…」




「あとで連絡してみなよ~美優のこと心配していると思うよ。」




「…うん、してみるね。」




「ほら、美優もちゃんと食べて!こういう時こそちゃんと食べないと!ほら、お菓子も買ってきたから、夜食べながらいっぱい話聞かせてよ。」




笑顔で話しかけてくる愛が、今の美優にとって心の支えだった。




本当は巧と離れている間愛のそばにずっといたかった。




だけどマスコミはそんなに甘くなかった…




「美優、今日も大学休む?」




「…うん…一週間くらい休もうと思う…」




美優はまだ携帯の電源を入れる勇気さえもてなかった。




だから大学にいって他の人の視線はもっと怖かった。




「じゃあ…教授に伝えておくよ。ノート綺麗にとって帰ってくるね。」




「うん、ありがとう。じゃあ気をつけてね!」




愛を見送って、充電器がささった携帯電話を見つめた。




「ふぅーーー」




呼吸を落ち着かせて携帯に電源を入れてみた。




【着信120件、メール38件、ライン100件】




見たことがない数字に手が震えだした。




着信をみると巧と愛とヒロと非通知と公衆電話だった。




巧のラインを見ると巧らしく短文で【大丈夫か?】【どこだ?】【電話に出ろ!】と心配している内容だった。




巧の声が聞きたくなり電話してみた。




『おかけになった電話番号は現在電波の届かない場所か電源の―』




お決まりのアナウンスが流れた。




ラインを送ってみようとアプリを立ち上げようとした時、電話が鳴った。




「…ヒロ?うん、今愛の家……え!?わかった。今すぐいく!」




美優はベッドの横のテーブルの引き出しから保険証をとり、病院へと向かう。




「愛!」




「美優!?あ、ごめん、ごめん。保険証もって来てくれたんだ~ありがとう。」




「どうしたの?何があったの?」




「何でもないよ。大丈夫だよ。」




「でも…頭打ったって聞いて…」




「ヒロ!?」




愛はヒロを睨み付ける。




「後から知ったほうが美優だって嫌な気持ちになるよ。」




「…」




「どうしたの?教えてよ…」




「記者が…愛が美優も友達だってわかったら囲っちゃって…それでカメラとぶつかっちゃって…」





「嘘…」



「ぶつかったって言ったって大げさなんだよ~それに検査して何もなかったから。心配しないで。」




愛は美優を心配させまいと笑顔で答えた。




「もう愛の家も危ないと思うから、俺と一緒に行こう、美優。」




「…行こうってどこへ?」




「別荘へ行こうと思う。教授には美優もちゃんとレポートをだしたら単位落とさないって約束してくれたから大学の心配もいらないよ。」




ここでヒロに甘えてしまってもいいのかな…




「巧君と連絡とれた?」




「電話したら繋がらなかった…」




「こういう時こそ巧君が動いてくれればいいのにね…」




「…ヒロの別荘に行く。愛、本当に今までごめんね。」




「…いいの?」




「うん…これ以上迷惑かけれないし、この土地にいないほうがいい気がするから…」




「絶対戻ってきてよ?」




「うん!」




「ヒロ…美優をお願いね。」




「分かってる。」




ヒロ




いつもヒロの優しさに甘えてごめんなさい




ヒロはどうしていつも優しいの?




私に後ろめたいことがあるの…?

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