第12話 嫉妬

「やばい急がなきゃ!」




美優は急いで家を出て大学へ走って向かう。




「遅刻しそう!!」




何とか門をくぐり時間に間に合うかどうかの瀬戸際だった。




「美優!」




「愛!ごめん、遅刻しそうだからあとで!」




「休講だってよ!」




「…え~めっちゃ走ったのに~」




「てか、私も同じ授業だし。ほら。」




掲示板を見ると確かに休講のお知らせが貼ってあった。




「ねぇ、ヒロとなんかあったの?」




「え?」




「なんか最近美優もヒロも変だよ~あ、ヒロに告白でもされた?」




「え!?」




「えって…誰がみたってヒロって美優のこと大好きじゃん。」




「幼馴染だよ?そういうのじゃないと思うけど…」




「美優がそう思ってもヒロはそうじゃないんじゃない?」




「キャーー」と遠くから黄色い声援が聞こえてきた。




「ヒロ!こっちこっち!今日休みだって!」




愛がヒロに声をかける。




「おはよう。」




「あ、うん、おはよう。」(もう、巧も愛も変なこというから意識しちゃう。)




「じゃあ、私次の授業のレポートするから。じゃあ。」




愛は逃げ去るようにその場から消えた。




「美優、あのさ、時間あるならちょっといい?」




「うん…」




大学の近くのカフェに二人で行った。




「なんか…久しぶりだね、こうやって二人でお茶するの。」




「そうだね…」




「なんかヒロとお茶すると和むっていうか…ヒロもよく私に付き合ってカフェに一緒に行ってくれたよね今まで。」




「…」




「ヒロ?どうしたの?」




「俺は…」




「え?」












「美優とこうやってしているのはお茶だと思っていない。デートだって思ってる。」










「デートって…」




「美優が幼馴染としか思っていないのはわかっているよ。だけど俺は美優のことずっと好きだったんだ。」




「ヒロ…」




「ずっと今までの関係が壊れそうで怖くて言えなかった。だけど今は状況が違う。」




「だけど私…」




ヒロが美優の手を握り締めてきた。




「ヒロ?」










「アイツには渡さない、絶対――」










「どうしたのヒロ?いつものヒロじゃないよ…」




ヒロは美優から手を離す。




「美優、返事はまだしないで。」




「え、でも私結ッ…」




ヒロが人差し指で美優の唇を押さえる。




「俺はそんな関係認めない。」




「…」




「今まではギクシャクしたくないって思ってた。だけど今はギクシャクしてもいい。俺を男として意識してほしいから。」




「ヒロ…」




「…あの~すいません、ランチの時間お終いなんです。」




店員が話しかけてきた。




「あ、すいません、帰ります。」




カフェを出ると雲が暗くて雨が今にも降り出しそうだった。




「美優は家に帰る?」




「うん。」




「俺ももう授業ないから一緒に帰ろう。」




家に向かって歩くと人だかりができていた。




「何だろうね…ここらへんいつも人いないのに…」




「撮影かなんかかな?あ、アイツ…」




「え?」




美優が目をやると巧が路上で撮影をしていた。




「本当あの共演している女優さんとお似合いだよね!」

「あの二人付き合ってるんでしょ?」

「あのくらいのレベルだとお似合いだよね。」




周りにいる女子高生が話しているのが耳に入ってきた。




「美優、行こう。」




「うん…」




“ポツ…ポツ…”




「撤収!」




撮影スタッフが急いで機材を片付け始めた。




可愛い女優さんが巧に傘を差し出し、相合傘をしてその場から去った。




「ねぇ、見た?すっごいお似合い!」

「撮影終わっても相合傘とか付き合っている証拠だよね!」

「私も相合傘したい!」




「美優、雨降ってきたし急ごう。」




「うん。」




体が重くて動かない。




雨が降っているから走りたいのに一歩歩くのもできそうにない。




「美優…わかった。傘買ってくるからここにいて。」




ヒロは傘を買うためにコンビニに走っていった。




“ザァァァァ…”




みんな急な雨に走っていく。




美優はカバンに折り畳み傘があることを思い出し、傘を差した。




日向巧と結婚しています!と大きな声で叫びたくても叫べない




私も日向巧のことが大好き!といったところできっとファン扱いされるだけだ




誰にもいえない、公にできない、自分の気持ちを打ち明けれない…




雨が降っていてよかった




傘がさせてよかった




だって私が泣いていても誰も気づかない




傘で顔が隠れるから




雨の音で声がかき消されるから――




“パシャン…”




下を向いて泣いていてもどうしてわかるんだろう




「美優――」










「何で泣いてんだよ?」









顔は見えないはずなのに




泣き声は聞こえないはずなのに




どうして私のことがわかるの?




“パシャ…”




巧が近づいてくる音が聞こえた。




「来ないで。誰かに見られるよ。誰かに見られたら困るよ。」




「雨で誰も見てねぇよ。」




「なんで…ここにいるの?」




「さっき美優が泣きそうな顔してたから。」




巧が美優を自分の傘へ引き寄せる。




「…どうした?」




「…ち」




「何?」




「ヤキモチ焼いてた。」




「は?」




「さっき女優さんと相合傘…お似合いだなって…」




「あれはドラマの宣伝だよ。いろんな人みてたからわざとそうしただけ。」




「だけど不安なんだよ、これから…巧をどんどん好きになる自分が不安で仕方ないんだよ…」




美優は泣きながら巧に訴えた。




「…巧?」




巧は美優をギュッと抱きしめた。




「お前は俺のお気に入りなんだから。俺の側にいろ。」




「…うん。」




巧のいうとおり、雨で誰も見てなかった。




一人を除いて――




ヒロだけが傘を握り締めて遠くから二人を眺めていた。



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