第3話 スイートルーム

『俺がホテルに入ったあと、一時間後に来い。』




そういって男は先にホテルに行ってしまった。




「田舎でもこんなホテルあるんだ~」




男が宿泊しているホテルは田舎にはあわない豪華なホテルだった。




「一時間経ったかな…ヨシッ」




美優がホテルのエントランスに入った瞬間、ホテルの人間が近づいてきた。




「美優様でございますね?」




「え?あ、はい…」(どうして名前知ってるの?)




「日向様より伺っております。こちらです。」




「あ…はい。」(あの人日向って言うんだ。)




案内されるがままエレベーターに乗った。




男性は一番上のボタンを押す。




“チン…”




「では、素敵な時間をお過ごしください。」




「え?ちょっと部屋番号は…」




そういった瞬間エレベーターのドアがしまった。




「部屋は…って、え!?何これ!?」




目の前には長い廊下があり、部屋のドアは遠くにひとつだけ見えた。




「え?あそこ?」




美優は恐る恐るそのドアに近づいた。




「こんなところ初めてみる…」




美優はドアをノックした。




ドアをノックしても返事がなく、再度ノックしたが返事がなかった。




“カチャ…”




「すいません…日向さん?」




ドアを少し開け、声をかけるが返事がなかった。




ドアの隙間から見えた夜景がとてもきれいだった。




「すごい…」




美優は少しづつドアを開け、ゆっくりと部屋に入っていく。




キョロキョロとあたりを見渡すが日向の姿は見えなかった。




「宝石みたい…あ、こっちは海だ…」




一面がガラスになっていて180度景色が見渡せた。




この夜景を見てウットリとしない女子はいないだろう。




「オンナは夜景が本当好きだな。」




「ワッ!」




いつの間には日向は美優の背後に立って耳元でつぶやいた。




「びっくりさせないで!って何で裸なの!?」




「上半身だけだし…お前本当男の免疫ないのな~」




どうやらお風呂に入っていたようで下半身だけバスタオルを巻いていた。




「あ、キッチンもある!すごい!広いしきれい!」




部屋には大きなキッチンや冷蔵庫まであった。




“ぐぅぅぅ…”




美優のおなかの音がなった。




「まぁ…財布がなきゃご飯も食べれないわな。」




「…キッチン使ってもいい?」




「え…料理できんの?」




「うん、私小さいころから作っていたし料理好きだし。」




「でも冷蔵庫、何でもあるってわけじゃ…」




「これだけあれば大丈夫!あ、電子レンジまであるし!」




「じゃあ、どうぞ。」




美優は手際よく料理をし始める。




「…お前本当に料理得意なんだな。」




「え?うん、結構好きだよ。いつでも嫁にいけるぐらいかも。」




そういいながら自分でケラケラ笑う。




「男の免疫もないのに嫁って…」




日向はくすくすと笑った。




「笑いたければ笑えばいいじゃない。よし、できた!」




美優はオムライスを作った。




“グゥ…”




美優のオムライスのあまりにいい匂いに日向のお腹がなった。




「一口ちょうだい。」




「え!?」




「えって何だよ。今日泊めさせてやるんだからそれぐらいのお礼くれよ。」




「じゃあ…」




美優がお皿ごと日向に渡した。




「あ~ん…」




「え!?自分で食べなよ。」




「いいの?俺がスプーンもったら全部食べるよ。」




「はい…」




渋々と日向にオムライスを盛ったスプーンを口に近づける。




日向は目を閉じながらパクッと食べた。




「うんまい!」




目をキラキラさせながらいう日向は子供みたいだった。




「え?そ、そう?」




「お前料理うまいんだな。俺いつも外食だから舌は肥えているつもりだけど、本当うまい!」




「…もう一回作るから食べてもいいよ。」




「やった!」




そういってガツガツと勢いよく食べ始めた。




「ちょっと!ゆっくり!ひっかけるよ!」




今までの日向の態度や言動から、まさかそんな言葉が返ってくるなんて思ってなかったのでびっくりした。




美優は日向の近くに水をおき、またキッチンに立つ。




「他に食べたいのある?」




「え?」




「今冷蔵庫にあるものでしか作れないけど…泊めさせてもらうお礼に…」




「じゃあ、ハンバーグにエビフライに、グラタンにナポリタンに…」




「ちょっと待って!お肉とえびはないから!グラタンにナポリタンならいけるかな?」




「じゃあ、ここのシェフにお肉と海老わけてもらうか。」




そういって日向はフロントに電話しようとした。




「待って待って!そんなことしたらレストランの食材がたりなくなっちゃうかもしれないじゃん!明日!明日の朝スーパーにいって食材かってくるから、明日でもいい?」




「わかった。」




日向は受話器をおき、また再びご飯を食べ始めた。




「親にでも教えてもらったのか、料理。」




「…うん。両親レストランしていたから。」




「へぇ~食べに行きたいな。この味好みだな。」




「もう食べれないよ…両親亡くなったから。」




「え?」




「この間…交通事故で…私の誕生日プレゼント買いに行く途中で…ごめんッ…」




そういって美優は泣き出してしまった。




「もう子供じゃないのにッ…」




絶対また何か言われる




そう思っていた。








日向はキッチンに近づき、美優に話しかける。




「両親のこと好きだった?」




「…え?」




「親のこと好きだったのかって聞いてんの。」




「好きだったよ、大好きだったよ。あの二人みたいにお互いがお互いを思う素敵な夫婦にいつかなりたいって思うぐらいだったよ。」




「じゃあ泣いていいんじゃない?」




「え?」










「大切な人、愛している人を亡くしているのに、泣いちゃダメなんてことはない。大人だからなんて関係ない。」







両親の葬式のときもずっとシクシク泣いていた。




兄弟がいない美優にとっては、両親がなき今は頼れるのは親戚だった。




だけど親戚たちは、もう大人なんだから泣くのやめなさいと言ってきた。




もともと泣き虫だった美優は中々泣き止むことができず苦しかった。




だけど今は泣いてもいいって認めてくれる人が目の前にいる。




そのことで心の重みが少し軽くなった。




「え!?ちょッ…」




美優は嬉しさで日向に抱きついた。




「ウワァーーーン!お母さーん!お父さーん!」




そのまま美優は大きな声で両親のことを呼び続け、思いっきり泣いた。




日向に突き飛ばされるかと思ったが、意外にも胸を貸してくれた。




日向は何も言わずにずっと美優が泣き止むのを待ってくれた。







「………」




美優は泣き止み、今自分がどういう体勢でいるのかを分析していた。




(えっと…私から抱きついた…よね?どうやって離れればいい?)




「…あの、ありがとう。」




そういってゆっくりと日向から体を離した。




「お前さ…」




「え…」




何を言われるかドキドキした。




勝手に抱きつくんじゃねぇ!とか言われると思った。




「意外と胸あるんだな。」




「なッ…そんなこと考えてたの!」




ありがとうの言葉を撤回したいぐらい怒った。




「まぁ、美優には怒っている顔が一番似合うな。」




「え…」




初めて名前を呼ばれてドキッとした。




「…待って、普通笑っている顔じゃない?」




「俺の中では怒っているイメージ。」




「そうですか~」




ムスッとした表情をするとタコみてぇ~といいながら日向は笑い転げていた。




怒ったり、笑ったり、カッコいいこと言ったり…日向という男は謎だ。




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