第2話 怒鳴る男

「ヒック…ヒック…ヒックッ…」




“ザザァーン…”




夜の海の道路を一人で歩いて泣いている私は神田美優(かんだみゆう)、19歳。

19歳の誕生日に両親は交通事故で亡くなった。

今日は49日も終えたけど両親のことが信じられなくて、両親とよくきていた海に電車に乗ってやってきた。




「ヒック…ヒックッ…ウゥゥ…」




「…………おい。」




「ヒック…ヒックッ…」




「…おい!」




「…え?」




顔をあげると前のほうから男性の声がした。




暗いから顔までははっきり見えないが帽子を被り、手にはサーフボードのようなものを持っていた。




「あのさ…泣くのやめてくんない?」




「え?」




「俺が前を歩いていて、後ろで女が泣いていたら、俺が泣かしたみたいじゃん。」




「…ごめんなさい。」




「…」




男は無言のまま前を向き歩き出した。




「…………………ウゥ…」




我慢していたがやはり涙がとまらなかった。




美優の声を聞いた瞬間男がまた振り向いた。




「…ごめんなさい。」




「…はぁ。」




迷惑そうにため息をついて美優に近づいてきた。




「何で泣いてんの?とりあえず理由教えて。失恋?」




夜の海に女の子一人、失恋と思われても仕方がない。




「…バッグ落としちゃって。」




「バッグ?」




「お金が…電車できたから帰れないし泊まることもできないし…」




そう美優が話すといきなり男性は体を反った。




「え?何?」




「いや、たかりかな~と思って。変なのに声かけたなって。」




「違うよ!本当にバッグがないの!ホラッ…ホラッ!」




美優は身振り手振り何も持っていないことを示した。




「ハハ!わかったわかった!」




無愛想な男だと思ったらいきなり笑い出した。




「疑って悪かった。まぁよく考えたら子供がこんなことしないか。」




「子供って私19歳だけど…来年20歳だし!」




そういった瞬間強い風が吹いた。




「アッ…」




男性が被っていた帽子が飛んでいってしまった。




「あなた…」




「え!?」




「意外に若いじゃん!」




「意外って…いくつだと思ってたんだ?」




おそらく美優と変わらないぐらいの年齢だろう。




さらさらの髪の毛が風になびいて、CMにも出れそうなぐらい綺麗だった。





眉毛は整っているが、顔立ちは幼かった。




全体的に整っている顔だが、一つ疑問があった。




「その目…」




「これか?」




彼は左目がブルーだった。




電灯の照明があたって綺麗なブルーがより一層引き立った。




「海みたいに綺麗…ずっと見ておきたいぐらい…」




「は?変とか思わないわけ?だって右目は茶色なんだよ?」




「え?そうなの?そう思わないけど…」




「八ッ…こんな夜の海で一人フラフラ…バッグは落とすわ、目が綺麗だというわ…変わってるな、お前。」




「…お前じゃないし!美優って名前があるけど…




「さてと、泣き止んだならもう行くわ。」




「え!?」




「じゃあね~」




「ちょっと待って!」




「は?何?」




「これからどうすればいいの?」




「いやいや俺そんなの知らないよ。」




「そんな~せっかくこうやって声かけてくれたんだし、何かの縁ということで…」




「俺は泣いているのがウザイと思っただけ。俺は忙しいから別の人にあたって。」




そういってスタスタと男性は歩いていってしまった。




“ププッ…”




「そこの子、どうしたの?」




車に乗った若い男性が声を掛けてきた。




「あ…バッグ落としちゃって家にも帰れないし、泊まるところもなくて…」




「そうなの~大変だったね。俺んちくる?」




「え、でも…」




「大丈夫、大丈夫、何にもしないから。もう遅いから明日家に送っていってあげるよ。」




「じゃあ…」




美優が車に乗り込もうとした瞬間、後ろから気配を感じて振り向く。




「うわぁ!いたなら声かけてよ!」




さっきの男性が美優の後ろに立っていた。




「あれ?お友達?」




「不親切な人です。」




美優はプイッと顔を向け、車に乗り込もうとした。




その瞬間その男の腕をつかまれた。




「え?何?」




「…俺が先約なんで。」




「は?その子は俺のほうが先だっての。」




「…」




無言で運転手を睨む男性。




「なッ、なんだよコイツ…マジこえ!」




後ろから照らされブルーの瞳が余計光っていた。




「ちッ…何なんだよ。」




車の男は去っていった。




「ちょっと、あの人泊まらせてくれて明日送ってくれるっていってくれたのに!」




「お前馬鹿か?え何?ヤラレてもいいわけ?」




「何もしないって言ってたじゃない。」




「はぁ~何もしないで親切な男なんているわけないだろ。」




「そんな…」




19歳だが、ずっと親に守られて育ってきた美優は男の経験値なんてないに等しい。




「何で声かけちまったんだよ~はぁ…じゃあついてこい。ここ田舎だから終電もうないし。明日お金やるから。」




「…」




美優は男のことを白い目でみる。




「なんだよ、その白い目は。」




「私に何するつもり!?」




美優は胸の前で腕をクロスして自分の身を守る格好をする。




「はぁ?なんでさっきの野郎は疑わないで、俺のこと疑うんだよ。」




「だって最初は協力してくれなかったのに泊めるとかいうから…」




「…そうだな、カラダで払えカラダで。」




「やっぱり何かするつもりじゃない!他の人に頼むから結構です…ってどこ見てんのよ!」




男は美優の胸をジロジロ見ている。




「あ、大丈夫。俺巨乳にしか反応しないから。」




そういってスタスタ歩いていった。




「で、どうすんの?巨乳にしか興味がない俺についてくんの?それとも他の男にヤラレるの?」




「…つ、ついてく!」




「だったら黙って早く来い!」





(なんか怖いけど大丈夫かな~)






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る