もしもRPGの世界で魔法を使う毎に使用料を請求されたら。

暗闇坂九死郎

もしもRPGの世界で魔法を使う毎に使用料を請求されたら。

 ――ここは現実とは異なるRPGアールピージーゲームの世界。

 ――所謂いわゆる、剣と魔法の世界である。


 ただ一般的なRPG世界と少々異なるのは、魔法を使用する毎に使用料金を支払わなければならないということだ。


 ことの発端は五年前の、全ての魔法の生みの親である大魔導師・ゲバルト=シュセンドーによる呪文の著作権制度の導入だった。ゲバルトは魔法使用における呪文は知的財産として守られるべきであり、第三者が無許可に使用することを禁じた。

 その上で、魔法著作権協会(MAGIRACマジラック)を設立。誰でも自由に魔法を使うことができることと引き換えに、魔法を使う毎に魔法作者への使用料金が発生する仕組みを整えた。


 ……なになに?

 戦ってる最中に金勘定なんかできるかって?

 そんな方の為に、お得な月額制サービスもご用意しております。

 その名も、『マジ放題』。その名の通り、月額100万円で攻撃魔法も回復魔法も全部かけ放題となっております。


 ……なになに?

 月額100万円は高すぎるって?

 そんな方の為の料金プランも勿論ご用意しております。

 その名も、『マジライト』。月額3000円から使用できて、最大MPエムピー50まで使用することが可能となっております。


 ……なになに?

 馬鹿にするな?

 MP50は少なすぎるって?


 ♢ ♢ ♢


 勇者・テモト=フニョーイは貧困にあえいでいた。すべては高すぎる魔法使用料の所為である。週3で酒場でバイトしながら、道具や宿代すらケチりながら旅を続けていた。

 道中の敵モンスターは魔王城に近づくほど手強くなっていく。どんなに魔法を節約して戦っても、怪我を負えば回復魔法を使わないわけにもいかない。


「これじゃあ魔王との決戦の前に干上がっちまうぜ」


 魔法使い・プアー=スカンピンと戦士・セキヒン=ムイチモンも同様に頷く。


「全くだ。移動魔法を覚えて喜んでたら、初乗り1キロ420円て、気軽に使えるかそんなもん!!」


「バフがけはもっとエグいぞ。重ねがけするほどに料金も重ねがけって普通に詐欺だろあれ!!」


 口々に文句を言いながらも、勇者一行は遂に魔王のもとに辿り着く。


「ふははははー、吾輩こそが魔王・ゲバルト=シュセンドーである!! 勇者・テモト=フニョーイ、かかってくるがいい!!」


「「「魔王ってお前かよ!?」」」

 綺麗なユニゾンでツッコミを入れる勇者一行。


「吾輩が魔王として君臨する限り、お前たちは魔法使用料を毎月支払い続けねばならない」


「汚いぞゲバルト(金に)!!」


「ふはは、魔王が自らの利権を守ろうとして何が悪い?」


「畜生、こいつ開き直りやがった!!」


「……まあいい。こいつを倒せば全ての問題が解決する。前向きに考えるんだ」


 こうして決戦の火蓋ひぶたは切って落とされた。


 魔王・ゲバルトが装備している『魔王のローブ』は物理攻撃を全て無効化する効果を持っている。つまり、ゲバルトにダメージを与えるには魔法攻撃一択しかない。あくまでテモトたちに魔法使用料を支払わせたい考えのようだ。


 勇者対魔王の直接対決は、一進一退の攻防を繰り広げていた。

 しかし、魔法使用料を気にしながら戦わなければならないテモトたちがジリジリとゲバルトに押されていく。


「どうした? もう攻撃魔法は撃ってこんのか?」


 魔法使用料を支払う必要のないゲバルトは、余裕の表情で自らに回復魔法をかけている。


「……くそ、このままではジリ貧だ。せめて『マジライト』ではなく、『マジプレミア』を契約しておけば!!」


「いや、それじゃあどのみち奴の養分だ!! どうすれば魔王を倒せるんだ!?」


「次のターン、俺の最大魔法である『ライトニング・ランス』を奴に放つ」


 テモトのその発言に、プアーとセキヒンは驚いて顔を見合わせる。


「馬鹿な!? 『マジライト』プランであの究極魔法を使うだと!?」

「やめろテモト、自殺行為だ! 翌月の支払いが大変なことになるぞ!!」


「……ここで魔王を倒せなければ、どの道またバイトの日々だぞ。『ライトニング・ランス』があたりさえすれば、魔王とてただでは済まない筈なんだ!」


「ふははははー、さあ来い勇者・テモトよ!!」


「貫け、光の聖槍せいそう『ライトニング・ランス』!!」

 テモトが魔王に向かって手をかざす。


 ――そして。


「……あれ?」


 テモトが放った光のやりはスローモーションのようなゆっくりな速度で魔王に向かって飛んでいく。


「しまった!! 魔法速度制限だ!! 『マジライト』で究極魔法はやはり無理があったんだ!!」


「ははは、なんだその眠っちまいそうなノロい攻撃は? まさかそれがお前たちの切り札だったのか?」


「畜生、あたりさえすればッ……!!」


 結局、そのターンでは魔王に攻撃が届きすらしない。


「……遅い、遅すぎる」


「二人とも、ここは耐えるんだ。攻撃があたりさえすれば、必ず奴に大ダメージが入るんだ!!」


 その次のターンも、またその次のターンも、『ライトニング・ランス』は蝸牛のような歩みで、敵に届くことはない。

 その間も魔王・ゲバルトによる、炎や氷の魔法攻撃は続く。


「ぎゃあああああああッ!!」

「ぐああああああああああッ!!」


「耐えろ、耐えるんだ!!」


 ――そして迎える12ターン目。

 ――ようやく槍の先がゲバルトに届く。


「はいはい、そんな攻撃食らうわけないでしょ」


 ゲバルトは無駄に華麗なステップで『ライトニング・ランス』をひらりとかわした。


「…………くッ、万事休すか!?」


 しかし、そこで奇跡が起こる。

 避けられた筈の『ライトニング・ランス』がゲバルトに直撃していたのだ。


「馬鹿な!? 吾輩は確かにさっき攻撃を避けた筈だ!!」


「そうか! 俺の『ライトニング・ランス』は超低速!! たとえ避けられても、魔王が!!」


「……ぐぬぬ、なんて攻撃なんだ!」


 魔王・ゲバルトは回復魔法で自らの体力を回復させる。


 しかし、次のターンも『ライトニング・ランス』は魔王にヒット。その次も、またその次のターンもゲバルトに大ダメージが入る。毒状態のときのように、『ライトニング・ランス』は毎ターンゲバルトのHPをごっそり削っていく。

 ゲバルトが防戦一方になったところを畳み掛けるように、プアーとセキヒンが炎と風の魔法で追撃する。


 ――何時の間にか、形勢が逆転していた。


「ふざけるな!! いい加減にしろよ、このしみったれ共がああああー!!」


「……しみったれはテメーだよ、ゲバルト。テメーがこんなケチ臭い料金プランなんか用意するからこうなったんだ。自業自得さ。さっさとくたばれ!!」


「おのれえええッ!! ぐわああああああッ!!」


 ゲバルトは断末魔だんまつまの叫びを上げて、まばゆい閃光と共に消滅した。


「……やった。俺たち、遂に魔王を倒したんだ!!」

「もう毎月の魔法使用料の支払いを気にする必要もないんだ!!」

「バンザイ!!」


 勇者・テモト=フニョーイたちはお互いの肩を叩きあって、喜びを分かち合った。


 ――しかし、彼らはまだ知らない。魔法著作権が切れるのは、魔王・ゲバルトの没後五十年後であるということを。


【了】

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

もしもRPGの世界で魔法を使う毎に使用料を請求されたら。 暗闇坂九死郎 @kurayamizaka

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ