第39話 4か国同盟とトリアス王子。

 レムリア王国はレムリア共和国と名を変えて異世界初の民主主義国家となった。

 その代表が集うレムリア議会の初代議長にはジュルヌが選ばれて就任した。

 選ばれた理由は神の声を聞き、民衆の先頭に立って国の革命を成し遂げた英雄だからだ。

 神との会話は、その後も満月の晩になされている。俺の魔法とシルバラの声で、彼女の疑問や悩みにアドバイスを送っているのだ。


 そのおかげもあって、レムリア共和国は順調な発展を遂げている。



 誕生日が俺より二月早い、シルバラが15才の成人を迎えました。

 そして、ナルト王国がやらかしました。

 ナルト王が退位して、シルバラに王位を譲ったのです。

 いつまでも俺の許しが得られず、断交された状況に業を煮やし、禁じ手を出して来ました。

 前王が王位を譲った以上、シルバラの女王は確定なのです。拒否するのではなく、他の者に王位を譲るしかありません。

 

「ジル、どうしよう? 父上達は、ジルと私の結婚の前に面倒ごとを押し付けて来たわ。

 誰かに王位を譲るにしても、兄では国民の信認が得られないでしょうし、他に王家の血統を引く者がいないのよ。

 私は、いまさら、ナルト王国に戻るつもりはないわ。」



「うん、それじゃあ、ナルト王家を廃絶にしてナルト王国も共和国にしようか。」


「それいいわっ。娘の幸せを願うのではなく、国のために私を利用した父上に、天に代わってお仕置きよっ。」



 こうして俺達は、ナルト王国へと乗り込み、民衆に代表者を選出して王城に参集するように布告した。

 その代表者達と王国の貴族達が参集した場でナルト王家の廃絶を宣言すると、王城の貴族も民衆の代表達も、大パニックに陥った。


「そんなことのために王位を譲ったのではありませぬ。この国を治めていただくためにございます。できぬと言われるならば、王位をお戻しくだされ。」


「あら、異なことを言うのですねベクト宰相。バルカ帝国の襲撃を受けて滅びる寸前になり、自らの手で残党の始末もできす、此度はジルに断交されて、どうしよもなくなり、私に王位を渡した無能な王家ではありませんか。

 それに既に私が女王です。異議があるなら、牢獄で聞きましょう。」


「シルバラ様、我ら貴族はどうなるのでしょうか、王家がなくなれば誰が貴族を任命なさるのでしょうか。」


「あなた方貴族の処遇も、民衆の会議できまります。民衆の敬意を受けているなら、悪いようにはされないでしょう。」


 その言葉に、真っ青になっている貴族が多かったようだ。


「予め法令の案を用意してきたわ。これからの説明を聞いて良ければ承認しなさい。」


 その後もシルバラが懇切丁寧に法令を説明した。王族、貴族は廃し平民となる。これまでの国への貢献に対し一定の年金を支給する。

 そして、承認の裁決をする前に全体の討議が行われ幾つかの修正が行われた。

 行政を担う代官の補佐官に旧領主である貴族を採用することなど。


 驚いたことには、王家の廃絶に反対多数で、王家を政に関与しない国の象徴として残すことに決まったのだ。

 それは、シルバラにこの国を見捨てず、見守ってほしいとの民衆の想いであった。

 この国の在り方を民衆の代表に預けた以上、シルバラも俺も承諾するしかなかった。




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 その頃、バルカ帝国でも、帝国に戻った皇帝レヒトがグランシャリオ領で見て学んだことを実践し、民意を汲んで尊敬を集めていた。

 民の立場に立たぬ貴族がおれば、すぐさま、民の立場が理解させるべく、平民に落とした。


「陛下、具申申し上げたき議がありまする。」


「なにかな、申して見よ。」


「ははぁ、然らば。他でもありませぬ、民衆は政の何たるかを知らぬ者達ばかりであります。 

 これまで、この国を率いて治めて来たのは、我ら貴族の力があってこそです。

 それ故、民衆の代表達の議会で足りぬ考えを貴族の議会が改めるようにすべきかと具申致します。」


「民衆の代表達で足りぬ考えとは、何かな。

具体的に申せ。」


「それは、、その場になって見なければ分かりませぬが、従前からの伝統なり慣例がありますれば、貴族の知識が役立ちましょう。」


「いらぬ、そんなものは要らぬのだ。新しき国造りをするのに、旧態依然の考えを引きずってどうするのか。

 そんな具申しかできぬ貴族など必要ないわ。そなたの爵位を召し上げ、廃爵と致す。」



「陛下、意見を具申しただけで廃爵とは、横暴ではありませぬか。それでは我ら臣下は着いて行けませぬ。どうかお考え直しくだされ。」


「余に従わぬ者は臣下にあらず。ではないか。

 そうであろう宰相。余の国の民達のためにならずと認めたものは、余の命をとるか、自分の命を捨てるか、覚悟して真っ当な具申をせよ。

 宰相、その方も愚かな者達の肩を持ち、そちの命を掛けて、申しておるのか。」


「 • • • • • • 。」


 宰相はこの時思い知った。レヒト皇帝は貴族をまったく信用していないのだと。

 そして、自分もその一人なのだと。皇帝の意に反することを意図すれば、自分の未来はないと覚ったのである。


 確かに、皇帝に逆らうなら、謀反か暗殺するしかないだろう。しかし、その後はどうなる。

 民衆から敬愛されている皇帝を倒した者に、民衆が着いて来るはずがない。否、暴動が起きるだろう。そして、その敵意は貴族全体にまで及ぶことになるだろう。


 皇帝がなさろうとしていることを、妨げてはならぬ。全てがうまく行くはずがない。

 いずれ破綻が生じた時に、我らの出番が来るのだ。その時こそ。

 しかし、その出番を迎えることはなく、帝国における貴族の存在価値は、水に溶ける氷のように霧散して消えて行くのであった。




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 シルバラは、ジュルヌに神の声の正体を打ち明け、仲の良い友人となっている。

 その二人に加えて、レヒト皇帝と俺でお茶会を開いている。

 シルバラはアップルティを、ジュルヌはミルクティを、レヒト皇帝はココアを、俺はブラックの珈琲を飲んでいる。

 お茶菓子は、最近グランシャリオに開店したケーキ屋さんの菓子である。

 シルバラとジュルヌは、苺ショートやモンブラン、フルーツタルト、チョコレートケーキなどを躊躇なく次々と口にしているが、レヒト皇帝は、グランシャリオにいた時に口にした饅頭や羊羹が好みのようだ。

 ちなみに俺は秋の味覚の柿を賞味している。


 何気ない話題を口にしたりしているが、はっきり言ってこの四人は、4か国の最重要人物達なのである。

 互いの国の近況などを何気なく話し終えると交易や軍事の話しになった。


「ジル殿、そもそも軍隊など、無駄に金を喰うばかりの厄介者とは思いませぬか。

 必要なのは、民の安全を守り犯罪を取り締まる警備兵の組織だけだと思いますよ。」


「私もそう思いますが、もしもこの4か国以外の外国が脅威となって現れた時に備える必要があると思いますわ。」


「ジュルヌの言うことも正しいと思うわ。

 軍隊というものは、国の民を守るものだけど国の指導者の勝手に使われる権力にもなっていたわ。

 いっそのこと、4か国の軍隊としてしまえば守る国がはっきりしていいかもね。」


「そうだなぁ、4か国連合軍、国連軍だね。

 本部に4か国の指揮官達がいて、各国には、その指揮下の駐屯軍を置く。

 軍隊の維持費は4か国が均等に負担する。

 指揮権は一年毎に持ち回りかな。」


「ジル殿、それで行きましょう。きっとそれなら、2カ国分の軍隊くらいで十分です。」


「ジル君、トランス王国は素直に賛成するかしら。王国から軍隊を取り上げることになるわ。

 トランス王国の権威が失われるのよ。」


「大丈夫っ。もしトランス王国が力での支配を捨てないなら、その時はトランス王国からグランシャリオ領が独立し、各地の領地も糾合して民主主義のトランス国を作ると宣言してあるからね。

 トランス王も、王家は象徴として政を民衆の議会に任せる方針でいるよ。」



 そうして、まもなく4か国の連合軍組織が、結成される運びとなった。




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 その頃、嘗てナルト王国の王子であったトリアスは、バルカ帝国のとある村にいた。

 平凡な農民として、畑を耕し作物を育てる日々を送っていたのだ。

 その傍らには、妻のユリカと産まれたばかりの息子 シュウがいた。

 その日、帰宅すると笑顔で迎える妻と子に報告がてらに話し掛けた。


「ユリカ、ライ麦もトウキビも去年の倍の収穫になりそうだぞっ。」


「そうね、あなたが頑張ったもの。あらあら、シュウも父さまに抱いてほしいみたいよ。」


「だめだよ、泥だらけだから洗ってからだ。」


「そう言えば、昼間あなたにお客があったの。王城の人だったわ。畑に出ていると言ったら、明日改めて畑に行かれると言っていたわ。」、


「え、代官所からでなくて王城から? なんだろうな。」


 次の日、昼前にトリアスの畑に三人の皇帝からの遣いだという男達がやって来た。

 一人は貴族らしい老人、あとの二人は平民と見える中年と若者だ。


「トリアス殿にございますか。陛下の命で参りましたタウト子爵と申します。

 陛下は、トリアス殿が過去に帝国になされた貢献に対し多大な恩義を感じており、また貴族が裏切りを働いたことのお詫びとお礼をしたいと申しております。」


「ははっ、もう過ぎたことです。今は故国を追われてこの国に住まわせてもらっているだけで十分ですよ。皇帝陛下には、そのようにお伝えください。」


「そうは行きませぬ。ナルト国のシルバラ女王陛下からも、皇帝陛下にお会いくださるようにとの伝言がございます。」


「シルバラから? 何か分からないがお会いしよう。明日、家に迎えに来てくれ。」


「分かりました、明日、お迎えに上がります。 

 王城へは奥様とお子様もご同行ください。

 道中のお世話は、お任せください。」



 バルカ帝国の王城に着いたトリアス一家は、下にも置かぬ歓待を受け、たくさんの贈り物を手にした。

 そんなことより、レヒト皇帝から、4か国の同盟というか、連合化の話を聞き驚愕した。

 軍事同盟だけではない連合国軍の創設、そしてさらに、国連という通商、金融、衛生などの統合機関が創られると聞き、ジルとシルバラの想いを知った。


 二人は、争いのない国造りをするばかりか、各々の国の民達の公平で平等な暮らしの実現を図っているのだと。

 それは俺が、バルカ帝国を支援していた時の想いと同じだ。

 だがしかし、俺は国と国との理解や制度が整わないうちに、ただ争いの種を振り撒いてしまった。

 二人には済まぬことをした。そんな想いを懐いていると、皇帝から、爆弾発言が放たれた。


「トリアス殿。国連組織を創設するにあたり、ナルト国、レムリア共和国、トランス王国、そして我が国も、そなたを初代事務総長に推薦しているのだが、受けてくれないか。

 加えて伝えるが、ジル殿から罪滅ぼしをなさってくださいとのことでありますよ。」



 そう言ってニヤッと微笑むレヒト皇帝、傍らには、ちっとも驚いていない妻ユリカがいた。

 

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