第33話 貴族学園のとんでも『スパルタ教育』

 学園転入一日目にして、身分を振りかざす貴族の子弟に遭遇。加えて、それを容認する教師ばかりか校長以下の幹部達。

 見るに耐えないので、即日罷免して学園の改革に着手した。

 校長の後任には、四苦八苦して農業改革を、2年進めたアグリ農業大臣を起用し、農業大臣の後任は、マルチ次官の昇格で埋めた。

 貴族学園の校長は降格ではなく、陛下の命を受けた次世代貴族の教育なので、改革の苦労を肌で知るアグリ大臣が誰よりも適任なのだ。

 そして教頭は、クリスティーナ先生にお願いした。本人はオールドミスになる未来を恐れたのか、頑なに拒んだが、これまでの学園を知る三人の中から選ぶとした方針に他の二人の懇願を受けて、不承不承ながら承諾してくれた。


 教師陣は、北方スナビア三領の三家から一人ずつ農業技術と屋内農業、鉱物資源と鉱山開発

微生物研究の三教科を担当させた。

 あとは、王城から財務担当、公共事業担当、科学開発担当から、各々交代で週一日派遣。

 グランシャリオ領から、金属加工、木材加工農産物加工、商店経営の適任者を呼んだ。

 そして、基礎教養科目の数学、物理、地学にはグランシャリオの学校の卒業生を充てた。

 加えて、体育の講師にリズ母さま、倫理道徳の講師に俺が当たった。

 そのため、俺達一家は王都居住となった。


 生徒の情操教育だが、ドルク伯爵家のマコブと取巻き一人は、バルカ国の村へ留学とした。

 期間は未定。住民達に認められたと現地代官が認めるまでだ。

 その他、同級生の女生徒が野犬に吠えられているのを助けなかった生徒2名、下級生に掃除を押し付けた者達8名、授業中に教師に暴言を吐いた者若干名がバルカ帝国各地へ一人ずつ留学に出された。

 なお、その親の貴族は教育不行き届きで降爵又は領地半減の処分となった。

 文句を言った貴族もいたが、品行の悪い貴族を無くすために行っている処罰じゃ。いきなり廃爵の方が良いかと宰相殿に詰め寄られ、青くなっていたそうだ。




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 再開された学園の授業は次のようなものだ。


 母さまの体育は、毎回グランド5周してから縄跳び、走り幅跳び、跳び箱、槍投げ、鉄棒、

側転、宙返り、柔道、空手、合気道などを行なう。失敗するとその数だけグランド周回だ。

 なぜ、このような種目が授業になっているのか、いささか疑念があるが、生徒達には以外と好評なので、放置している。

 女生徒の中には、合気道の使い手が次々生まれているとかいないとか。女生徒を恐れる男子生徒が増えたとの風聞がある。


 数学の基礎の九九ができない者は、3日で暗記させた。一定の九九を覚えるまで帰宅させないのだ。そして授業ではそろばんを使わせた。 

 算盤が上達した者には、算盤を頭に浮かべる暗算をさせた。

 それに、図形の証明などの思考力を鍛えた。発想を鍛えるクイズなども出した。こちらは、文房具などの賞品を出し餌で釣った。


 科学開発、金属加工、木材加工、農産物加工などは、実技、工作、実験などの研修を行ない好きな物を作らせた。

 そして、展示会バザーを開催。貴族の父兄を呼び、商人一般客も入れ、展示品即売会を行った。もちろん、売上は本人の収入だ。


 商店経営は、薄利多売やサービスというものそれに複式簿記の授業を行なった。  

 この知識は、王城の財務、公共事業担当から是非卒業後は、官僚に来てほしいと言われて、生徒達の目の色が変わっていた。


 俺の授業後の試験は、あみだくじを模したYES • NO選択式で、10問を選択してたどり着くと、判定欄がスクラッチになっている。

 スクラッチをめくった回答には、①無能救いようがない。②誰からも好かれない。③最低と非難される。④周囲から無視される。⑤周囲から敬遠される。⑥人から恨まれる可能性がある。⑦他人から関心を持たれない。⑧イマイチ勇気不足。⑨優しさが不足。⑩まともな人間。

 などと出てくる。答えが⑩0点⑨-1点⑧-2点で、累計合計が-100点になると、グランド100周が待っている。

 毎回、俺の授業終了後には、変な悲鳴が聞こえると評判だ。


 えっ、授業の内容? それはもちろん、英国流レディファースト精神だよ。

 世界の平和はそこから始まる。家庭の秩序もそこで定まる。( 男はつらいよ、寅さん。)




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【 セルミナside 】


 良かったです、学園が再開されて。

 せっかくお友達ができて、楽しく話ができると喜んだのも束の間、たった一日で休校なんてありえないです。(プンプン)


 再開した学園の授業は、グランシャリオ領の学校と同じレベルで、頑張らないと成績が心配です。

 ただ、母さまの体育は、自信があります。

 ずっと前からやっているくノ一の修行と同じなんです。

 私が宙返りをすると皆んな驚いています。

 槍投げだって男の子にも負けません。鉄棒も大車輪はできませんが、逆上がりは得意です。


 徒手武術は、他にも古武道柔術もできます。

 女子には、合気道が一番向いていますね。

力のいらない関節技や気功術がありますから。

 そう言えば、私どもいたずらしようと後から近づいた男の子をとっさに投げちゃいました。

 幸い怪我はありませんでしたが、不穏な気配には、とっさに体が反応しちゃうので、危ないわよって言ったら、引かれました。

 そんなこんなで、『猫飛セルちゃん』て言うあだ名を付けられました。(可愛くありません)



「ねぇねぇ、セル。何を作ってるの?」


「それ小麦が発芽したの? 萌やしみたいね。

乾いちゃってるじゃないの。」


 乾燥した小麦萌やしをすり鉢で粉にします。

そして、もち米のお粥に加え一晩置きます。


「なんかのお料理? 美味そうじゃないわ。」


「うふふ。明後日のバザーで売るのよ。明日は皆んなも手伝ってね、たくさん作らなきゃ。」


 次の日、朝から一晩寝かせたお粥を煮詰め、アクを取りながら半減させて、それを布で濾過します。

 それをまた、ザクロのジュースを加えて火に掛け、掻き回して空気を含ませます。

 ザクロの濃いピンク色が掻き混ぜると、薄いきれいなピンク色に変わりねり飴ができます。


「さあ、これからが腕の見せどころよ。割り箸のような木の棒に巻き付けたねり飴を、好きなように成形するのよ。これ何に見える? 」


「わぁ〜猫よ。さすが猫飛セルちゃんねっ。」


「私も作るわ。うんしょ、うんしょ、どう?」


「うん、上手にできてるわ。豚さんねっ。」、


「きゃぁ~、違うって、イヌだから。」


「「ぎゃははっ、そんなの売れるかしら。」」



「うわぁ~、何だっ。動物細工かな。」


「さぁさぁ、いらっしゃい。動物細工のねり飴よ。お子様限定、ザクロ味だよ。」


 翌日のバザーで、ねり飴で作った100本の動物飴をテーブルの白布の上に並べました。

 小さいお子様限定、お一人様一本。値段は20元(円)。売れないと困るから安くしたけど、あっという間に完売しちゃいましたっ。


「きゃははっ、デイジーの豚飴も売れちゃったわ。あれがイヌだなんて思われてないわっ。」


「シアンの作った花の飴が一番早く売り切れたみたい。きれいだったものね。」


「グロリア、ありがとう。グロリアの鯛焼飴も人気あったじゃないっ。」


「酷いわシアン。鯛焼じゃないわ。魚よっ。」




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【 とある留学生side 】


 一方、留学生とは名ばかりの僻地に飛ばされた生徒達は、最悪の試練に会っていた。


「ほら小僧っ、さっさと拾わねぇか。急がねぇと日が暮れちまうぞっ。」


『うへぇ〜、くせぇ〜。ゴミ拾いはゴミ拾いでも、馬の糞ばかりじゃねぇか。

 仕方ねぇ。真面目にやらねぇと晩飯にあり付けねぇからな。えっさ、ほいっさ。』



「おい坊主、しっかり掻き回せぇ。こいつが畑の実りを豊かにすんだ。臭い匂いなんぞ、慣れちまえば気にならねぇ。」


『ぐはぁ、たまんないっ。畑の堆肥作りなんて貴族の息子の俺が、なんでやらなきゃならないんだよぉ〜。

 早く掻き混ぜて終わらせないと、いつまでもここから出られんし、頑張るしかないな。』



「ほれぇ〜、ちゃんと貝を見つけて潜りなっ。いっぱい見えてるだろが。」


『そう言われてもな、俺の身長より深く潜るとすげぇ水圧で、頭がキンキンするんだぜっ。

 なんで、海女さん達は平気なんだよ~。』


「ふんっ、そのうち空気抜きができるさ。

 それまで男の根性見せなっ。貝を10個採るまで、海から上がらせないよっ。」



【 とある劣等生side 】


『うへぇ、倫理道徳のテストで、ー100点になっちゃった。グランド100周なんて酷いよ。

 授業が終わってから日暮れまで走っても全然終わらない。何日続くんだろう。』

 貴族学園の校庭広場では、早朝から或いは、放課後にひたすら周回を繰り返す生徒の一団が珍しくない光景となった。

 走りながら、彼らが思い浮かべるのは、倫理道徳の次の試験で、マイナス点を減らすための回答を得る反省の思考であった。

『民のためを思えばいいんだよな、俺も平民になったつもりで考えりゃいいんだよな。

 でもジル大魔王の問題って、すげぇ引っかけ問題だからな。俺の人生観が崩壊するぜっ。』



『俺だけ鉄棒の逆上がりができない。それで居残りの補習授業だ。リズ先生とセルミナちゃんが見ている。

 今日で2週間、鉄棒の前に柔軟体操をして、腕立て伏せと腹筋運動をする。

 なんか昨日の終り頃には、もう少しで出来そうだった。よし、頑張るぞ。』 


「母さま、もう少しよね。痩せぎす君も体力ついて来たわ。」


「セルミナちゃん、あなた学園に入ってから、自由奔放になり過ぎみたいよ。男の子に勝手に痩せぎす君なんてあだ名を付けたり、可哀想じゃないの。」


「えっ、痩せぎす君は皆んなが呼んでるわ。

 本人に嫌かなって聞いたら、悪口じゃないからいいよって許可貰ったのよ。」


 おっ、惜しい。もう一回っ。頑張れ頑張れ。


「母さま、できたわ。できた。痩せぎす君っ、やったわねっ。明日、皆んなに見せてやりましょう。皆んな驚くわよっ。」


 以上、学園から中継でした。

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