第15話 ひっ付き虫の妹達と、地元巡礼。

 長期間不在にしたせいで、妹達の甘えん坊度が増している。四六時中、傍を離れないのだ。

 だから最近は俺がトット、シルバラがミウをおんぶして、俺達二人と、セルミナがしっかり手を繋なぎ、あちこちへと出掛けている。

 そんな様子を『ご領主様のご兄妹は仲がええなぁ』と町の人々が微笑ましく見守っている。

 護衛なんてなしだよ。領内は治安が良いし、各所に警備兵もいる。

 それに俺は魔法で戦える。シルバラも海賊以来、背中に小型のボウガンを隠し持っている。



 午前中には、今年できた稲が青々と育つ水田を見ながら、放流した鯉の稚魚が泳ぐのを眺めたり、田んぼのあぜ道に咲く、たんぽぽの花を摘んで、花輪の冠を作ったりして遊んだ。



 昼時に港へやって来たら、漁から帰った船が今年初のサンマが豊漁だったと、忙しく水揚げをしていた。漁も中型船になり、漁網も大きくなって、沖合での流し網漁が漁獲を上げているらしい。


 俺達を見かけた、漁師のおばちゃん達が昼食を作っていた。

『ほれっ、坊っちゃん達。初物の秋刀魚だよ。 

 大根おろしと一緒に食べると旨いよ。』と、ご馳走してくれた。

 サンマは、骨がうるさくなくて食べやすい。内臓の苦味も風味があって、俺の好きな魚だ。

 でも、ミウとトットは苦味がだめらしく顔をしかめて、ぺっぺっと吐き出している。

 口直しに、おばちゃん達から葡萄をもらって喜んでいる。葡萄も、近年採れ出した果物だ。


「おっ、キャプテン。来てたんですか。秋刀魚も獲れ始めましたが、今朝は沖の定置網に鮭が掛かりましたよ。

 これもキャプテンが新しい漁法を教えてくれたからですよ。姐御も、お元気そうで何よりです。鮭が獲れたら干し塩鮭を作ってお届けしますから、楽しみにしていてくださいね。」


 漁師の若者達は、ナルト王国の戦いで、海賊に扮した仲間なので、俺のことをキャプテンと呼ぶ。シルバラのことは、姐御呼びだ。

 妹達は、不思議そうな顔をしているが。



 港で漁の近況や製塩、魚介類の加工が上手くいっていると聞いて安心した後は、南部の草原地帯にある牧場に向う。

 道すがら、咲いている野花を母さまのお土産に採取したり、蝶々を追い掛けてみたり。

 トットとミウに合わせて、のんびり歩く。

 高く碧く澄んだ空は、もう秋の空だ。


 牧場に着くと、妹達は仔羊や仔牛に夢中だ。 

餌をやったり、もふもふを撫でまわしている。

 牧場には、俺が開発した乳酸菌や麹、チーズの白カビや青カビなどを培養するバイオ研究所がいつの間にかできていた。


 次々ともたらされる、俺からの情報と要望を集中して行う場所が必要だと、酪農に携わる者達から父さまに陳情がなされたからだ。

 酪農畜舎の一画にコンクリート造、三階建ての立派な研究所の建物が建っている。

 専任の研究者も20人余りいるらしい。


「坊っちゃん、青カビから抽出するペニシリンですが、抽出はできましたが使用する濃度を、野ねずみで実験しているところです。

 人に使うのは、野ねずみに異常が起きた10分の1以下にしようとは考えていますが。」


「うん、人に使用する時は、その百分の1から始めて、効き目を確かめた方がいいよ。

 効かなくてもともと。効き目が強すぎて病が重くなったら、意味がないからね。

 それに、病原菌も耐性ができるから、最初はできるだけ弱い効き目の濃度で使うんだ。」


 ペニシリンが完成すれば、敗血症や皮膚感染気管支炎、肺炎、ジフテリア、破傷風、梅毒や淋病など、この世界の不治の病の一掃に貢献できる。なんとか、完成させてほしい。

 この世界には、医師がいない。替わりに薬師がいる。いわゆる薬草知識がある漢方医だ。

 ペニシリンが完成したら、領内の薬師を集めて、適用する病と用法を周知しよう。 

 そして、トランス王国内とナルト王国にも、広めなくては。


 シルバラと妹達は、俺が皆と話している間にちゃっかり新作のレアチーズケーキや焼プリンをご馳走になって、ご機嫌になっていた。


「にいにい、新しいお菓子を食べたの。甘くておいちいの。」


「食べたのっ。チーズのおかちっ。」


 ミウとトットの口の周りには、証拠の食べかすがついているよ。いったい何個食べたんだ。




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 牧場から領主館へと続く道を帰ってくると、途中、町の商店街に出る。

 メインストリートの両側に、二階建てのアーケードが繋がっていて、一階には洋品店や食料品店、日用品店などがあるが、二階には喫茶店や各種飲食店が並んでいる。

 商店街の裏手には、農産物や水産物の市場や日用品、衣料品などの市場があり、個々の商店は、そこから個性に合せた仕入れをしている。


 俺達は、少しのウインドショッピングをしたあと、二階飲食店街にあるシルバラのお目当ての甘味処に入った。シルバラはここのアップルパイがお好きなのだ。

 トットとミウは、一つのフルーツパフェを、仲良く二人で食べている。

 別にケチったり食べ過ぎを制限した訳ではない。この店のフルーツパフェは、特製大盛りがウリで、一つで普通の二人前があるからだ。

 ちなみに、俺はアイスティを飲んでいる。



 館の北側には、各種工房が立ち並んでいる。

 プレハブパネルの工房はもちろん、一輪車やリヤカーの車両工房、各種用品工房などだ。

 コンクリート作業所や飛行船ドックは、俺の土魔法で巨大な地下がある建物だ。

 その奥には、煉瓦工房がある。そしてその隣には、一際巨大な高炉がある。

 半分地下に埋まっている耐火煉瓦とコンクリート製だが、鉄鉱石が見つかっていないので、まだ稼働していない。 

 この世界の剣や槍は鉄製だが、砂鉄から作られている。

 砂に混じる鉄粒を『鉄穴かんな流し』という方法で比重の違いを利用して流水で分離するのだ。

 そうして、砂鉄を粘土製の炉で木炭とフイゴを用いて比較的低温で溶かし、純度の高い鉄を作っている。

 だから鉄は、多大な手前と時間が掛かる貴重品なのだ。


 館の正門に着くと、すっかり疲れておんぶで寝てしまった二人と、へばっているセルミナを侍女達に引き継ぎ、高炉のある工房へと向う。

 製鉄の工房に向かったのは、回転させたヤスリで静電気を起こし、永久磁石を作らせていたからだ。

 そして出来た磁石を使い、砂浜で砂鉄の採取を行なわせている。


「皆んなっ、どうだい、上手く行った?」


「坊っちゃん、大成功ですよっ。手間を掛けずに砂鉄がガバガバ採れますっ。はははっ。」


「村の子らに、菓子を報酬にやらせたら、わんさか砂鉄が集まっておりますぞっ。」


「えっ、どんな菓子?」


「はははっ、駄菓子屋とケーキ屋の金券です。好きな菓子を選ばしております。」


「そりゃ、子供達が喜ぶね。まあ、磁石が成功して良かった。」


「だけど、坊っちゃん。この磁石は秘匿しなくていいんですか?たいへんな発明品ですよ。」


「うん、これで鉄の採取が増えて、鉄製品が豊富に出回れば、皆んなの生活に役立つからね。

 陛下に言って、武器ばかり作る貴族は反乱を企んでいると、討伐してもらうよ。

 それより、採れた砂鉄で農具や鍋をたくさん作ってね。

 子供達の報酬は、お菓子ばかりだと虫歯になるから、おもちゃ屋も加えてよ。」



 グランシャリオ領内の発展は、静かに順調に時々とんでもなく革命的に、進行中です。

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