第14話 漫画知識で描く、北国の暮らし。

 あれから3ヶ月、俺の開発指針を基に領主やいい年の大臣達も無我夢中で、駆けずり回っていた。 

 皆、俺の指針をヒントに、さらなる夢を膨らませて、新しい発見や工夫を自分のものにする喜びに、打ち震えるながら動いていたのだ。


「はははっ、また一つ問題が解決しましたぞ。川面に氷が張り、水車が回らぬと悩んでおりましたが、なんのことはない。氷の下は水が流れておるのです。

 水車のある場所だけを屋根壁で囲って、氷が張らぬようにすれば良いのですからな。」


「大臣、灌漑溝も板で蓋をすれば、冬も凍らずに水が流れます。これで冬場の飲み水や畜舎の飲料水の問題も解決ですっ。」


 どうやら、各自で創意工夫や改善をする喜びを覚えてくれたようです。



 新品種の野菜栽培は、先ず、新たに開拓した畑に大豆、小豆、えんどう豆などを植えた。

 豆の収穫後は、枝や茎が薪の替わりの燃料になるし、豆を植えることで土壌の改良にもなるのだ。

 そしてその畑には、来春に、試されていない各種野菜を栽培する。

 ただの荒地だった場所には、断熱パネル構造で建てた茸舎や、萌やし、カイワレ大根、山椒などを栽培する屋内栽培施設が建ち並んだ。 


 暖炉で沸かした蒸気を、煉瓦の床の層に循環させる床暖房。これで冬季間も農業ができる。

 個々の家々も断熱パネル構造の壁や天井に、鋭意改築中だ。居間を床暖房にしてもいる。


「大臣っ、煉瓦作りの工房を先に造ったのは、このためだったのですね。

 驚きましたね、この床暖房というものは部屋全体が暖まり、熱が無駄にならないですよ。」


「うむ、逆に暑い南方地域で部屋に水を流せば、部屋を冷やすことができるかも知れぬ。」


「おっ、大臣。それは名案ですぞっ。」

 


 また、山中で露天掘りのできる石炭が見つかって、運搬のために青銅の一本線路の手押し式のトロッコを作って大量輸送に成功している。

 トロコ鉱業大臣は、トロッコ開発の栄誉に、自分の名が冠されたと感激の涙を流していた。

 この結果、冬期間の燃料の薪は飛躍的に不要となり、森林の乱伐を防ぐことにもなった。



 山麓では見込みどおり、石灰岩が多数見つかり、コンクリートの材料には事欠かないことがわかったが、暖房燃料の石炭が優先なので、来年以降トロッコを設置し掘削することにした。

 また、川の上流では砂金が発見され、金鉱がどこかにあることが判明したが、これも、次年以降に調査することになった。

 もし、各種鉱山が発見されたら、全て争いにならぬよう、スナビアの三領の共有鉱山とすることにした。この地域の楽しみな未来財産だ。



 ホルム騎士爵領の牛と羊の牧畜が、一番順調に進んでいる。早くも、バターやヨーグルト、チーズなどの乳酸加工品が作られているのだ。

 ショウバ商業大臣は、チーズの製法や種類の多さに驚いてた。


「最初この白カビのカマンベールを見た時は、とても喰う気がせなんだのだが、食べ慣れると今では一番好きなチーズですわい。甘いワインに素晴らしく合いますぞっ。」


「大臣、チーズも驚きですが、この発酵バターというのは、今までにないコクのあるバターですよっ。料理が一段と旨くなりますっ。」



 乳製品の発酵に付随して、黒くて固いライ麦パンだったが、グランシャリオ領からもたらされたイースト菌と塩、そして発酵バターにより画期的に柔らかい美味しいパンへと変わった。

 加えて、シルバラが料理教室を開き、クルミパンやジャムやクリームパンなどの菓子パンやライ麦粉で作る各種ピザなどを広めた。


「シルバラ様、チーズを変えるだけで、ピザの味が別ものになりますね。それに楓のメープルシロップや山椒で、極上のピザになります。」


「そうね、ピザは載せる具材で無限のメニューができるわ。ピザ生地も厚さや固さを変えて、各々の家庭のピザが生まれるといいわね。」


「ええ、ホルム騎士爵領のチーズと共に、誇れる名産品になりますわっ。

 私の家の食事は最近毎日ピザですの。でも、朝は炒り卵とベーコンなどのピザで、昼食にはいろんなジャムや楓のメープルシロップなどのおやつピザ。夜はミートソースやいろんな味の焼肉ピザや野菜サラダのピザで、家族の皆んな飽きることなく食べていますわ。」


 俺も収穫したばかりの蕎麦粉で、蕎麦打ちを教えたんだ。でも、子供で力がないから足で踏んだんだけど、それが蕎麦打ちのスタンダードになってしまったのは、どうなのだろうか。


 他にも、収穫したばかりの大豆で、麹を使った発酵食品の味噌と醤油作りも始めさせた。

 豆腐と油揚げも作ったら、さすが天才魔法児だと言われたよ。魔法に関係ないんだけどね。  



 そうそう、家々の明かり取りの窓には、石英を溶かし固めて、半透明だけどガラスブロックを作ったよ。それから、同じく石英のランプ。 

 燃料の油は、肉牛の腸の脂肪などを使った。



 オダイチ交通大臣だけ、どうしても飛行船を作りたいからと王都に帰ってしまった。

 王都にグランシャリオ領から飛行船を作った職人を呼び、大型飛行船の製作に着手しているようだ。陛下と戦争兵器に使わない約束をして許可したんだよ。

 大量輸送にはならないけど、国内の遠方との画期的な交通連絡手段となるし、焙烙玉や火炎瓶の製法を秘しておけば、悪用は避けられると思う。


 そんなこんなで、開発の方向性とある程度の目途がついたので、俺達は3ヶ月程の滞在で、スナビア地域を後にして帰郷した。


 


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 飛行船でグランシャリオ領に帰って来ると、待ちわびていた妹達が抱きついて来た。


「父さま、母さまっ。只今帰りました。」


「「兄にい(にいちゃ)、抱っこ抱っこっ。」」


「おう、二人ともたいへんだったな。お疲れさんっ。しばらくはゆっくりと休むがいい。」


「うふふ。なんか二人とも、ますます仲良くなって、もう既に夫婦らしくなってきたわね。」


「母さまっ。からかうのは止めてください。

 シルバラが赤くなってるじゃないですか。」


「あら、子供をからかうのは母親の楽しみよ。

 それに、妹達もあなた達の土産話を楽しみにしているわ。たっぷり聞かせてねっ。」


 夕食のメニューは、お土産に持ち帰った各種チーズの料理だった。

 久しぶりのシルバラの故郷の米のドリアや、グラタン、チーズの春巻きやチーズフォンデュなど、チーズ料理のオンパレードだった。

 セルミナは、グラタンが気に入ったようで、おかわりして食べてる。

 トットはチーズフォンデュのポテトフライが美味しいとそればかり食べて、野菜も食べなさいと母さまに叱られている。


 ミウは、猫舌なのか『ふうふう』ばかりしてちっとも食べれないでいる。見かねたシルバラが『ふうふうしてあ〜ん』と、ミウに食べさせていた。ミウはシルバラに甘えて嬉しそうだ。

 それを、微笑ましそうに見ていた両親だが、母さまが父さまの口に『あ〜ん』をしたから、恥ずかしそうな父さまを見て、子供達皆んなで笑い転げた。


 余談だが、チーズ三昧を調理した料理長は、新たな料理メニューに大興奮だった。

 これまでの味噌と醤油の料理に加えて、さらなるメニューの広がりに、頭を抱え込んでもいたが。

 う〜ん、年々、料理長の頭が薄くなっている気がするけど、俺のせいじゃないよね。

 こん後も、ナルト王国の米で日本酒と味醂を造るつもりなんだけど、そのせいで料理長の頭が禿げちゃったりしないよね。

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