第4話 妹天使の誕生と、亡国寸前の王女。

 5才になりました。天使かキューピットかと思われる愛らしい妹が誕生しました。

 去年、妊娠がわかってから自重を強いられ、父さまや俺から過保護にされ少々不満気にしていた母さまでしたが、無事出産を終えて待望の女の娘が生まれたので、とても嬉しそうです。

 なにせ母さまは、子を着飾らせるのが趣味で男の子の俺に派手な洋服やスカートまで履かせて着せ替え人形にしていたのです。

 そんな俺の苦難の日々も終わるかと思うと、ほっとしている俺です。


 もちろん俺もやらかしました。生まれて妹だと分かると、用意していた哺乳瓶などの器具とは別に、母さまの部屋を妹用にメルヘンチックに改装したのです。

 部屋の壁のデザインは、ディズニー柄。森の木々や花々とともに、くまのプーさんやリスのチップ&デールがいたりします。

 メルヘンチックや着替え大好きな母さまは、大喜びしてくれましたが、侍女や館の皆んなはその派手さに驚愕しドン引きしたみたいです。

 妹の名は『ミウ』と名付けられました。

 グランシャリオ領の東は湾になった海です。その『うみ』の逆読みが『ミウ』なのです。


 嘘ですっ。ほんとの名前は、ミュウレット•グランシャリオ。父さまと母さまの想い出の名だとか。グランシャリオ家の謎です。




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 そんなある日の午後、浜の漁師達から急報がもたらされました。沖に見たことがない外国船が現れたそうです。

 父さまと俺は、騎士達を引き連れて、大急ぎで浜へ駆けつけました。


 浜へ着いて見ると、沖合にいたという一隻の大型帆船が入江に入って来たところでした。

 浜の古老達に聞くと、近づく帆船が掲げている国旗は、隣国の島国『ナルト王国』のもののようです。

 やがて湾内の中央に来た帆船からは、一隻のボートが降ろされ、こちらに向って来ました。

 ボートから降り立った数人の男達が父さまの下に来て話し掛けて来ました。


「こちらの領地を差配されている御仁とお見受け致します。我らはこの国からほど近い『ナルト王国』の王族に従う者達にございます。

 仔細あって、国を出て、行く宛もなく海上を半月も漂っておりました。既に船には食料だけでなく、飲み水もなく困窮しております。

 何とぞこの窮状をお助けください。」


「なんとっ、それはさぞかし難儀なことでしょう。俺はこの地を治めるアルファロメロ・グランシャリオ騎士爵です。

 貴殿達の扱いは、事情を伺った上で王城へ伺いを立てねば返答できませぬが、取り敢えず上陸してお休みくだされ。

 誰かっ、急ぎ飲み水を用意致せ。それと湊に屋台を集めよ。船の皆様は腹を空かせておられる。」


「父さま、漁師の舟でお迎えした方が良いのではありませんか。数隻のボートでは船の方々がなかなか上陸できません。」


「うむ、村長、漁師達に頼めるか。」


「へいっ、海の上では船乗りは助け合うのが掟でございます。すぐに漁師達に行かせます。」


 こうして、十数隻の漁船で迎えに出て、襲われるのではないかと驚かれはしたが、飲み水を差し出して我らに害意はないことが分かると、次々と皆で上陸してきた。

 その数は、女子供、老人を含め、800人余りだった。浜の井戸で喉の渇きを癒し、うどんやパスタの屋台で空腹を満たした一行を馬車に載せて、領主館の別館や仮設テントを建てて収容した。とても村の宿には入り切らなかったのだ。

『ナルト王国』の一団を率いていたのは、未だ幼いシルバラ王女とそれを補佐するオリバー騎士団長だった。

 シルバラ王女とオリバー騎士団長達近臣を館に案内し、お茶を飲みながら国を出た事情を聞いた。 


「先々月のことにございますが、突然に我が国に攻め寄せる軍勢が現れ、それに呼応する貴族達がおって、瞬く間にナルト王国全土に戦火が広がったのでございます。

 王城に籠城したナルト王は、二人の王位継承者である兄のトリアス王子殿下とシルバラ王女殿下を別々に逃がす手配をされ、各々を東西に船出させたのでございます。」


「なるほど、そんなご事情でしたか。ご安心ください。他国を侵略するなどの非道は許されぬこと。我らは皆様方を客人として迎え、お世話をさせていただきますぞ。

 またこのことは、すぐに王城へ伝えます。」


 そんで、おない年だからという理由で、シルバラ王女のお世話係は、俺に押し付けられた。

 理不尽不合理この上ないと抵抗したのだが、『女の娘を守るのが男の子の役目ですっ。』との母さまの一言で、決着が着いてしまった。



 シルバラ王女は、物静かで口数の少ない少女だった。なかなか笑顔を見せず、どこか悲しみをたたえている。きっと王国の行く末を案じているのだろう。


 俺はそんな王女の嗜好を探るべく、花畑や牧場、川辺や森へと連れ出した。食べ物もサンドイッチや菓子パン、果物、飴や菓子などいろいろ食べさせて試したが、わずかに微笑むだけで悲しそうにする。

 そしてわかった。この少女は心底優しいのだ。自分だけ幸せになることを良しとしない。

 周りの全ての人の幸福を願っているのだと。


 一月程して、王城から指示が来た。ナルト王国の王女様達を保護するようにと。

 だが、民の通商程度しか繋がりのないナルト王国には、正式な同盟もなく援軍を出すことはできないとの回答だった。

 その答えを聞いて俺は決意した。ならば、俺だけでもシルバラ王女に加勢するのだと。

 

「父さま、俺は海賊になります。海賊になってナルト王国に攻め寄せた国の船を沈めて回ります。このままでは、このグランシャリオ領だって攻め寄せられるかも知れません。

 先手必勝ですっ。」


「そんなっ。船はどうするのだ。兵士だっているのか。」


「船はシルバラ王女様の船を改造します。兵は王女様の兵と漁師の若者達を募ります。

 俺の魔法もあるし、船に積む武器も考えています。絶対に負けません。」


 それから俺は、まず王女の船の後部にレンガの窯を取り付け、その上に青銅の大釜を載せ、青銅管を延ばして、船の後部下へと配した。

 窯で炊いた蒸気を直接排出して推進力とするいわゆる『ポンポン船』だ。

 それから武器は、船を左右に10台の投石機を据付けて焙烙玉と火炎瓶を備えた。

 畜産を始めてから、牛糞と干し草と土畜舎の床下の穴へ交互に入れ塩硝土を作っていた。

 試しに発酵抽出したら硝酸塩が取り出せた。


 むふふっ、どちらも漫画の知識だがうまくいった。あと弓よりも熟練がいらないボウガンを兵士達に持たせる。

 連射の効かない欠点は、一人の兵士に3本のボウガンを持たせて補完すればいい。

 これで、たった一隻の船でも、ずっと優位に戦えるだろう。


 よし、やってやる。『海賊王に俺はなる。』

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