Efteråt 小学四年生になる元幼女

「パパ」


 直らん。

 今年小学四年生になる妹、なのだが。


「お兄さんだ」

「変だよ」

「変じゃない」


 何がおかしいのか知らないが、咲奈は俺の隣で肩を上下させながら、口を押さえている。目が笑ってるんだから誤魔化せていないぞ。

 あの頃からすると背も伸びて、すっかりマセてきている。いや、昔からマセていたな。何かと俺の股間に執着していたし。


「パパ、乃愛ちゃんと一緒にお風呂入らないの?」


 くっそ。咲奈まで面白がりやがって。未だに乃愛と一緒に風呂に入ることが多い。まさにパパを地で行っている。普通は嫌がるお年頃じゃないのか?

 なのに、母さんも咲奈も意に介さず、乃愛は相変わらず俺と一緒を望む。


「一緒に入っても、如何わしいことは禁止だからね」

「してないぞ」

「そこは信頼してるけど、でもね」


 乃愛は相変わらず股間に手を伸ばしてくる。なぜそこまで俺の股間に執着するのか、以前聞いたことがある。


「おもしろいよ」


 どう返せばいいのか分からんかった。

 面白がるようなものではない。咲奈にはせっせと使いはしたが。乃愛は妹だ。血の繋がりは無くてもな。すでに養女として迎え入れて、五年経過している。こっちは大学も卒業し就職して社会人になってるんだぞ。

 なのに、乃愛はアホなままだ。


「諦めて握らせたらいいじゃないの」


 母さんもまたアホすぎて言葉も無い。小学生に握らせる変態、ロリコンの烙印を自ら押す気は無い。

 こんな調子の我が家だが、それでも少しは大人びてきたようで、外に出るとべたべたすることは減った。

 人前では恥ずかしいと少しは認識したんだろう。学校の友人と比較してのこともありそうだ。兄にべったりの妹なんて、早々居ないのだろうからな。

 家の中では咲奈より接触している時間が長い。咲奈とは夜に繋がることはあるが。


「なあ、そろそろ重いんだが」

「パパ、女性に重いとか、禁句だよ」


 誰が女性だ。まだまだ小便臭いガキじゃねえか。女と言いたいなら、せめて咲奈と同じ年になってから、なんて言えないけどな。

 あどけないのは相変わらずだし、可愛らしさは充分にある。そこは少女だからだ。

 俺の膝の上で寛ぐ困った妹が居る。

 マジで重いんだよ。四歳児と小学四年生が同じ体重のわけがない。三十キロだぞ、四歳児の頃の倍なんだよ。重くて足がしびれてくる。

 あげく、乃愛が居ない時に真似して、咲奈が俺の膝の上に座ろうとする。


「重過ぎるから勘弁してくれ」

「あ、それ禁句だよ」

「事実を言ったまでだ」

「デリカシー無いよ」


 知るか。重いものを重いと言わずして何と言う。

 咲奈がやると乃愛も負けてはいない。

 ソファのクッション性は無くなりつつある。重量オーバーだっての。


「ソファがな、辛いんだとさ」

「ソファはそんなこと言わないよ」


 口も達者になってきてる。

 身長。伸びるとな、俺の顔の前に乃愛の後頭部が来る。この前、俺の鼻を直撃してるんだよ。振り向こうとして頭を後ろに下げやがった。幸い、鼻血を出すには至らなかったが、直撃したせいで暫く涙が止まらなかった。鼻がつーんって感じで痛むし。


「パパ」

「じゃない」

「お休みの日に遊びに連れて行って欲しいの」

「どこだ?」


 どこでも、と言うわけにはいかないらしい。学校の同級生が「ネズミの国で一日遊んだ」とか自慢されると、対抗したくなるらしい。


「ホテルも泊まったんだって」

「そうか」

「パパ、そうか、じゃないんだよ」


 パパじゃねえ。

 ああ、そうか。


「お兄ちゃんと呼んだら、連れて行ってもいいぞ」


 勝った。

 暫し悩む乃愛が居る。

 だが。


「パパはパパだよ」


 違う。


「連れて行かないぞ」

「お姉ちゃん! パパがいじめる」

「蒼太ちゃん。妹いじめないの」

「蒼太。呼び方に拘っても仕方ないでしょ」


 女性陣が結託しやがる。あげく咲奈は「ちゃん」付けしてくるし。社会人になって「蒼太ちゃん」は無いだろ。まあ、その辺は冗談も込みだろうけど。

 それにしても咲奈のことは、ちゃんとお姉ちゃんと呼ぶ。俺はパパだ。今も。


 後日、乃愛と咲奈の三人で行くことになった。

 休日は仕事の疲れを癒すべく、家でごろごろの目論見は崩れ去ってる。

 乃愛と手を繋ぐのだが、以前と違うのは背が伸びたことで、捕獲された宇宙人の如き状態と異なるってことだ。

 今は百三十五センチはある。手の位置も自然な感じに。

 笑顔で歩く乃愛と、空いてる片手を見て繋ぎたそうな咲奈が居るが、無いからな。両手に花とか思わんし。


 三人で移動する時は、乃愛も思いっきり甘えてくる。ふたりの時は恥じらいでもあるのか知らんが。


 ネズミの国ではしゃぎまわると、夕方にはすっかりお疲れモードだ。俺も疲労困憊状態なのだが、ひとり元気な存在が居てだな。


「蒼太君。もう少し居ようよ」

「休みたい」

「パパ。電気行進も見るんだよ」


 暗くなればなったで、妙なパレードがあるし。どんだけ疲労させれば気が済むんだよ。乃愛もいつの間にか復活してるし。俺は精魂尽きてるんだよ。

 だが、俺の疲労度合いは考慮されず、夜のパレードも付き合わされた。

 ピカピカ、まともに見ると目が疲れる。よそ見をしていると「勿体無いからちゃんと見ようよ」じゃねえっての。


 パレードが終わると、やっとホテルに向かえる。もう歩くのもしゃべるのも嫌だ。

 ホテルに着くと、やっぱりはしゃぐ乃愛が居て、今度はふたりで来ようね、とか言う咲奈が居て。まあ咲奈とふたりで来るのはいい。しっぽり楽しめそうだし。家だとな、やっぱ遠慮する面もある。


 風呂に入って寝よう、となると、やっぱり連れ込まれる俺だ。


「パパ、一緒」

「ひとりで」

「一緒じゃないとダメなんだよ」


 くっそ。たまには気兼ねすることなく、のんびり湯船に浸からせてくれ。毎回、乃愛との攻防を繰り返すと、さすがに根負けしそうになるんだよ。

 自宅よりは広めの風呂場で、三人同時に入ると、最早乱交パーティーの如しだ。暴れまくる乃愛を宥め、咲奈のでかいブツに抗い、湯船に沈む俺だった。


「乃愛ちゃん。背中流してあげるね」

「うん! あ、パパも流してあげる」

「俺は要らん」

「ふたりで流してあげようね」


 だから要らんっての。

 無駄な抵抗を試みるも、無駄なんだから無駄なんだよ。しっかり背中を流されて「ちん……前もー!」とか言う乃愛をかわす。

 笑ってんじゃねえっての。咲奈は呆れつつも笑ってるだけだし。

 だが、以前のように「ちんち」などと、口にすることは減った。少しは羞恥心が芽生えたのかもしれん。成長したな、乃愛。体は相変わらず凹凸が無いけどな。

 お陰で乃愛に欲情することも無い。咲奈はまずい。凹凸が激しいからな。


 風呂から上がると髪を乾かしたり、パジャマを着て寛ぐのだが。


「乗るな」

「指定席だよ」

「違う」

「次あたしね」


 ねえんだよ。重量オーバーだと自覚して欲しい。咲奈の体重は明かされないが、間違いなく五十キロはオーバーしてるだろ。胸だけでひとつ二キロはありそうだし。

 乃愛は、まあ平らだしな。純粋に身長が伸びた分だけ、重量が増したってことだ。


 寛ぎタイムが終了し、やっと体を休めることができる。

 だが、早朝、叩き起こされた。


「パパ! 起きるんだよ」

「お寝坊さんだね」


 俺にダイブして来る乃愛が居て思わず声が漏れる。死んだらどうする気だ。圧殺ってのもあるんだぞ。


 二日目はネズミ海で遊び倒すふたりが居て、どこにそんな元気があるのやら。

 極限まで高まった疲労。歩くのも嫌だ。

 幸い翌日は学校もあるし仕事もある。閉園時間前に退散した。


「もっと遊びたかった」

「パパ、また来るんだよね?」


 もう来たくない。疲れすぎる。

 遊びたければふたりで、好きな時に遊び倒せばいい。俺は二度と御免被る。


 けどな、意思表示ってのはしっかりしないと意味が無い。

 結局、夏休み中にも連れ出された。


 胸が異様にでかい女児と、扁平な小さい女児。お守をするのも大変なんだよ。

 とは言え、こんな時間も悪くは無いんだろう。付き合って行けるんだからな。


      ―― Finis ――


 後日談はこれで終わりです。

 かなり間が開きましたが、お付き合い頂いた方には感謝を。

 ありがとうございました。

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幼女を預かり面倒見るのがなぜ俺なのか。俺をパパと呼ぶんじゃねえ 鎔ゆう @Birman

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