Sid.17 幼女と距離を縮める彼女

 数日後、家裁への申し立てを済ませたようだ。

 あとは審判により沙汰が下るのを待つだけ。内容次第では質問されることもあるかも、とは言ってたけど。

 どうであれ調査官が来て、不明な点は解消していくんだろう。


「すんなり通ればいいけどな」

「こればっかりはねえ」


 そんなことを話す父さんと母さんだけど、俺としても決まらないと、不安感ばかりが増す。もし乃愛と離れるしかなくなったら。そう考えるとなあ。

 乃愛も俺と離れたら悲しいだろうし。そうでも無かったとかだと、ショックが大きいけどな。


 土曜日になると菅沢がまたうちに来た。


「話し進んだの?」

「家裁に申し立てした」

「じゃあ結果待ち?」

「そうなるな」


 じゃあ、気分転換で外に出ないかと言ってる。


「乃愛は?」

「乃愛ちゃんが遊べる場所とか」

「公園?」

「じゃなくて、子ども向けの室内型遊園地」


 そう言えば駅前のホームセンターに、そんな感じのがあったかも。


「あれか? ホームセンターに入ってる奴」

「そう、それ。安全に遊べるし」

「金掛かるだろ」

「それは、横倉君のお母さんに」


 自分の分くらいは出すそうだ。それ以外は当然、うちで出すわけだけど。

 母さんに聞いてみると「好きなだけ遊んで来ればいいでしょ」だそうだ。金なら飯代なんかも含めて全額出すからと。


「デートも兼ねて遊んで来ればいいでしょ」

「いや、デートする場所じゃないと思う」


 金を渡されて「さっさと行きなさい」と追い出された。

 乃愛が迷子や事故に遭わないよう、しっかり手を繋いで歩く。

 隣を歩きながら、それを見ている菅沢だけど。


「なんだ?」

「羨ましいなあって」

「手か?」

「うん。あ、でも、子ども優先だから」


 幼い子にはこれでもかと注意が必要、とは理解してるそうだ。手を離すとどこに行くか分からないから。

 駅前まで凡そ二十分。この近隣では最も大きな公園のわき道を進む。車の通りも少なく歩きやすいからな。ついでに散歩コースにも向いてるし。


「受験勉強とか進んでる?」


 いきなり聞かれてもな。状況に変化が無いんだから、受験勉強なんてさっぱりだ。


「ぜんぜん」

「乃愛ちゃん居ると難しい?」

「世話自体は慣れた。けどな、今は」

「あ、そうだね。養子」


 片が付かないと落ち着けないんだよ。一緒に住むことができるとなれば、受験勉強にも力を入れられる、とは思うけどな。乃愛の相手はある程度、母さんに任せればいいし。


「そっちは順調なんだろ?」

「それなりに、かな」

「なんでそれなりなんだよ」

「だって、横倉君と」


 またしても顔を真っ赤にしながら、小さな声で「覚悟してたのに、なんか流れてばっかり」とか、相当期待してたのか? エロいんだな、菅沢。

 こんな状況じゃなきゃ、俺もさっさと手を出したんだろう。でも、今は乃愛のことで頭がいっぱいだしな。優先順位が二番目三番目だからなあ。


「菅沢ってまだ経験無いのか」

「初めてが横倉君になる予定なんだけど」

「そうか。あ、そうだ」

「なに?」


 エロそうだから、こんな質問も大丈夫かもしれん。母さんは適当に誤魔化してるし、普通の幼女が股間に興味を示すのか。


「あのさ、エロいこと抜きにして、どうしても気になることがあるんだが」

「エロいって……。気になることって、あたしで答えられることなの?」

「まあ、女子にしか答えられないと思う」

「そうなんだ。どんなこと?」


 よしよし、何とか聞けそうな感じだ。


「乃愛なんだけど」

「乃愛ちゃん? 女子にしか聞けないこと。もしかして」


 なんか気まずそうな感じだけど。


「まだでしょ。それに、そう言うことって、お母さんが見るんじゃないの?」

「え? いや、なんの話だ?」

「あれ? だって、その。女の子って言ったから、せ、生理のことかと」

「じゃなくて」


 いくらなんでも幼児が生理とか、なんの冗談だよ。まだ何年も先の話だろ。

 俺でもさすがにその程度は分かるぞ。なんか噛み合わない。はっきり言った方がいいのか。


「だからな、乃愛と一緒に風呂入ると」

「あ」

「分かったか?」


 たぶん、とか言ってる。


「菅沢は?」

「しょ、正直に言うとね」


 多少は興味を示して、触ろうとしたこともあるとか。父親は基本、嫌がらないし、だからと言って触らせるわけじゃないとも。

 今は父親のなんて、見るのも触るのも嫌だからと。興味があるのは俺のだけで、俺以外のは要らないとか言ってるし。そこまでぶちまけなくても。


「じゃあ、興味を示すのって」

「普通、だと思う」

「乃愛が特別変態なわけじゃないと」

「たぶん、だけど」


 幼稚園児くらいだと、父親に限らず股間にタッチするくらいはある。そもそもなんでも触りたがる年齢。何にでも興味を示すのもあるから、じゃないかと。


「じゃあ、菅沢も幼稚園の時は、男子の触ってたのか?」

「さ、触ってない」

「本当か? 乃愛にそのうち握られそうなんだけど」

「あの、少し……触ってた」


 俺はどうなんだと、逆に問われた。男子同士でもタッチしてたんじゃないかって。

 確かに良く手が出てたな。なんでか知らんが、やたら股間に触れることは、多かったかもしれん。今は他の男子のなんて触る気無いけどな。


「あったな」

「でしょ。それが幼児だと普通だと思うから」

「そういうことか」

「妹とかお姉さんが居ないと分かんないよね」


 ただ、触ろうとする時に怒っちゃ駄目だと。菅沢の家では親に大切な場所だから、不用意に触れるものじゃないと、やんわり注意されていたらしい。

 怒ってしまうと逆に執着したり、いけないものとして認識し、のちのち影響が出ると教えてもらったんだそうだ。

 うちとは大違いだ。母さんは性教育だとか言ってたけど、やっぱりアホだ。


「今度、あたしが一緒に乃愛ちゃんと、お風呂入ってみるね」

「そうしてくれ。俺はそろそろ解放されたい」


 こんな話をしていたら、屋内型遊園地に着いたようだ。

 建物の三階に上がるとフロアの大半を使った、子ども向けの遊び場になっているようで、親子連れが多く来店してる。

 菅沢が俺を見て「親子に見えないよね」とか言ってる。確かに親子じゃ無いな。兄妹と思ってくれればいいけど。


 年会費とやらと遊び放題の三人分料金を支払う。その際に身分証の提示を求められたけど。今どきはセキュリティ云々で必要らしい。身分証とは言え学生証しか無いけどな。財布に入れておいて助かった。菅沢もバッグに入れてあったようだ。


「出してもらったけど、あたしの分は」

「いいよ。母さんが三人分って渡してくれてるし」


 あちらこちらから、幼児の嬌声が聞こえて、はしゃいでるのがよく分かる。幼児には絶好の遊び場のようだ。乃愛を見ると目が輝いてるし、俺の手を引いて遊びたがってるし。


「どれからやるか」

「いろいろあるんだね」


 なんて考えていると腕が引っ張られ、ARトランポリンなるものに。


「ぱぱぁ! これやりたい」


 なるほど、普通のトランポリンと違って、ゲーム感覚でできるのか。プロジェクターに表示されるCGはジャンプと連動してるのか。

 乃愛の手を離すと一目散に飛んで跳ねて、画面を見て歓声を上げてるし。


「楽しそうだね」

「そうだな」

「横倉君は一緒にやらないの?」

「俺が乗ったら壊れないか?」


 そんなに重いのか、と言われてもな。代わりに乃愛と距離を縮めるために、菅沢が遊べばいいと言ったら「じゃあ、一緒に遊んで来るね」とか言って、さっさと乃愛と並んで跳ねてるし。

 しばらく遊んでいると次へと目移りしてるようだ。


「じゃあ次はあっちのやろうか」

「うん!」


 場内を駆けまわって、ターザンロープとやらでぶら下がって遊んでるし。横倉が傍で落下した場合の支えになるよう、見てる感じだ。

 まあいい雰囲気だし、この調子なら乃愛も菅沢に馴染んでくれるかもな。

 終わると今度はデジタル広場なる場所で、ARアトラクションを楽しんでるし。

 菅沢まで童心に返って楽しんでそうだ。


「横倉君! 一緒に遊ぼうよ」

「ぱぱもいっしょー」


 引っ張り出された。

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